第19話 救援、駆けつける影
「おい」
ネムルの声と同時に枕が落ちてくる。 反射的にスパッと斬り払った。
ネムルは目を丸くする。
「お前、動体視力良すぎだろ?どうなってんだ?」
俺を試したのか。
「ほんとすごいね。首も腕もスパスパって」
ユメも感心してくる。 ……殺人鬼みたいに言わないでくれ。
そこへ藍太郎が興奮気味に駆け下りてきた。
「ヨシツネくん、すごいな君は!」
『そうだロ!』
なぜお前がドヤる、ベンケイ。まあ、いつの間にか二人も倒してたのはびっくりしたが。
「すまないけど、そのまま真田班のフォローを頼めるかな?」
藍太郎が肩で息をしながら言う。 階段の登り降りがきつかったんだろう。全力で疲れきっている、そんな様子だ。
「ちなみに僕の能力は十分に一度しか使えません。おまけに身体能力は並以下。つまり足手まといです」
正直に言い過ぎだろ、この人。堂々と弱みをさらされ、うなずくしかない。
「了解です」
ちょうどユウトのことも心配だったし、理由をもらえたのはありがたい。
「東町公園付近で戦闘中とのことなんですけど……」
「東町……?」
正直、ピンとこない。俺は学校と家の往復くらいしかしてないんだ。公園の名前までは覚えてない。
「恐竜の滑り台あるとこ」
ユメがさりげなく補足してくれる。
「ああ、あそこか!」
一気に映像が頭に浮かぶ。
子どもの頃に何度か行った覚えがある。やたらと牙の鋭い恐竜の口から滑り降りる、ちょっとしたトラウマだ。なんで子ども向け遊具なのに、あんなリアルな造形にしたんだろう……
二キロ程度か?走れば五分。場所はわかった。
「じゃ、行ってきます!」
『行くゾ!』
刀とベンケイを影にしまい、皆に手を振り勢いよく走り出す。
……が、三分も経たずに息が切れた。 肺が悲鳴を上げる。
「はぁっ……はぁっ……!」
そうだ、俺は帰宅部だった。毎日の鍛錬なんて一切してない。どうする? いっそ戻って「車で送ってください」って頼むか? いや、それはさすがに恥ずかしすぎる。
仕方なく、とぼとぼと歩き出す。だって疲れてるんだもん。
影の中からベンケイが無表情でこちらを覗いてくる。 その目はやめろ。大体、不公平だよ。変われ。
残り一キロくらいだろうか。
公園の方を見ると雷鳴と共に、巨大なひまわりが咲き誇っていた。
(おお、綺麗だな。でも、ひまわりでどうやって戦うんだろう?)
まあいいや。ゆっくり行こう。ひまわりと戦えって言われても、よくわからないし。 それに、全力疾走して敵に会った時に息が切れてたら本末転倒だしな。
そんな風に考えながら歩いているうちに、公園に着いた。
……誰もいない。さっきのひまわりは影も形もなく消えている。 うーむ、参ったな。また戻るのか? 携帯が使えないのがこんなに不便だとは。
『向こうに誰かいるゾ』
ベンケイの声に促されて駐車場を見ると、ユウトの姿があった。
「おーい!」
声をかける。
ユウトは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐ仲間と何か言葉を交わし、こちらへ走ってきた。
「こっちは三人やられたけど、なんとか追い払ったところ。そっちは?」
「六人来たけど、四人仕留めたら残りは逃げてった。死者はなし」
ユウトの問いに答える。
「……なるほど。別働隊が潰されたから引いたってわけかな。長谷川班のおかげだね」
そんな会話を交わしながら、駐車場にいる仲間のもとへ向かう。
「やっぱり、別働隊を倒してくれたみたいです」
ユウトが報告する。
「そうか。よくやってくれたな」
雷人が短く褒めてくれる。
あれ? 情報が共有されてない?
「真田さんがやられてしまってな。ひとまず模型店に戻ろうと車を調達してるところだ。──長谷川は無事か?」
こくんと頷く。 やっぱりデバイス持ちが倒れると、情報伝達が途切れて混乱する。班長は優先的に守らないとだな。
「この車とあっちの赤い車が動かせそうです」
一年の女の子が声をかけてきた。鍵のかかった車を探していたらしい。
「ヨシツネはやっぱり近接戦闘タイプだったか?」
雷人が確認してくる。
「そうですね、刀で切る感じで」
ふむ、と雷人が考える。
「よし、それじゃ二手に分かれるぞ。お前らはヨシツネと南東のルークへ。長谷川の指示に従ってくれ。俺は一度学校に戻り、真田さんと合流する」
「戻った奴に遠距離攻撃できる奴がいないからな。エリア内は大丈夫だろうが、念のためだ」
雷人は強気な物言いをするのに、判断は妙に慎重だ。
車に乗り込む。昨日ぶりにユウトの隣に座る形になり、後部座席には女子生徒が腰掛けた。
「無事でよかったよ」
ユウトが安堵の表情を見せる。ライフがあるとはいえ、死なないに越したことはない。
「そっちも大変だったみたいだな」
ユウトは苦笑しながら肩をすくめる。
「相手が真田さんを集中攻撃してさ。真田さんでも無理だったみたいだ。……それでも三人は倒してたから流石だけど」
昨日と同じ配置なことに気付いて俺は苦笑いした。
「さすがに今日は急に殺されないよな?」
昨日の死にざまを思い出す。訳もわからないうちに死を経験した昨日。
「今日は?」
後部座席の女子生徒がひょいと会話に割り込んできた。
「あ、そうだ。紹介するよ」
ユウトが振り返る。
「七瀬さん。こいつはヨシツネ。俺の幼なじみ」
「七瀬 希乃です。よろしくね」
軽く会釈をしながら柔らかい笑みを浮かべる。肩までの栗色の髪は軽く結ばれ、跳ねた毛先が元気さを添えていた。
「倉田義経です。よろしく」
俺も思わず背筋を伸ばして返す。
「昨日、ヨシツネは初めてこっちに来たんだけど、学校に戻る時にいきなり殺されちゃってさ」
苦笑いしながら、ユウトが話す。
「そっか、私も最初は訳もわからず殺されてたなー」
笑うノノ。表情からは自然な明るさがにじみ出ていて、初対面でも安心感を与える雰囲気だ。話してる内容は物騒極まりないけど。
「それにしても、歩いてきたってことは、そんなに早くけりがついたの?」
ユウトが不思議そうに問いかけてくる。
「あー、俺が二人切って、気付いたらベンケイが二人倒してた」
「ベンケイ?」
ノノが首を傾げる。
『ベンケイ、出てきてくれるか?』
『ハイハイ……』
もうすっかり板についたやりとりだ。
ベンケイは影からひょいっと現れて、俺の膝の上にちょこんと座った。
「恐竜……?」
「いや、たぶんトカゲ……だと思う」
『ベンケイはベンケイダ』
はいはい、そうだね。
「ちょっと待て、ってことは一人で全員倒したのか!?」
ユウトが目を丸くする。
「いやいや、だから二人逃げたんだって。それに先輩たちのサポートも当然あったぞ」
逃したのは残念である。スライム女の対処法も考えないとな。次に一対一で会ったらどうしよう。
「なんとなく、現場の光景が目に浮かんだよ」
ユウトが呆れ半分に肩をすくめる。




