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サマー・ロスト 剣を捨てた無気力少年、負けたら「存在消滅」のデスゲームで覚醒する。  作者: うにまる
一章

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第11話 遊撃部隊、始動

「おはよう、ヨシツネ」


 ユウトの声で、俺はゆっくり目を開ける。 ぼんやりとした視界に飛び込んできたのは、見慣れない天井── ……知らない天井だ。


 ああ、そうだ。ここはもう、平和な日常じゃない。俺が「戦う」と決めた戦場だ。


『……起きるのが遅いゾ、ヨシツネ』


 脳内に直接響く、低い声。

 影の中から、あのトカゲ──いや、ベンケイの気配がする。


 昨日の出来事は夢なんかじゃなく、どうやら現実らしい。 周囲を見渡すと、ベッドはすべて空っぽ。どうやら俺が最後に寝て、最後に起きたらしい。


「寝坊……したか?」


 寝癖を直しながら、つぶやくように呟く。


「そんなことないよ。初日はみんなそんなもんだし」


 ユウトは軽く笑いながらそう答えた。

 なるほど、みんな気を遣ってくれたんだな。ありがたい。


「今、六時半くらいかな。七時半に班ごとのミーティングで、八時のチャイムでバリアが切れるから外に出ることになるよ。あ、朝ごはん食べる?」


 ユウトはまるで秘書のように、手際よくスケジュールを羅列する。


「あー、朝はあまり食べないから」


 剣道をしていた頃は、一本で栄養が取れるプロテイン入りのチョコバーをよく食べていた。

  正直、がっつりご飯よりそっちの方が性に合っている。


「そう?でも戦いになるから、食べられる時に食べておいた方がいいと思うけどね。まあ食べ物は街にいくらでもあるけどさ」


「まあ、後でコンビニでプロテインバーでも食べるよ」


『……ウメボシもナ』


 ベンケイの心の声が脳内に届く。

 どうやら昨夜の味がまだ忘れられないらしい。


「そういうと思って」


 ユウトはポケットからプロテインバーと梅干し味のグミを取り出して渡してきた。 

 やはり秘書か?


「長谷川班のミーティング場所は図書室。七時半までに行ってね。はい、時計」


 ユウトが頑丈そうな腕時計を渡す。デジタル式で、今は六時二十三分を示していた。 他の時計はすべて止まっている中で、これだけが正確に時を刻んでいる。


「じゃあ僕はシャワーでも浴びて、ご飯食べてくるよ」


 そう言ってユウトは部屋を出ていった。 寝起きで頭が回らない俺は、とりあえずその背中をぼんやりと見送る。


 やらなきゃいけないことが決まっているのはありがたい。 とはいえ、約束の時間まで一時間ほど余裕がある。


『ベンケイ』


『ン?』


『刀を出してくれるか?少し素振りをしたい』


 影から、にゅっと刀が飛び出してきた。

 俺は刀を手に取り、校庭の裏の校舎の影に移動する。 ここは現実世界でも、人通りが少なく、よく昼寝をしていた場所だ。


 素振りを始めると、妙に落ち着く。久しぶりの感覚だ。 いや、正確には真剣を触るのはここにきてからなのだが。 竹刀とは重さも質感もまったく違う。それなのに──不思議と手に馴染む。


 刀身は陽光を浴びると、炎と羽毛が交わったような模様を描く。 長さは約八十センチほど。しかし重さは感じさせず、柄には金糸を織り込んだ黒漆巻き。


 装飾は派手すぎず、圧倒的な品格を放つ。 刀身と鞘の境目には細工があり、龍を思わせる意匠が刻まれていた。


 ただの刀ではない。持つ者を選ぶ、そんな威圧感がある。


 一振り、二振り……刀を振るたびに、昔の身体の記憶が少しずつ蘇る。 久々すぎて全身の筋肉は悲鳴を上げているが、その痛みすら心地よい。 夢中になっていると、時間はあっという間に過ぎ、三十分ほど経っていたらしい。


「ふぅ……」


 額の汗を拭い、刀を収める。 シャワーを浴びて汗を流そう。いい汗をかいたが、まだ感覚は完全には戻っていない。これから鍛え直す必要があるだろう。


──今日からが本当のスタートだ。


 心に刻み、プロテインバーを咥えながら体育館へ向かう。


 旧校舎の旧体育館。男女両方のシャワー室があるが、新しい体育館に比べるとボロい。正直、少し不気味だ。


 壁はひび割れ、シャワーヘッドは古く、夜一人で来たら幽霊でも出そうな雰囲気。 女子は間違いなく近づかないだろう。 案の定、ユウトはすでにいない。俺一人きりだ。


──シャアァァ……


 冷えた水流が汗をかいた体を流していく。 この鍛錬後のシャワーが、妙に心地よい。剣道部時代を思い出す。


「ふぅ……」


 タオルでざっと拭き、制服に着替える。ドライヤーまで使う余裕はない。まあ、自然乾燥でなんとかなるだろう。 時計を見ると7時20分。ちょうどいい時間だ。


 図書室に入ると、すでに三人の生徒が待っていた。


「おはよう。ヨシツネくんでしたね。昨日は恥ずかしいところを見せてしまって失礼しました」


 眼鏡をかけた優男──長谷川藍太郎はせがわらんたろうが、ニコニコと笑いながら手招きする。


 だが、その笑顔の奥には、張り詰めた糸のような緊張感があった。


「おはようございます。ユウトにここに来るように言われました」


 椅子に腰を下ろす。思ったより座り心地がいい。


「君は我々遊撃部隊の仲間となってもらいます」


 ニコニコ顔で話す藍太郎。人懐っこい雰囲気だ。


「うちの班は一年生と二年生だけで構成されていて、この二人は一年。もう一人の二年は少ししたら来るはずです」


「1-Cの与田眠よだねむるですー」


「同じく河合夢かわいゆめです、よろしくね」


 名乗ったのは男女二人組。 ボサボサ頭で気怠そうな男がネムル。全身から「めんどくさいオーラ」を放つ。


 小柄で服のサイズが合わない女の子がユメ。可愛らしく、妹みたいな雰囲気だ。


「1-Aの倉田義経です。よろしくお願いします」


  形式的に自己紹介を返す。


 ガラッ、と扉が開く。


「はよー」


 入ってきたのは二年生らしい先輩だが、背が小さく、小柄なユメよりさらに少し低い。 

 見た目だけなら、中学生……というより小学六年生くらいにも見える。


 髪は少し乱れ、表情も不機嫌そうで、どこかガラの悪いヤンキーのような雰囲気もある。 無理やり起こされてここに来たのだろうか、近寄るなオーラがある。


「ん? 新入り?」


 俺を見て首を傾げる。


「一年生のヨシツネくんだ」


 藍太郎が紹介する。


「どうも」


  軽く会釈すると、先輩は「ふーん」と返し、隣の椅子にドスンと座った。


「彼は召喚獣と刀を出す能力で、自分と召喚獣で戦う感じなのかね?」


「えーと、多分それでいいと思います」


 自己紹介は藍太郎の質問に流される。


(……名前聞きそびれたな。後でネムルにでも確認しよう)


「これで五人そろいました。今日は少し積極的に攻めるということです」


 藍太郎が机に地図を広げる。


「まず、我々 東陵とうりょうは市の中心部に拠点を構えています」


 地図の中央、我らの母校に赤丸がついている。 ちなみに昨日ユウトから聞いた話によると、市外に出ようとしても見えない壁があって出られないらしい。


「昨日設置できたルークは四箇所」


 地図上に青い三角形が四つ描かれる。北東、南東、北西、南西。それらを結ぶと正方形とは言えないが、東陵を囲むような四角い形になる。まるで結界だ。


「我々の立ち位置を、ざっくり色分けしましょうか」


 藍太郎はそう言うと、地図上の東陵高校を囲むように、赤と青のペンで印をつけ始めた。


「まず、赤色が『敵対』。東の黎明工科れいめいこうかと、北西の暁天高専きょうてんこうせん。この二校が、常にウチを挟み撃ちにしようと狙っています」


「……完全に包囲されてますね」


「ええ。特に今日の相手、黎明は好戦的ですから気をつけて」


 藍太郎は黎明工科の場所をペン先で強めに叩く。

 なるほど、こいつらが今日の相手か。まずはこの「黎明」だけ覚えればいいらしい。


「逆に、青色が『友好』。せいグラディスと、修武館しゅうぶかん。一応は、彼らとは不可侵条約に近い関係です」


 ふむ、と頷く。


「あの……じゃあ、昨日俺を襲ってきた女学院は?」


 俺の問いに、藍太郎は苦笑して「あー」と頭をかいた。


「綾香女学院と、あと鴉羽からすば。この二校は『中立』──というより、気まぐれな第三勢力ですね」


「気まぐれ?」


「基本的には静観していますが、メリットがあれば襲ってくるし、交渉次第では味方にもなる。昨日のヨシツネくんは、単によほど運が悪かっただけですよ」


「……運ですか」


 俺はため息をつきつつ、地図上の「赤丸」──今日の戦場となる黎明工科のエリアを睨みつけた。


 敵の存在が宣言され、胸に実感が湧く。 昨日までは夢みたいだったこの世界。 今、逃げ場のない現実だと理解する。


  まずは遊撃部隊の一員として、やるべきことをやるだけだ。


「今日は暁天側を桐谷班が抑え、真田班と共に黎明を攻めます」


 藍太郎は淡々と説明する。


「ヨシツネくん、ルールの細かい説明はその都度するから、まずは──死なないように」


 突然、先輩の圧が強まった。メガネの奥の目がほんの少し怖い。


りんくん、ヨシツネくんを気にかけてあげてください」


 呼ばれた凛は欠伸を噛み殺し「んあー」と声にならない返事。平常運転らしい。


「ざっくばらんな役割だけど、ヨシツネくんと凛くんが前衛。ユメくんが遠距離支援。ネムルくんが防御役。私がデバフ担当」


……前衛って一番危険じゃないか? 不安げな俺を見て、ネムルが肩をすくめる。


「まあ、それなりに守るから。それなりに安心してて良いぞ」


 全員やる気なさすぎる……。 命のやり取りが始まるはずなのに、まるで日常の延長のようだ。


「それじゃあ、これを」


 藍太郎が箱から黒い塊を取り出す。スマホのような形に、葡萄のような青い実が六つついている。


  藍太郎が実を一つちぎって凛に渡す。無造作にポケットへ。残り二人も同様。俺も受け取り、ポケットに入れた。


 思ったより硬い。プラスチックではないが、金属というほどでもない。


「ポジションベリー、略してポジベリ。無くさないでください。これで君の位置がわかるので」


 なるほど、GPSみたいな仕組みのようだ。


「じゃあ、そろそろ行きますよ」


 藍太郎が締めくくるように言った。 時計は七時四十八分を指している。


 あと十二分で、戦場が開く──


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