第24話 化け物だゾ
『おい、攻撃の前に合図しろよ!』
『……ぐぬぬ、悔しいゾ!』
凛の腕の中でもがくベンケイ。
「ちょ、くすぐったいからやめろって!」
笑いながら、凛はベンケイをひょいと離した。
勝つにはカウンター狙いしかないかな。こちらから仕掛けても通らないだろう。
そのとき、ガラガラ、と体育館の扉が開く。
ユウトと一緒に、カエデが入ってきた。 凛から「うっ……」という声が漏れる。
「リンリン、お疲れ様〜」
「カエデちゃん先輩……リンリンはちょっと……勘弁してくださいっす」
「え〜、可愛いのに〜」
「リンでいいっすから」
(優木リンリン。まるで国民的アニメが始まりそうな名前だな)
──新しい顔でも飛んでくるんじゃないか?
俺の心の中の失礼な連想に気づいたのか、凜がジト目で睨んできた。
「じゃ、改めて──リンちゃん、お疲れさま。ありがとね。準備できたよ〜」
「本当は気絶させてやるつもりだったんすけどね。意外とこいつ、やるんですよ」
おいおい……物騒なことをさらっと言うな。
「さ、一年。ついてこい」
準備ができた、か。
──今度は何をやらされるんだろう。
先輩たちに連れられて歩くと、キングの前に辿り着いた。そこには九条と望月の姿もあった。
「じゃあ、ポジベリをキングにくっつけてくれるか?」
望月に言われ、ポケットからポジベリを取り出す。
指先で押し当てると、石の表面がかすかに震え、次の瞬間──青白い光が走った。
ゲームのステータスウインドウのようなものが浮かびあがる。 淡い輝きがめぐり、やがて文字を形づくる。
倉田義経 1252 ⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚪︎
その下には三列の数字が浮かび上がった。 上から──5-1、5-2、5-2。
「名前の横の数字が今の経験値、その隣の黒丸がライフ、ゲームでいうヒットポイントだな。白いのは“失った命”だ」
望月が、いつもの淡々とした口調で説明する。
「白丸が一つってことは、一回死んだってことだな」
「はぁ……」
「で、その下の三列。上が今日の成績、真ん中が今回全体の成績、一番下が年間通算だ。ゲームっぽく言えば──今日は“五キル・一デス”って感じだ」
「……なるほど」
つまり昨日は一回殺されたから0-1だったわけか。納得……いや、納得したくはないけど。
「それにしても……随分な成績だな。昨日来たばかりというのに。リアルでもよく人を殺していたのか?」
「そ、そんなわけ──!」
思わず声が裏返る。
「冗談だよ」
望月は淡々と微笑む。口元は柔らかいが、目はまったく笑っていない。
勝手に動いた件、やっぱりまだ怒ってるんだろうか。冷ややかな視線がつらい。
「これで点呼には間に合ったね。今日のMVPは君だよ。さぁ、行こう、みんな待ってる」
九条が手を取り、そのまま駆け出す。
食堂に着くと、机の上にはずらりとたこ焼き器が並んでいた。なぜか「歓迎 倉田義経君」と達筆で書かれた横断幕まである。
……まるで昭和の慰安旅行だ。
「今日は君の歓迎会も兼ねて、恒例のたこパだ!」
たこパ……たこ焼きパーティーか。
だが具材の皿を覗くと──チーズやウインナーはわかるとして、その横にはチョコ、グミ、ワサビ。おい、これは闇鍋か? ユウトが妙にコソコソしてたのはこれだったらしい。
サプライズ歓迎会、ってわけか。
(ったく、俺がこういうの苦手だって知ってるくせに……)
でもまあ、悪い気はしない。
「今日は新入りのヨシツネくんの歓迎会だ。しかも昨日来たばかりの新入りが、今日の成績で“5キル”っていう脅威の数字を叩き出した。というわけで、今日のMVPはもちろんヨシツネくんだ!」
周囲から「おおー!」「マジかよ!」と驚きの声。
「いやぁ、初日でこれだけ人を殺……じゃなくて、戦果を上げるとは思わなかったよ。ちょっと可愛げがないくらいだぜ」
口元に笑みを浮かべ、視線はこちらの反応を楽しんでいる。
「というわけで、新しい仲間の加入と、これからの東陵の戦いに──乾杯!」
「かんぱーい!」
グラスが一斉に掲げられ、笑い声が弾けた。
「それじゃあ、君の席はここだ」
九条が案内してくれた椅子に、ひょっこりベンケイが現れて当然のように座る。
『オレも食べてみたいゾ!』
それを見た九条が、にこやかにベンケイの隣へ腰を下ろす。だが、ベンケイはすっと距離を取った。
「うぅ……ベンケイちゃん、一緒に食べようよ?」
わざとらしく目をぱちぱちさせ、うるうるした視線を送ってくる。
……そんな顔されてもなぁ。
『おい、ここは折れてやれ。さもないと食わせて貰えんぞ』
『ヌ……仕方ない、隣に座ってやるゾ』
満面の笑顔の九条のために、藍太郎がたこ焼きを作り始めた。
鉄板に油を引き、全体をコーティング。そこにタネを一気に流し込むと、香ばしい匂いが立ち上る。
タコを中央に配置し、ネギと紅しょうがを素早く散らす。串で生地をくるりと返す動きは、まるで熟練の剣士が舞うようだった。
炒飯のときも思ったが、この人、本当に料理スキル高い。しかもウサギ柄のエプロン──これは笑った方が良いやつなのか?
たこ焼きが焼き上がると、鉄板から空を舞って皿の上へと整列していく。
真田が豪快にソースを回しかけ、青のりを散らし、マヨネーズをジグザグに走らせた。
仕上げに九条が笑顔で「はい、あーん」とベンケイの口へ放り込む。
──完璧な連携プレー。
『うむ、うまいゾ!』
(ってお前が最初に食べるんかい!)
気づけばユウトが隣に座っていた。
「今日はお疲れ」
ジュースで乾杯する。
他のテーブルでも、たこ焼きパーティーが賑やかに進行中だ。ありがたいことに、このテーブルにはチョコやグミの地雷はなかった。
結局、最初に焼き上がった第一陣は、ほとんどベンケイが平らげてしまった。
『……もういらナイ』
そう言うなり、影の中へすっと消えていく。
まあ、二十個は食ったからな、お前。
消えたベンケイを見て、九条がショックを受けた子供みたいな顔になっている。
「……なんか、もうお腹いっぱいみたいです」
慌ててフォローを入れると、先輩はため息をついて微笑んだ。
「仕方ない……さぁ、僕らも食べようぜ」
竹串をくるくると回し、たこ焼きを刺して食べ始める。
『なぁ、なんで九条先輩のこと、そんなに避けるんだ?』
『んア? コイツは“化け物”だゾ』
『化け物……?』




