第18話 閃光の裁き、下される鉄槌
ユウトが真っ先に店を飛び出した。
「至福のデザートタイムなのに……!」
ユメが怒りをにじませながら、その背を追った。
「そういう能力なのか?」
俺も後を追い、店を出ながらネムルに話しかける。
「ああ……自分の出した枕で寝ると予知夢が見れる」
予知か。面白いスキルだな。
「どっちだ?」
ユウトに連れられた真田がネムルに尋ねる。
「確認できたのは東と南から二手、東が多いです」
「よし、東は俺たちで対処する。長谷川班はルークを守れ」
言うやいなや、真田たちは東に向かって駆け出した。
ルークの半径五百メートルに敵が近づけば、キングが感知する。 そうすれば校内組からデバイスに連絡が来て、俺たちにも伝達される。しかしタイムラグは避けられない。 そんな中、迎撃準備を整えられるネムルのスキルは貴重なのだろう。
「十五人って言ったか?」
ネムルに尋ねる。 明らかに不利だ。
「ああ、多分な。こっちは人数少ない上に、優木先輩がビショップになったのも痛いな」
ネムルがめんどくさそうに応える。
模型店の屋上にルークがあり、藍太郎が屋上、店の入り口にはユメ。 俺とネムルは数メートル南側に陣取る。
「きましたよ、東から十人」
屋上から藍太郎の声が聞こえた。デバイスに連絡が来たのだろう。 六対十、明らかに不利だが、ユウトは大丈夫だろうか?
「南から六人、きますよ」
こっちはこっちで四対六か。泣けてくるね。しかも予測より一人増えてるじゃないか。
『任せロ!』
ベンケイの勇ましい声が響く。 そうだな、五対六だったな。影から出てきたベンケイが最前列に立つ。やる気満々だ。
ベンケイを見て覚悟が決まった。最初に視界に入った三人、最低でも三人は道連れにしてやる。
刀を握り居合の形をとる。実は居合なんてやったことはないが、覚悟を決めれば自然と体に馴染む気がした。
「私の射程は十二メートルくらいだから、あんまり離れすぎないでね!」
ユメの声が聞こえる。
数分もしないうちに、四人の黎明生が姿を現した。
「お、当たりだ」
真っ直ぐこちらへ歩いてくるのは、さっきのドローン使いのイヌカイと鞭使いのレンカ。そして背の高い男と筋肉質の男だ。残りの二人は見えない。隠れているらしい。 四人同時に視界に入るとはね。さて、どうするか。
「ホムラ先輩、あいつですよ。新しいやつ」
「ふーん、刀使いか……で、トカゲ使いはどこに隠れてんだ?」
イヌカイに声をかけられた背の高いホムラという男は、周囲を警戒するように視線を巡らせる。態度からしてリーダー格か。
よし、背の高いやつとドローン使い、それに鞭使い──この三人だけを相打ち覚悟で仕留めよう。
覚悟を決めた瞬間、刀が自分の身体と一体化したように軽く感じられた。 距離は二十メートルほど。先に攻撃を受けて何もできずに倒れるなんて展開はごめんだな。あと数歩近づいたら行く。刀を握る手に力がこもる。
「ヨシツネ、まだ動くな。長谷川先輩の能力が発動する」
ネムルが小声で制した。
「そういうのは、もっと早く言ってくれ」
──次の瞬間。
屋上の藍太郎が両腕を高らかに広げると、半透明の光が辺りを覆った。 空気が重く沈み、まるで法廷に立たされているような威圧感が走る。
「罪状:不法侵入!判決:禁固3分!」
宣告と同時に、敵の周囲に光文字が浮かび上がり、四人の動きがぎこちなく硬直した。
すでに何度かこの裁定を受けているのだろう。
「またこれかよ……!」
敵から苛立ちを吐き出す声。だが藍太郎の瞳は微動だにしない。
「九条先輩に逆らう愚か者ども……死で償いなさい」
白い羽根が舞い散り、藍太郎がまるで天使のように神々しい。
「さぁヨシツネくん。首を刎ねて差し上げなさい」
あ、俺がやるんだ。まるで先の副将軍とその護衛だな。随分命令は過激だけど。
でも命じられた以上、走り出すしかなかった。
ドローンが唸りを上げて突っ込んでくる。なるほど、本体は止めれても能力は止められないわけだ。 鞘から抜くと同時に一機を斬り払う。枕と綿飴が舞い、頭上をガードしてくれた。
「背の高いやつを狙え!」
ネムルの声が飛ぶ。言われなくてもこいつが頭だ、最初に取る。
よし──もらった。避ける暇はない。 刃が閃き、相手の首を断ち切る……はずだった。
切ったはずの首がスライムのように変形し、切断面が粘液のようにくっついていく。
「なっ……」
「そりゃ対策くらいするわな」
勝ち誇るイヌカイ、体は動かせなくとも口は動くらしい。 よく見ると、背の高いリーダー格の男の姿は消えており、スライム状の女が代わりに立っていた。
入れ替わったのか、それとも最初から変装していたのか──それとも、後方にいた二人の仕業か?
なら──。
返す刀で数メートル横にいた鞭使いの腹を突き刺す。確かな手応え。相手は光に包まれて消えた。まず一人。
「嘘だろ…!」
続けざまに驚いてるイヌカイへと向かうが、スライム女が割り込み、動けない二人の仲間を守る。
「あと一分だ!」
藍太郎の声が響く。もしかして、あのポーズのまま動けないのか?
このスライム女は厄介だ。勝ち負け以前に倒すイメージが湧かない。どうにか近づけないかと思案していると、後ろにいた筋肉質の男が宙を舞った。足元には綿飴──近づけなかったが、近づいてきてくれるなら。
迫る体を一閃、すぱっと両断。光の粒となって消え去る。二人目。
「くっ!」
スライム女が悔しげに叫ぶ。スライム状の腕が振り下ろされる。だが動きは鈍重で、容易に切り払えた。この速度なら当たりようがない。──が、こちらも切っても無駄だ。どうするか。
その時、敵を縛っていた光の輪が揺らぎ、ひび割れるように砕け散った。
「……時間切れか」
俺がそうつぶやくと、解放されたイヌカイが素早く距離を取る。
「チャンスは終わりだ」
イヌカイが勝ち誇った笑みを浮かべ振り返る。しかし振り返ったその先に仲間の姿はなく、思わず声を裏返す。
「あれぇ……?」
代わりに現れたのは、静かに歩み出るベンケイただ一人。
『言われた通り背の高いやつと、もう一人いたからついでに倒しといたゾ』
残されたのはスライム女とイヌカイ。 一瞬で状況を理解したのか、二人は顔を見合わせる。
「引くぞ、シズク」
イヌカイは舌打ちするとドローンを盾にしながら姿を消す。シズクと呼ばれた女もそれに続き、身体をどろりと崩しながら撤退していった。
気づけば、辺りに残るのは光と消えた敵の残滓、そして綿飴や白い羽毛が舞う不思議な光景だけだった。
俺は大きく息を吐き、刀を鞘に収める。
──逃げられたとはいえ、こちらの勝利であることに変わりはない。




