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サマー・ロスト 剣を捨てた無気力少年、負けたら「存在消滅」のデスゲームで覚醒する。  作者: うにまる
一章

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第10話 歪んだ誓い

  ユウトの後について階段を登ると、一つの教室の前で足を止めた。


「一年はこの部屋だ。藤守ダイゴにはもう会った?」


「うん、さっき会ったよ」


「あいつの能力でベッドとか出してくれるから、多分準備は整ってると思うけど……」


 ユウトが教室を覗き込むと、きちんと五つのベッドが並んでいた。


「うん、ちゃんと増えてるな」


  確認を終えたユウトは言った。


「じゃあ、そのベッド使って。……って、荷物とかは持ってないよね?」


「ああ、手ぶらだ」


「なら、屋上でも行こうか」


 屋上に出ると、ユウトはポケットから無造作にパックのオレンジジュースを取り出し、俺に手渡してきた。いかにもユウトらしい気遣いだ。


「さて……何から話せばいいかな」


 その前に、俺は言わなければならないことがあった。


「その前に、ごめん」


 ユウトは驚いた表情を見せる。


「何が?」


「色々さ。一人で抱え込ませちゃったんだろ」


 その瞬間、ユウトの表情が一瞬崩れそうになる。


「……ベンケイって名前の、刀を出す能力……もう戦えるのか? お前」


 震える声で尋ねてくる。ずっと心配してくれていたんだな、とわかる。


「ああ、ごめんな。俺、ずっと情けなかった」


「いや、記憶を弄られていたんだ。仕方ないよ」


 ユウトの言葉に胸の奥が少し温かくなる。


「そっか……まあ、巻き込まれたのは不運だけど、吹っ切れられたなら、それでいいのかもね。ナツキも、今のヨシツネを見て喜ぶと思う」


 そして、ユウトも目を伏せがちに謝ってきた。


「それと……ナツキを守り切れなくて、ごめん」


 さっきまで俺はナツキのことを忘れていた。責められる立場じゃない。 ユウトと気まずくなっていたのは、多分ユウト自身が罪悪感を抱えていたからだろう。


 昔からこいつはそうだ——親友の苦しみを想像すると、自分の胸も締め付けられる。 何を言えばいいのか、答えは出ない。責めるのも違う、許すのも違う。正解なんてないのかもしれない。


「……うん」


 結局、曖昧な返事しかできなかった。


「このゲーム……っていうか、よくわからないけど……俺は消えたくない。ユウトにも、もちろん先輩たちにも消えてほしくない。だから、強くなりたい」


「そうだね」


 今度はユウトが、曖昧な返事を返す番だった。


「そもそも、なんで戦うんだ? 殺し合いなんて、普通に考えたら異常だろ」


 ユウトは腕を組み、少し迷うように沈黙する。 そしてやっと口を開いた。


「今、言っていいか分からないけど……多分、ナツキは生き返らせられる」


「は?」


 ユウトは続ける。


「さっき、能力をもらったモニュメントがあっただろ? よその学校のアレを破壊すれば、裏報酬として生き返らせられるらしい」


「……あの王様ってやつのことか?」


「あー、そうそう」


 ナツキのために他校を潰すのか——それは許されるのだろうか?


「俺はやるつもりだ」


 ユウトの瞳には迷いがない。その強さに胸を打たれつつも、心はざわめいていた。


 ナツキと会いたい。その思いは誰よりも強い。 しかし、それは、他校の数百人の未来を奪うことでもある。


……それでも、俺も。


 他人の願いを奪ってでも、自分の願いを選ぶ。 それは誰かから見れば醜い選択かもしれない。 けれど今は、もう二度と大切なものを失いたくない。


 俺は黙って握りこぶしをユウトに差し出す。 ユウトも同じように拳を作り、突き合わせた。


 ナツキが帰ってくるなら、異常者にでもなってやろうじゃないか。


 その後も、ユウトとは様々な話をした。 この世界のこと、子供の頃の思い出、ナツキの話、そしてベンケイのこと。ユウトの能力についても聞けて、有意義な時間になったと思う。


 話が一段落した頃、ベンケイが足元にまとわりつき、恨めしそうに「クワッ」と口を開ける。


「……梅干が欲しいのか?」


 どうやら図星らしい。 ベンケイは尻尾を振り、期待に満ちた目で見上げてくる。

 仕方なく俺たちは食堂へ移動することにした。


「さすがにもう誰もいないか」


 十時頃だろうか。広い食堂は電気が消えて真っ暗だ。 ユウトが電気をつけると、冷蔵庫で梅干のパックを見つけ、ベンケイに手渡す。 ベンケイの目が輝き、喜びを全身で表していた。


「熱中症対策かな。あってよかったね」


 とユウトは微笑む。 その優しい眼差しが、ユウトらしい。


「そういえば、一年は五人だっけ?」


 ベッドの数を思い出し口に出すと、ユウトが答える。


「あー、うん。男子はそうだね。女子と合わせて十……いや、ヨシツネが入って十一人か」


 そういえば男女別だったな。


「うちのクラスって誰かいるの?」


「女子だけど東海林しょうじさん。あとは別のクラスだね」


「あんまり面識ないな」


 社交的じゃない俺には当然のことだ。それを察したか、ユウトが笑ってフォローしてくれる。


「まずは長谷川班の人たちから交流していけばいいんじゃないかな?」


 さすが親友、コミュ障への的確なアドバイスだ。


「班は四つ。各班大体五〜六人編成。攻撃班が真田先輩、遊撃班が長谷川先輩、迎撃班が桐谷きりたに先輩、防衛班が九条先輩」


「桐谷先輩……?」


 聞き覚えのない名前に思わず問い返す。


「他の先輩に比べて静かな感じだから知らないかもね」


「確かに三年の二人は有名人だから知ってただけだしな」


「まあ、そのうち会うんじゃないかな……」


 そう言ってユウトは笑って肩をすくめた。 俺としても、まだ会っていない先輩のことをあれこれ考えても仕方がない。ここに来てから、知らないことの方が圧倒的に多いんだから。


 ベンケイは、酸っぱい顔と嬉しそうな顔を交互に見せながら、パックの梅干をあっという間に平らげた。


  十粒って約束だったはずが、二十粒以上あった気がする。それでもベンケイが喜んでいるなら問題ない。


「さて、そろそろ寝ようか。シャワー浴びる?」


 ユウトはベンケイの満足そうな顔を確認してから、穏やかに声をかける。


「ああ」


 今日は色々ありすぎて、頭の中はまだぐるぐるしている。 ユウトと話して少し落ち着いたとはいえ、すぐ眠れるとは思えない。 だがシャワーを浴びれば、少しは気分も落ち着くだろう。


 そう思い、ユウトの勧めに従ってシャワー室へ向かう。途中、日用品置き場で歯ブラシや石鹸、下着などを受け取る。


「ここのは自由に使っていいから、こだわりがあるなら明日コンビニででも揃えてね」


 二人で体育館に行き、シャワーで汗を流す。置いてあった下着は緑・白・青のストライプの入ったコンビニブランドで、意外と良い代物だった。 こういうことも自分たちでやらないといけないんだなと実感する。


 教室に戻ると、すでに室内は暗くなっていた。 どうやら他の生徒たちは寝ているらしい。 今さら挨拶のために声をかけるのは、空気を読めていない気がする。


「なあ」


  ヒソヒソ声で話しかける。


「寝てていいのか? 王様を守らなくて」


「ああ、六時のサイレンが鳴った後は、ほかの学校には入れないから気にしなくていい。おやすみ」


「そっか。おやすみ」


「ああ、それとアレを“王様”って呼んでるのはカエデちゃんだけだから、正式名称はキングね」


「あっ、そうなんだ……」


(というか、カエデちゃんって呼んでるんだ)


 今日は激動の一日で、考えすぎて眠れない──そんな気もしていたのに、気づけば泥のように深い眠りに落ちていた。


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