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サマー・ロスト 剣を捨てた無気力少年、負けたら「存在消滅」のデスゲームで覚醒する。  作者: うにまる
一章

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第15話 初めての勝利

 足の痛みがズキズキと響く。


「“それなりに守る”って言っただろ。あの速度は完全には止めらんねぇよ」


 どこかバツの悪そうな顔をしたネムルが肩を竦めていた。ユメが駆け寄り、手際よく包帯を巻いて止血してくれる。


「いや、助かったよ。もともと相打ち覚悟だったしな」


「根性あるねぇ」


 剣道の試合でも、相打ち覚悟で勝利を奪ったことはあった。だが、あれは防具越しの話だ。生身でやるものじゃない。……やっぱり痛い。


「で、どうする? その足じゃ戦えないだろ」


 学校に戻ってキングに触れれば、死んでいない限り傷は元通りになるらしい。 だが戻るには送迎役が必要で、誰かが付き添えばこちらの戦力は大きく減ってしまう。


「歩けない。……ここに置いて先輩たちのほうへ行ってくれ」


「バカ言え。エリア内だぞ? 敵がまた来るに決まってんだろ」


 ネムルは首を振った。


「ユメ、こいつを学校まで運んでやれ。俺はそのまま向こうへ行く」


「わかったわ。気をつけてね」


 ネムルを見送ると、ユメは手にした棒を振る。 先端からふわふわの綿が溢れ出し、見る間に病院のストレッチャーのような形に変わっていく。まるで魔法の杖だ。


「さ、乗って」


 乗るというより、なんとか身を横たえる。

 ふわりと甘い匂いが鼻をくすぐった。 ……なんだか懐かしい香りだ。思わず千切って口に入れてみる。 ──甘い。綿飴だ。


 魔法の杖じゃなくて割り箸かアレ。妙に納得してしまう。

 敵のエリアを抜け、近くに停めてあった軽自動車に乗り込む。十五分ほどの道中になるだろうか。


「……女の子でも普通に運転するんだな」


 思わず口にした俺の言葉に、ユメはクスッと笑った。


「女の子でも、こうして殺し合ってるんだから……運転くらい普通よ」


「たしかにそうか……その、河合さんは戦うことに抵抗はないの?」


「慣れ、かな。きっと戦争してる国の市民とかも、こんな感じなのかもね。あっ、それとユメでいいよ」


 確かに、戦っているうちに現実感が薄れ、まるで映画を眺めているような感覚になっていく。


「でも、ビショップに選ばれるのはもうごめんかな。一度だけだけど、怖かった」


「そうだな……俺も、消えたくはない」


 何よりナツキを助けられなくなるのが嫌だ。 しばしの沈黙。ユメも、ナツキのことを知っているんだろうか。


「そういえば、あの綿……食べられると思わなかった」


 強引だが話題を変える。


「え、食べたの?」


「……うん。普通の綿飴だったぞ」


「度胸があるというか……なんというか。毒を使う能力者もいるから、なんでも口にしちゃダメだよ」


 子供をあやすような声に、少し恥ずかしくなる。


「ちょっと恥ずかしいな……小さい頃から縁日の綿飴が好きだったから、こんな能力になっちゃった」


 ユメが照れながら話す。


「いや、似合ってるよ」


──これはフォローになっているのだろうか。

 ユメがフフフと笑った。悪くない反応だ。


『おい、腹が減ったゾ』


『主人の足に穴が空いてるのにそれか? かすり傷一つ負わせないとか言ってなかったか?』


『……死ぬこと以外はかすり傷だゾ』


『ならダメだろ』


『オナカヘッタゾ!』


「……ごめん、ベンケイがお腹すいたって言ってるから、コンビニ寄ってくれる?」


 ちょうど前方にコンビニの看板が見えてきた。


「ベンケ……ああ、あのトカゲちゃん? しゃべれるの?」


「うん。他の人には聞こえないみたいだけどね」


 少し呆れたような口調に気付いたのか、ユメは苦笑しながら車をコンビニへ滑り込ませた。


「痛み、大丈夫?」


 後部座席を振り返って心配してくれるユメ。しかし俺が返事するより早く、ベンケイが飛び出してユメに抱きついた。


「ああ、俺は大丈夫だから……そいつを連れてってくれるか?」


 クスッと笑って、「はいはい」とベンケイの頭を撫でながら車を降りていく。その仕草を見ていると、なんとなく年下の兄弟がいるんじゃないかと思わせる。


「そいつ、梅干しが好きだから」


「えっ……?」


──トカゲが梅干し食べるの?って顔をされる。俺だって聞きたい。


 ベンケイはするりとユメの手を抜け出し、扉に突撃。 ……が、自動ドアが反応しない。身長の問題じゃなく、停電で電気が落ちているらしい。


「はいはい」


 結局、ユメが開けてやる羽目になった。


──そして五分後。


 梅干しパックに、梅おにぎり、梅干し味のグミ、そのほかにも梅干し味のあらゆる製品が詰め込まれたビニール袋を抱えて帰還。すでにベンケイの口がモグモグ動いているのは気にしないことにした。


「ベンケイちゃんって賢いんだね」


『オレもこいつは気が利くから気に入ったゾ』


 なぜか上から目線で偉そうに言うベンケイ。


「ベンケイ、ユメのこと好きだってさ」


「えっ……普通に嬉しい」


 そう言ってベンケイを撫でるユメ。ベンケイは俺の心配なんてお構いなしに、当然のように助手席へ。


「じゃ、出発するねー」


 鼻歌でも歌い出しそうな上機嫌で、車は再び学校へと走り出した。

 学校に着くと、ダイゴが待っていた。


「うわぁ……痛そうだね、大丈夫、倉田くん」


 血で黒ずんだ包帯を見て、ダイゴは顔をしかめる。


「ああ、なんとか……」


 作り笑顔を返したが、正直かなりキツい。


「すぐキングのところへ運ぶよ」


 そう言ってダイゴが空中に筆でサラサラと絵を描く。すると、いつものマネキン人形たちが現れ、ふわりとユメが描いた担架を持ち上げた。


──担架の素材は、綿飴。 その綿飴担架を人形たちが神輿のように担ぐ光景は、どう見てもシュール以外の何物でもなかった。


「おかえり、ヨシツネくん」


 九条が出迎える。神輿の上からで気まずい。


「初戦闘で一人仕留めたんだって? 上出来じゃないか」


「ありがとうございます……。あの、この回復はどうやって?」


 立ち上がろうとするが、出血のせいか体が震えてうまくいかない。


「無理しないでいい」


 九条がさっと肩を貸してくれ、そのまま俺の手を導いた。


 キングに触れた瞬間、暖かい光が全身を包み込む。 次の瞬間には足の痛みも寒気も、すっかり消えていた。


「すごい……」


 見下ろすと、穴の開いていたはずの足が、傷跡ひとつなく塞がっていた。


「ああ、無事で何よりだ」


 そう言ったのはネムルだった。


──あれ? なんで?


「……殺されちゃってね」 苦々しげに首を振り「まぁ、すぐに戻ろうか」と付け足す。 あからさまに嫌そうな顔だ。


 そのとき、キングから光が弾けた。


 呪文とも機械音ともつかない、不思議な旋律が響き渡る。 「@/くtgM@ラwap@ノード」


「黎明のルーク、壊したってさ。真田くんかな。さすがだ」


 九条が満足げに言う。

 いつの間にか近くにいた望月がすぐに口を開いた。


「ああ、いつも良い仕事をしてくれるよ。…… じゃあお前らは、南東ルークの防衛の援護に」


 相変わらず表情一つ変えず、命令だけを告げる。


「わかりました」


 ユメが頷き、ネムルはそのまま運転席へ。ユメが助手席に乗り、ベンケイは当然のようにその膝の上に収まった。

 ちらりと見ると──九条先輩が「ズルい」と言いたげな視線を送ってくる。


(……いや、ベンケイに言ってください)


 俺は後部座席へ。 こうして車は再び、戦場へと走り出した。


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