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サマー・ロスト 剣を捨てた無気力少年、負けたら「存在消滅」のデスゲームで覚醒する。  作者: うにまる
一章

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第21話 ベンケイの宝物

 駄菓子屋はすぐ近くだった。そういえば、ここにあったな。完全に存在を忘れていた。 だが、記憶の中のそれとはだいぶ違っている。


 外壁は鮮やかな黄色に塗り替えられ、中央には力強い黒文字で〈つむぎ屋〉と書かれた堂々たる看板が掲げられていた。


 最後に駄菓子屋へ来たのはいつだったか。もう思い出せないほど昔だ。かつては待ち合わせの基地であり、小腹を満たす食堂であり、装備を調達する武器屋であり……子供時代の小さな拠点だった。


 白いドアを押し開けると、チリン、と澄んだ鈴の音が鳴る。足元は明るい木目調のフロア。高い天井、温もりある木材の壁。


  外からの印象以上に、店内は明るく開放的だった。大きな窓から差し込む陽光が空間を満たし、清潔で爽やかな空気を感じさせる。


 こんなにリフォームされていたのか。……今どきの駄菓子屋って、ここまで洗練されているんだな。


 だが主役は、やはり駄菓子たちだ。壁際に並ぶ木製の棚やガラスケースには、カラフルなラムネやスナック菓子、懐かしのアメ玉、さらには小物のおもちゃや雑貨まで。


 所狭しと詰め込まれながらも、どこか整然と並んでいる。派手なパッケージがこれでもかと主張し、キラキラと輝いていた。


 このカオス感──それだけは昔と変わらない。 新しさと懐かしさが絶妙に混じり合う、不思議な感覚が俺を包み込む。


 プラスチック製の忍者刀が目に入った。 懐かしい……生まれて初めて手にした刀は確かこれだった。思わず手に取り、軽く構えてみる。


 すぐに恥ずかしくなり、棚にそっと戻す。


「これがおすすめで、こっちは結構酸っぱめ、あっちは蜂蜜梅で食べやすいよ。あ、あとこれも!」


 矢継ぎ早に説明しながら、ベンケイの前の籠に梅干し味のお菓子が次々と積まれていく。ベンケイの目は、もはや輝きを通り越している。


『コイツ、実に働き者だ。気に入ったゾ。ヨシツネも見習エ』


『コイツじゃなくて河合夢かわいゆめさん、な。お前の為にやってくれてるんだから、ちゃんと感謝の気持ちを伝えるんだぞ』


『それもそうダ』


 バタバタと梅干し味のお菓子をかき集めて走り回るユメ。その前に、ぴょんと飛び出したベンケイが進路をふさぐように立ち止まり、ペコリと頭を下げた。


「ありがとうございます、だってさ」


「えっ……ちょっと可愛すぎない?」


 それにしても、こちらが面食らうほど的確に勧めてくる。まるで目の前で通販番組でも始まったかのようだ。


「もしかして……全部の商品、食べたことあるの?」


「そうなのよー! こっちに来てから歯止めきかなくってさ」


 そう言いながら、ユメはベンケイのカゴに梅干し味のお菓子を投げ入れるついでに、自分の分までちゃっかり確保していた。


「これで完璧! 梅干し尽くしセット!」


 胸を張るユメ。ベンケイがカゴを大切そうに抱きしめ、うっとりした顔をしている。


(……まるで宝箱を守るドラゴンだな)


 内心ツッコミを入れていると、ユメがふとこちらを振り向く。


「そういえば、こんなのもあるよ。酸っぱすぎるけど、食べてみる?」


 ユメがにやりと笑い、梅干しの宇宙人が描かれた怪しげなパッケージを取り出す。『スーパーすっぱMAXパンチ』と書かれていた。


「いや、これは絶対やばいやつだろ……」


 だってパッケージに『酸っぱすぎ注意!』とか『酸っぱさに自信のない方はご遠慮ください』とか、色々書かれている。


「新しい出会いは大切だよ!」


 押し切られる形で、俺は一袋を手に取った。  ベンケイがすかさず手を伸ばす。


『オレにもクレ!』


「……知らないぞ?」


 仕方なくベンケイに一つ食べさせ、俺も口に放り込む。次の瞬間──


「っ……すっ……!」


 口の中がキュッと締め付けられるように酸っぱい。これ本当に俺の味覚か?  慌ててベンケイを見ると、頬をふくらませて目を細め、まるで酸の衝撃に耐えているかのようだった。


『スッパァァァァァイ!!』


 ユメは腹を抱えて笑い転げる。


「二人とも、顔おんなじ! あははは!」


 これは子供向けじゃないだろ、何考えてんだこのメーカー。  


 裏を見れば「お子様には食べさせないでください」と注意書きがあった。  トカゲにも食べさせちゃダメだな。


 時計を見るともうすぐ四時になる。真田班も戻ってくる頃合いだろう。


 駄菓子屋を出て外に出ると、傾き始めた午後の光が街を包み、ほんのり温かい色を落としていた。長い影が少しずつ伸び、柔らかい空気を作り出す。


「さあ、帰ろうか」


 ユメが歩き出す。俺もベンケイも後に続いた。


 模型店に戻ると、まだ誰も帰ってきてはいなかった。 車にお菓子を積み込んだあと、店内へ入る。


 ネムルは奥でぐっすり眠っている。敵襲の気配はなさそうだ。 藍太郎は一人、静かに本を読んでいた。


「ああ、おかえりなさい。お目当てのものは見つかりましたか?」


 俺たちに気づいた藍太郎は、栞を挟んで本を閉じる。


「ええ、満足しているようです」


『約束通り、少しずつ食べるゾ!』


『ああ、そうしてくれ。どうやら朝まで学校からは出られないらしいからな』


 ベンケイは得意げに胸を張っている。


「私も満足です」


 ユメもかなりの量を調達していたが、一人で食べるつもりなのだろうか。


「ところで先輩、何の本を読んでいるんですか?」


 ユメが好奇心いっぱいに尋ねる。  藍太郎は少し照れくさそうに笑い、ページをめくった。


「プラモデルの歴史についてですね。目に留まったので、なんとなく読んでみたんです。戦車や飛行機の模型がどう発展してきたのか、意外と面白くて……。私はあまりこういう遊びをしたことがなかったので、少し興味が湧いてきまして」


 凝り性っぽいからな、ハマったら凄いものを作りそうだ。


「こっちで作っても、持って帰れないですからね。現実に戻ったらやってみようと思います」


 ユメは首をかしげ、ページをのぞき込みながら少し考え込むような顔をした。


「ふーん……私はあんまりピンとこないけど……でも、新しいことに挑戦するのはいいことだと思います!」


 藍太郎は照れくさそうに苦笑しながらページをめくる。  確かに、新しいことに挑戦するのは良いことだ。


 ……俺も明日から、朝早く起きて走り込みでもしてみるか。そういえば運転の練習もしなきゃならない。それに、他の能力者とも一度手合わせしてみたい。


 まずはダイゴのマネキンを倒せるようになるのが目標か。模擬戦とか、できるんだろうか。スライム女の対処法だって考えておかないといけなかったな──意外と課題は山積みだ。


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