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サマー・ロスト 剣を捨てた無気力少年、負けたら「存在消滅」のデスゲームで覚醒する。  作者: うにまる
一章

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第13話 非情なこの世界のルール

「先輩、左に修武館がいますが」


 今度はデバイスじゃなく、藍太郎のスマホからユメの声が聞こえた。 敵か、戦闘か?——思わず手に汗がにじむ。


「……攻撃してこない限り、スルーします」


 どうやら向こうもこっちを視認したらしい。けれど、こちらが東陵生だとわかったので、スルーを選んだみたいだ。 胸の奥で、ひとつ息が抜ける。


「スマホって、繋がるんですか?」


「いや、こりゃBluetoothインカムだ。一キロくらい離れると切れる、アイツらのはヘルメットに内蔵されてるツーリング用のやつだ」


 へえ、そういうのあるんだ。

 あと数分で合流地点。雷人がかけていた音楽を止めた。


「静かすぎても眠くなるからな、なんとか起きてられたよ」


 雷人が肩をすくめる。

 すでに凛はついていたようだ。こちらに向かって手を振っている。 車を横付けすると、自然に隣へ乗り込んできた。ふわりと良い香りが車内に広がる。


 凛が「ふー」と小さく息を吐いた。


「長谷川班、ビショップを回収」


「了解。真田班と合流しろ」


 デバイスを通じて通信が入る。 藍太郎がネムルに手で合図すると、また先行して走り出した。


「どうだった?」


 雷人が凛に尋ねる。


「誰にも会わなかったよ。まあ運が良かったのかもね」


「そりゃ上出来だ」


 車の後部に置かれたクーラーボックスを開け、凛がスポーツドリンクを取り出した。 キャップをひねると、すぐさま一気に飲み干す勢いでごくごくと喉を鳴らす。

 

 その仕草は妙に爽やかで、ボーイッシュな外見も相まって、まるでスポドリのCMを見ているようだ。思わず見惚れてしまう。


「……ん?」


 視線が合った。慌てて目を逸らす。


「お前も飲みたいのか?」


 え、それはつまり間接キス──? 「え、えっと……」 思わず言葉に詰まる。


「お茶とコーヒーとコーラとかもあるけど?」


 そう言って後部座席のクーラーボックスをもう一度漁る凛。 ……あ、そういうことね。変な勘違いしてごめんなさい。


「じゃ、じゃあ……お茶でお願いします」


『……スケベ』


 ベンケイの冷めた声が頭に響く。 いや違うんだってば!


 雷人が、また気ままに音楽を流し始める。 すると藍太郎がミラー越しにこちらをちらりと見てきた。


「そういえば、この世界のルール……把握しましたか?」


 その問いかけで、昨日ユウトから聞いた説明を反芻する。要点はだいたいこんな感じだ。


 この世界は役割ごとにチェスの名前が付けられている。


 最終的な目的は他校の〈キング〉を破壊すること──とはいえ、実際にそれが成功するのは年に一度あるかどうからしい。大抵は時間切れ。


 まずは〈ルーク〉を設置して自分たちの陣地エリアを作る。


 相手のエリアに入るとキング経由でプレイヤーの“位置”は露見する。だから攻めるときは、先に相手のルークを破壊してから侵入するのが基本だ。


 他校の生徒を倒し、ルークを破壊し、仲間を護り、サポートとして貢献する──それが個々にポイントとして計上され、一定ポイントで能力の強化やライフの回復といった恩恵が得られる。要はゲームのように経験値を貯めればレベルが上がるという事だ。


 ただし、特別な役割を背負う者には過酷なルールが適用される。〈ビショップ〉に選ばれた者は、一度でも戦場で倒れれば即座に“消失”だ。


 〈ビショップ〉は毎朝ランダムに1人が選ばれ他校の近くへと転送される。


 いわば急にハードモードに放り込まれるようなもので、今回、その苛烈な任務を任されたのが、凛だったわけだ。


 もう一つの特別枠が〈クイーン〉である。クイーンもまた“一度倒れたら終わり”という重みを帯びるが、こちらは固定枠。東陵の場合、その重責を負っているのが九条だ。


 要するに、守るべきものは三つに集約される──キングとクイーン、そしてビショップ。その三つをいかに維持し、かつ自分たちのレベルを上げていくかが、このゲームだ。


……そして、俺とユウトにとって最も大事な裏報酬。


 他校のキングを破壊したものは、更に特別な特典が貰える。消えた人間を復活させることも。これについては知らない人間もいるので無闇に言うな、と言われている。


 大切なのはキングを破壊した人間のみに権利があるということだ。当然、それを狙ってる生徒もいるだろう。チャンスがあったら俺かユウトが破壊しなければならないということだ。


「要は、キングとクイーンとビショップを守りながら、敵のルークを壊して、ポーンを倒していけばいい……そういうことですよね?」


 まとめると、そんな感じだろう。


「その通り! だが我々にとって最優先なのは九条先輩を守り、無事にご卒業していただくことです!」


 急に熱が入る藍太郎。 凛が「また始まったか……」みたいな顔をしている。


 そういえば昨日ユウトも言っていた。「──長谷川先輩は九条先輩のことになると急にポンコツ化する」、と。


「それは分かったし、俺だって先輩たちには無事に卒業してほしいさ。でもさ、食料を九条先輩の好みばっかにするのはやめろよ」


 雷人が会話をぶった切る。


「冷蔵庫まるごと羊羹で埋まってたぞ? やりすぎなんだよ、お前……アホなのか」


「あ、またアホって言ったな! “親しき仲にも礼儀あり”って言葉を知らんのか君は!」


「……まあ、九条先輩、めちゃくちゃ爆笑してたけどね」


 凛が苦笑混じりにフォローした。


(昨日の言い争いの原因はこれもあるのだろうか?)


「そんなに言うなら、自分で食べたいものでも取ってくればいいでしょう!」


 藍太郎が吐き捨てる。


「今日はうちの班だからな、当然そうする」


 雷人が鼻で笑いながら即座に返す。


「そうですね、でも今日は──」


 藍太郎が言いかけたところで、凛が軽く手を振りながら宥める。


「はいはい、そのへんにしましょうねー。そろそろ、エリア内」


 凛が声をかける。

 ビショップが校内に入ると、別の人間にビショップが移り、さらに転送されてしまうらしい。だから校内には戻らず、凛は学校近くのエリアで待機する。


 凛を学校近くの公園に下ろし、俺たちは真田班との合流を目指して再び車を走らせる。


「東小近くの交番で合流しよう」


 デバイスから真田の声が届く。


「五分で着きます」


 エンジンが低く唸り、朝の静けさを切り裂いていく。


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