自転車で切る風が気持ち良くて
あれはいつの事だったろう。転勤族だった私が小学校一年から四年の中頃まで住んでいた街での事だと思う。夏の晴れた日、よく喧嘩もしていた二歳違いの兄と二人、家に帰ろうとそれぞれ自転車を走らせていた。少し前を走りながら時々私が付いてきているのを確認する兄の姿が記憶にある。記憶の中の映像では私は三年生位の気がする。多分プールの帰りだったのではないだろうか。それは太い幹線道路沿いにある、かなり幅広い歩道だった。ずっと真っ直ぐに続くゆるやかな坂道だったので、その場所を走る時はペダルから足を離し、自転車が切る向かい風の心地よさを感じるのが大好きだった。あんまり気持ち良いのでその時ふと思ったのだ。目を閉じて風を受けたらもっと気持ちよさを感じられるのではと。歩いている人はいないし、こんなに真っ直ぐに続く幅広い歩道だからハンドルを真っ直ぐになるようにしっかり握っていれば一瞬だけならきっと大丈夫だろうと。目を閉じたのはほんの一瞬で、大丈夫のはずだった。が、家に帰るために少し先の角を曲がった後、中々ついて来ない私を心配して戻って来た兄が見つけたのは、車道と反対側にあった50センチ位の深さの側溝に、確かに真っ直ぐ自転車ごとはまっている私だった。ノースリーブのワンピースの胸元がかぎ裂きに破れ、浅くたまった泥水を浴びて汚れてしまったけれど大きな怪我もしなかったのが不思議だ。目を閉じたらもっと気持ち良かったかどうかは残念ながらわからなかった。




