プライドを断つ
遥か昔、私は剣士だった。幼年期に祖父から模擬刀で剣技を教わった。
そして少年期になり、稽古を続けながら学舎に通い勉学に励んだ。
だがある日祖父が倒れ、そのまま天に召された。悲しかったが涙を見せず祖父の剣技の強さを世界に知らしめようと家では稽古に励み、学舎で座学を必死に努めた。
青年期になると国へ忠誠を誓い、国と生まれ育った土地を守るために都心に住み込み、剣士となった。そこで大切にしたい人と出会った。
その人は酒屋で働いていていつも笑顔で綺麗だった。気がつけば彼女に話しかけていて必死そうに話す自分を見てクスッと笑っていた。恥ずかしくもあり嬉しさもあって勢いでデートの誘いをした。
了承をもらえ翌日に都心を巡ることにした。
この時彼女の名前がシルトということを知った。
シルトは劇をみて涙を流したり笑ったり、感情に溢れた人だった。素敵な人だと思い、何度か話を交わしたのち、交際を始めた。
この頃になると母の体調が悪くなり始めた。若くはないと分かっていたが、都心から故郷は馬車でも3日はかかるところにあり、先日隣国からの敵が自軍に入りこんでいたことが分かり、今国を出れば疑いの目にかけらることが分かりきっており戻るに戻れなかったのだ。
そして、先ほどの密偵しにきた敵を処刑を期に火蓋が切られ戦争が始まった。
シルトに涙ながら止められたが今までの鍛錬に費やした人生の決着をつける時だと思い、私は走り出した。
戦争の結末は私の片足とたくさんの犠牲の元勝利を納めた。
安堵と恐怖により力が入らないがシルトを求めて都心に帰った。
しかし、家や酒屋や街を探せど探せど見つからない。故郷に帰ったのかとまわりに聴いてもわからない知らないとだけ言われ、断念した。
傷心しきり、故郷に帰った。国からもらった金で故郷でゆっくり生きようと。
次に待っていたのは、母の死だった。
あの知らせから一年ほどしか経っていないにもう... 父は俯いたままだった。帰った私の声を聞いた時は少し目を開いたが、私の足を見た瞬間俯いてしまった。
父は老けた。母の支えが無くなったからか痩せていき、シワが増えた。
父と暮らし始めてから数年後、父も亡くなった。
涙は流れなかった。正直父親っぽさを感じていなかった。会話はせず、父性は祖父から与えてもらっていた。だがその祖父は幼き頃に亡くなった。
いつ間違えたのか? なぜこうなったのか?
ひたすら鍛錬を積み、国の為に片足を失った私が何を? どこで?
幸せは私のなかに無かった。椅子に座り頭を抱えながら初めて涙を流した。悔しかった。
窓がガタガタ揺れる。
雨が降り、嵐が近づいてくる。ドアが勢いよく開き、窓ガラスが割れたと同時に私は眠りについた。
目が覚めると、幼少期に見た景色だった。
戻っていたのだ。あの頃に。真っ先に家族の顔をみに行く。
若い、生き生きとしている。嬉しさで涙が滲む。
祖父との鍛錬の時間になり、考える。
なぜ自分の人生はああなってしまったのか。
プライドが邪魔にだったんだ。誇りと思っていた祖父の剣技に囚われ、本当に守りたかったものを守れなかったんだ。
そして自分の考えを整理し、祖父に挑む。
少年期になり祖父が亡くなった。私は泣いた。
この時に完全ではないが祖父の亡霊を振り切った。気持ちに余裕ができ、初めてできた学友と楽しく成長を共にした。
青年期になり選択の時がきた。ここに残るか、国に忠誠を誓い再び戦場に赴くか。
ここに残れば家族は守れる。だが私には大切な人がいた。その人を迎えに行かねば、そして誇りとなっているこの剣技を数多の剣士に目に遺すために私は都心へ向かった。
あの時と同じ時間あの場所でシルトと再び出会い、付き合い幸せになる。
そして、再びあの時が来ようとしていた。
もうじき自軍に敵がいることがわかるだろう。
ここで私はまるまるに私の故郷に行かないかと言った。今戻れば全て守れる.......と。
だがシルトは首を横に振った。
ここで働いて故郷にお金を送らないと家族が生きられないと言われる。
私は、ならお互い一旦故郷に帰ろう、もうじきくる戦争が終わるまでは、と言った。
シルトは悲しそうな顔をする。
しかたないんだ君の笑顔をまた見るためには、家族を見届けるためには。
あれから3年...1年前に母が死んだ。
今度は見届けれたし、細やかだが親孝行もできたと思う。
父も長くないだろうと思ったが、お別れを言い、
私は都心へと戻った。
馬車の窓がガタガタ揺れる。
雨が降り、嵐が近づいてくる。扉が勢いよく開き、窓ガラスが割れたと同時に私は眠りについた。