第16話 本物の炒飯
ベンケイがコンビニのビニール袋を漁り、梅干し味のポテトチップをムシャムシャ食べ始める。 香ばしい匂いが車内に広がった。
「そろそろ昼飯時か、腹減ってきたな」
「とりあえず合流が先」
ネムルのぼやきにユメがピシャリと釘を刺す。
「へいへい」
ネムルはすっかり尻に敷かれている様子だ。
「そういや、さっきの連携は上手くいったな。俺が相手の攻撃を止めて、ユメが援護を封じ、ヨシツネが相打ち覚悟で突っ込む」
ネムルが自画自賛する。 ……相打ち覚悟っておい。
「ネムル、止めきれてなかったでしょ……」
ユメが額に手を当てる。
「今さらだけどさ、ネムルとユメって、なんかお似合いだな」
二人がえへへと照れ笑いを浮かべる姿は、まぶしいほどだった。
「で、この子の名前はベンケイちゃん、だよね?」
「ヨシツネとベンケイ。そっちもいいコンビじゃねぇか」
いや、こっちはトカゲだし。笑うに笑えん。
『えへヘ』
お前が照れるのかい。
ベンケイを見ると、笑いながらポテチを食べていて、口からこぼしている。
「お前、こぼしすぎだろ……ごめん」
ユメの膝の上は、すっかりポテチまみれになっていた。
「全然大丈夫だよー」
『全然大丈夫ダ!』
だからお前が言うなっての。
ルークが設置されている模型屋の近くに着くと、ユウトがこちらに気づき、手を振ってきた。 車を止め、全員が降りる。
「お疲れ様。こっちはなんとか撃退したよ。真田さんたちも、もうすぐ戻ってくると思う」
その言葉どおり、しばらくして仲間たちがぞろぞろと集まってきた。 ビショップの凛を除いた真田班、長谷川班、攻撃組合わせて十人。
「よし、予定通りルークを破壊した。ご苦労。午後はさらに侵攻するぞ」
真田のねぎらいが響く。
「さて、それでは昼食は私たちの班で用意しましょう。皆さんはここら辺にいてください」
藍太郎の一言に、全員がピクリと反応する。
「頼めるか……?」
「ええ、任せてください」
真田の依頼にこたえる藍太郎のメガネが怪しく光った。 彼に続き、二軒隣の「福来軒」と書かれた中華料理店に入る。
「さて……と。何にしましょうか」
寿司職人のようなことを言い出す藍太郎。
「って、ここに入ったってことはアレでしょう?」
ネムルがニヤリと笑う。
すでにユメは手際よく食材を並べていた。
「フフ、仕方ありませんね。ネムルくん、どれほど上達したか見せてもらいますよ」
藍太郎が腕まくりをして中華包丁を構える。 ネムルの喉がごくりと鳴る。一体何が始まるんだ……。
「ヨシツネくん、いいですか。我が班には炒飯技術の取得を義務づけています」
「ちゃーはんぎじゅつ」
呆気に取られている間に、にんじん、ピーマン、ナルト、チャーシュー、玉ねぎ、しいたけ、卵……机の上が食材で埋め尽くされていく。
「お米は足りそうです」
炊飯器を覗き込むユメの報告に、藍太郎は無言で頷く。
「今日は見学でも構いません。包丁は扱えますか?」
「一応、それなりには」
「上出来です。できそうなら野菜カットを手伝ってください。なにせ十人前ですからね」
藍太郎とネムルが息を合わせて野菜を切る。 にんじんとピーマンは角切り、ナルトは短冊、チャーシューは小さなサイコロ状。 見ているだけでリズムを感じるほどの手際だ。
これは……割って入れそうにないな。
ユメが「こっちこっち」と手招きするので、俺とベンケイはカウンター席に座った。
鉄鍋が火にかけられ、ゴォッという音とともに炎が立ち上る。
「火力。大切なのは火力です……料理は火力が八割」
藍太郎が呟き、鍋の温度を見極める。
「ここです!」
メガネが光り、油が注がれた。 すぐに卵を割り入れ、ジュワァッと広がる香り。 半熟のうちにご飯をかぶせ、木ベラで切るようにほぐしていく。
「米一粒一粒をコーティングしてあげます」
その声に無駄がない。
刻んだチャーシュー、にんじん、ピーマン、ナルトが投入され、彩りと香ばしさが一気に広がった。
「ここのチャーシュー、美味いんだよな」
ネムルがつまみ食いしようとした瞬間、藍太郎が睨む。
「つまみ食いするな」
「へーい」
「味付けは控えめでいいんだ」
藍太郎が塩と少量の調味料で下味をつけ、いったん火を止める。 もう一方の鍋で、野菜をふんだんに入れて五目あんを作り出す。
鶏ガラスープの香りが立ち上り、しいたけ、たけのこ、白菜、ピーマンが次々に沈む。
「炒めすぎ注意。野菜はシャキシャキ感を残すのが大切です」
水溶き片栗粉を流し込むと、艶やかなあんが完成した。
「これで全ての味を一つにまとめる」
藍太郎がパラパラに仕上げた炒飯を皿に盛り、その上に黄金色の五目あんをたっぷりとかけた。 仕上げに紅生姜を添えて──見事な一皿が完成する。
「これが長谷川飯」
「はせがわはん」
呆気に取られていると、ネムルがスープとスプーンを差し出してきた。
「食べてくれ」
そう言うと、二人は再び厨房へ戻っていった。
……え、俺が一番に食べていいのか?
隣のユメが「まぁ、いいんじゃない?」と笑う。 恐る恐るスプーンを口に運ぶ。
「……ッ」
口いっぱいに広がる旨味。美味い、いや、美味いという次元を超えている。
何だ、これは……宝石箱か?
まず熱々の油に焼けた米の香ばしさが立ちのぼり、そこへチャーシューの肉汁が重なって舌を打つ。シャキシャキした野菜が歯ざわりを添え、最後に五目あんがとろりと絡んで、全ての味をひとつにまとめ上げた。
これが料理の四重奏ッ!
一口ごとに主役が入れ替わり、気づけば俺の舌は戦場どころか祝祭会場。 気づけば口内フェスティバル、テンションは最高潮。 中華の時代は始まったばかり。本物の炒飯が、ここにあるのだ。
……スプーンが止まらない。
「美味しいよね」
ユメがニヤリと笑う。
「こんな美味い飯、初めてかも……」
『オレも食いたいゾ!』
ベンケイがぴょんと跳ねて催促するので、皿の端を少し分けてやる。
『おお、ウマいナ!コレ!』
梅干し以外も食べられるのか……。 栄養バランス、考えた方がいいかもしれない。
「味変にはお酢がおすすめだ」
ネムルに言われ、軽くお酢をかけてみる。
『スッパくて、さらにウマくなったゾ!』
お前は酸っぱいの好きだもんな。 あっという間に平らげるベンケイを見て、思わず笑みがこぼれた。




