表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サマー・ロスト 剣を捨てた無気力少年、負けたら「存在消滅」のデスゲームで覚醒する。  作者: うにまる
一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/47

第16話 本物の炒飯

 ベンケイがコンビニのビニール袋を漁り、梅干し味のポテトチップをムシャムシャ食べ始める。 香ばしい匂いが車内に広がった。


「そろそろ昼飯時か、腹減ってきたな」


「とりあえず合流が先」


 ネムルのぼやきにユメがピシャリと釘を刺す。


「へいへい」


 ネムルはすっかり尻に敷かれている様子だ。


「そういや、さっきの連携は上手くいったな。俺が相手の攻撃を止めて、ユメが援護を封じ、ヨシツネが相打ち覚悟で突っ込む」


 ネムルが自画自賛する。 ……相打ち覚悟っておい。


「ネムル、止めきれてなかったでしょ……」


  ユメが額に手を当てる。


「今さらだけどさ、ネムルとユメって、なんかお似合いだな」


 二人がえへへと照れ笑いを浮かべる姿は、まぶしいほどだった。


「で、この子の名前はベンケイちゃん、だよね?」


「ヨシツネとベンケイ。そっちもいいコンビじゃねぇか」


 いや、こっちはトカゲだし。笑うに笑えん。


『えへヘ』


 お前が照れるのかい。

 ベンケイを見ると、笑いながらポテチを食べていて、口からこぼしている。


「お前、こぼしすぎだろ……ごめん」


 ユメの膝の上は、すっかりポテチまみれになっていた。


「全然大丈夫だよー」


『全然大丈夫ダ!』


 だからお前が言うなっての。

 ルークが設置されている模型屋の近くに着くと、ユウトがこちらに気づき、手を振ってきた。 車を止め、全員が降りる。


「お疲れ様。こっちはなんとか撃退したよ。真田さんたちも、もうすぐ戻ってくると思う」


 その言葉どおり、しばらくして仲間たちがぞろぞろと集まってきた。 ビショップの凛を除いた真田班、長谷川班、攻撃組合わせて十人。


「よし、予定通りルークを破壊した。ご苦労。午後はさらに侵攻するぞ」


 真田のねぎらいが響く。


「さて、それでは昼食は私たちの班で用意しましょう。皆さんはここら辺にいてください」


 藍太郎の一言に、全員がピクリと反応する。


「頼めるか……?」


「ええ、任せてください」


 真田の依頼にこたえる藍太郎のメガネが怪しく光った。 彼に続き、二軒隣の「福来軒」と書かれた中華料理店に入る。


「さて……と。何にしましょうか」


 寿司職人のようなことを言い出す藍太郎。


「って、ここに入ったってことはアレでしょう?」


 ネムルがニヤリと笑う。

 すでにユメは手際よく食材を並べていた。


「フフ、仕方ありませんね。ネムルくん、どれほど上達したか見せてもらいますよ」


 藍太郎が腕まくりをして中華包丁を構える。 ネムルの喉がごくりと鳴る。一体何が始まるんだ……。


「ヨシツネくん、いいですか。我が班には炒飯技術の取得を義務づけています」


「ちゃーはんぎじゅつ」


 呆気に取られている間に、にんじん、ピーマン、ナルト、チャーシュー、玉ねぎ、しいたけ、卵……机の上が食材で埋め尽くされていく。


「お米は足りそうです」


 炊飯器を覗き込むユメの報告に、藍太郎は無言で頷く。


「今日は見学でも構いません。包丁は扱えますか?」


「一応、それなりには」


「上出来です。できそうなら野菜カットを手伝ってください。なにせ十人前ですからね」


 藍太郎とネムルが息を合わせて野菜を切る。 にんじんとピーマンは角切り、ナルトは短冊、チャーシューは小さなサイコロ状。 見ているだけでリズムを感じるほどの手際だ。


 これは……割って入れそうにないな。

 ユメが「こっちこっち」と手招きするので、俺とベンケイはカウンター席に座った。


 鉄鍋が火にかけられ、ゴォッという音とともに炎が立ち上る。


「火力。大切なのは火力です……料理は火力が八割」


 藍太郎が呟き、鍋の温度を見極める。


「ここです!」


 メガネが光り、油が注がれた。 すぐに卵を割り入れ、ジュワァッと広がる香り。 半熟のうちにご飯をかぶせ、木ベラで切るようにほぐしていく。


「米一粒一粒をコーティングしてあげます」


 その声に無駄がない。

 刻んだチャーシュー、にんじん、ピーマン、ナルトが投入され、彩りと香ばしさが一気に広がった。


「ここのチャーシュー、美味いんだよな」


 ネムルがつまみ食いしようとした瞬間、藍太郎が睨む。


「つまみ食いするな」


「へーい」


「味付けは控えめでいいんだ」


 藍太郎が塩と少量の調味料で下味をつけ、いったん火を止める。 もう一方の鍋で、野菜をふんだんに入れて五目あんを作り出す。


 鶏ガラスープの香りが立ち上り、しいたけ、たけのこ、白菜、ピーマンが次々に沈む。


「炒めすぎ注意。野菜はシャキシャキ感を残すのが大切です」


 水溶き片栗粉を流し込むと、艶やかなあんが完成した。


「これで全ての味を一つにまとめる」


 藍太郎がパラパラに仕上げた炒飯を皿に盛り、その上に黄金色の五目あんをたっぷりとかけた。 仕上げに紅生姜を添えて──見事な一皿が完成する。


「これが長谷川飯はせがわはん


「はせがわはん」


 呆気に取られていると、ネムルがスープとスプーンを差し出してきた。


「食べてくれ」


 そう言うと、二人は再び厨房へ戻っていった。


……え、俺が一番に食べていいのか?


 隣のユメが「まぁ、いいんじゃない?」と笑う。 恐る恐るスプーンを口に運ぶ。


「……ッ」


 口いっぱいに広がる旨味。美味い、いや、美味いという次元を超えている。

  何だ、これは……宝石箱か?


 まず熱々の油に焼けた米の香ばしさが立ちのぼり、そこへチャーシューの肉汁が重なって舌を打つ。シャキシャキした野菜が歯ざわりを添え、最後に五目あんがとろりと絡んで、全ての味をひとつにまとめ上げた。


 これが料理の四重奏カルテットッ!


 一口ごとに主役が入れ替わり、気づけば俺の舌は戦場どころか祝祭会場。 気づけば口内フェスティバル、テンションは最高潮。 中華の時代は始まったばかり。本物の炒飯が、ここにあるのだ。


……スプーンが止まらない。


「美味しいよね」


 ユメがニヤリと笑う。


「こんな美味い飯、初めてかも……」


『オレも食いたいゾ!』


 ベンケイがぴょんと跳ねて催促するので、皿の端を少し分けてやる。


『おお、ウマいナ!コレ!』


 梅干し以外も食べられるのか……。 栄養バランス、考えた方がいいかもしれない。


「味変にはお酢がおすすめだ」


 ネムルに言われ、軽くお酢をかけてみる。


『スッパくて、さらにウマくなったゾ!』


 お前は酸っぱいの好きだもんな。 あっという間に平らげるベンケイを見て、思わず笑みがこぼれた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ