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サマー・ロスト 剣を捨てた無気力少年、負けたら「存在消滅」のデスゲームで覚醒する。  作者: うにまる
一章

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第23話 激突、手加減無用の模擬戦

 コンビニの自動ドアは反応してないようで、半開きのままだ。誰かがすでに入ったのだろう。


「……やっぱり違和感あるな。電気のついてないコンビニって。これ、腐ったりしてないの?」


 棚には弁当、パン、飲料──どれも普通のコンビニ商品がそのまま並んでいる。羊羹だけは空になっていた。


「二、三日なら大丈夫でしょ。賞味期限が切れたからって、即腐るわけでもないし」


「まぁ、そうだろうけど……期限切れ弁当を率先して食べたくはないな」


「今日は真田班でご飯作るから、弁当とかは食べないでね」


 その声に、少し身構える。


(……お残ししたら、何かされそうだ)


「そっか。じゃあ飲み物だけでいいかな」


 適当に“新発売”と書かれたジュースを手に取る。どうやら杏仁豆腐味らしい。


「日用品は大丈夫そう?」


「うーん、どうだろ?」


 日用品の棚をなんとなく眺めていると、クローゼットに掛けるタイプの除湿剤が目に入った。


──水分を取るやつ、か。


「そういや、今日スライム状の女と戦ったんだけどさ、切ってもすぐくっついちゃって。何かいい方法あると思うか?」


 俺は除湿剤を手に取りながら話を振る。水分をどうにかすれば、いける気がするんだけどな。


黎明れいめいにいるやつでしょ? うーん……望月さんとかに相談してみようか?」


「いままではどうしてたんだ?」


「俺が爆破させるとか、雷人さんが感電させるとか、真田さんが殴る」


 能力の相性ってやつか。刀じゃどうしようもないのかもな。

 一人おかしい対処法がいるみたいだけど、聞かなかったことにしよう。


 外から六時のメロディが流れた。


「お、今日は終わりだね」


 普段使ってる日用品をいくつか手にコンビニを出て学校に戻る。


「一度校内に入ると明日まで出られないけど、必要なものとか大丈夫?」


「ああ。ベンケイは大丈夫か?」


『早く梅干し味のお菓子食べたいゾ』


「大丈夫だってさ。ちなみに、このまま校内に戻らないでエリアに残るのは可能なの?」


「残れるけど七時以降は学校に入れなくなるよ」


「ふーん」


「七時にキングの点呼があるんだ。点呼以降は生徒でも出入り禁止だよ」


 話しながら歩いていると、途中で凛がいた。


「おっ」


 こちらに気づいたようだ。


「ヨシツネって言ったな? ちょっと付き合えよ。ユウトも来い」


 どうやら、俺たちを待っていたらしい。

 何かやらかしたか?


 ユウトを見ると、「さぁ?」という顔。思い当たる節はないらしい。


 裏口を抜け、そのまま体育館へと案内される。

 入り口前で、なぜかユウトが「スポドリかなんか持ってきてくれ」とパシらされ、俺と先輩の二人きりになった。


……なんだ、この展開。嫌な予感しかしない。


「よっし、模擬戦するぞ!」


 唐突すぎる宣言に思わず目を瞬かせる。

 この学校の先輩たちは、どうにも心の準備というものをさせてくれないらしい。


「ワタシも近接格闘系だからな。明日からは並んで戦うことになる」


 そう言ってニヤリと笑う。


「だから──お前の実力を、見ておきたかったんだよ」


 なるほど、そういうことなら願ったりだ。俺も刀を振るときに間合いを乱されたくないし、逆に俺も先輩の動きを見極めておく必要がある。


『ベンケイって竹刀も出せるのか?』


『出せるゾ』


 影から竹刀が現れる。長さはいつもの刀とほぼ同じだ。


「刀を使っていいんですよね?」


「もちろんだ。普段のスタイルでいい」


 赤い指あきグローブをつけた凛が軽く手首を回す。準備運動の動きは軽快で、しなやかな格闘家の雰囲気を際立たせていた。


 動くたびにスカートの裾が揺れ、軽やかに跳ねるような身のこなしが、そのまま俊敏さを物語っている。


「武器は使わないんですか?」


「ああ、ワタシは蹴りが主体だ」


「えっと……その格好で大丈夫です?」


「スパッツ履いてるから大丈夫だよ」


 スカートのこともそうだが、防具は……大丈夫なのか?


 竹刀でも下手したら大怪我するぞ。


「いや、怪我とか……」


 俺の忠告を無視して、凛はトントンと軽くジャンプ。目をまっすぐ俺に向け、拳を構えた。


 仕方なく、こちらも構えを取り、息を整える。


「行くぞ」


 その声と同時に、凛が視界から消えた。  


──は? 消えた?


 次の瞬間、風が耳をかすめる。


「くっ……!」


 咄嗟に身をひねる。頬をかすめる鋭い蹴りの軌跡。


「へぇ、よく避けたな」


 凛は元の位置に戻り、トントンとリズムを取りながら立っていた。


「怪我の心配してたな? キングまでは連れてってやるから安心しろよ」


 悪戯を仕掛ける子供みたいな顔。思わず身構える。

 目を逸らす暇もなく、凛が再び消えた。


 だが今回は、消える前の足の向きを捉えた。  

──左から来る。


 足の向きから判断し、右に半歩避ける。竹刀を振り上げ、飛んできた蹴りを受け止めた。


「なっ?」


 腕に衝撃は伝わるが、凛の体は軽く、小柄な分だけ威力は控えめ。それでも、ノーガードなら大ダメージだっただろう。


 すぐに薙ぎ払うが、軽やかに後方へ下がられる。


 凛は少し考える素振りを見せた後、また消えた。


 右──視線で追う。さらに右。まわれ右で後ろを向くと、凛は呆れた顔で立っていた。


「お前、それ、能力か?」


 どうやらもう蹴りは来ないらしい。


『ベンケイ、出てきてくれるか?』


 影からベンケイがゆっくりと姿を現す。


「俺の能力は、こいつと──こいつが刀を出してくれるって感じです」


「じゃあ純粋に動体視力が良いのか。なんかスポーツやってたのか?」


「剣道を少々」


「少々ってレベルじゃねーぞ」


 凛はくすりと笑って首をかしげる。


『オレも戦いたいゾ』


 ベンケイは先輩に向かって静かにシャドーボクシングを始めた。


「おっ、お前もやる気か?」


 凛は笑いながらベンケイの頭をぽんぽんと叩く。


「ワタシの能力は風を使ってる。今はスピード強化だけだけどな。実際は足にも纏わせて、蹴ると同時に切る」


 なるほど。それなら竹刀では防ぎきれない。刀ならまだしも。  


……最初の頬を掠めた蹴りだけで、決着がついてたかもしれないな。


「お前もこのトカゲと一緒に戦うんだろ?」


『ベンケイだ!』


「そうですね。ちなみにコイツの名前はベンケイです」


「ん? そうなのか?」


 凛は首を傾げてベンケイを見つめる。敵意というより、好奇心のある目。珍しい生き物を観察するような眼差しだった。


「……まあいい」


 そう呟いて笑う。


「つまり、模擬戦じゃお互い本気は出せねぇなって話だ」


 確かにその通りだ。本気を出せば──どちらかが死ぬ。


 だが、あの速度で移動できるなら……俺の速さにも対応できるんだろうか?


「ちなみに先輩は、俺の攻撃を避けられますか?」


「もし、さっきの速度が全力だとしたら──余裕だな」


「なるほど。それじゃ……」


 間合いを詰め、全力で胴を狙う。

 だが、凛はひらりと後方へ下がり、ギリギリでかわした。


『おしいナ!』


『……違う、わざとだ』


 完全に見切られている。

 俺は相手の動きを「予測」で追ってるだけだが、先輩は確実に「捉えて」いる。


「な?」


 余裕たっぷりのポーズを見せつける凛。


「はい、正直驚きました」


──やっぱり。


 この速度を正確に読むのは、おそらく目だけじゃない。能力は風。俺が攻撃に移る瞬間の“風の動き”を感じ取ってるんじゃないだろうか?


「ベンケイと二人でやってみてもいいですか?」


「ああ、いいぜ」


『お、いいのカ?』


『怪我させないようにな、爪は使うなよ』


『わかってル!』


 言うや否や、ベンケイが影から飛び出し蹴りかかる。

 俺もワンテンポ遅れて慌てて足を狙って切りかかる。


『ムッ?』


 気づけばベンケイはぬいぐるみのように片手で抱き留められ、俺の竹刀は足で踏みつけられていた。


「参りました」


「よろしい」


 凛は嬉しそうに笑う。


 これじゃタイミングを合わせても無意味か。とはいえ──ベンケイとの連携はもっと磨く必要がありそうだ。


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