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48:世界の中心で


 ヒダキには確信があった。いや、生まれたと言うべきか。

 この因果の破綻を正すことこそが己れの役割である、と。



 基幹となる世界で生まれた因果の捻れは並行する世界全てに波及する。

 現状、どの世界でも魔力と魔法少女の順序が逆になっているのだ。それを正すにはどうするべきか。


「先送りだ」


 魔法少女が早くに生まれなければ良い。

 ただそれだけで、順序は正しくなる。

 星の魔力の後に、全人類の魔力への覚醒が起きれば魔法少女だけに負担を強いる社会とはオサラバだ。


 落ち着きを幾分か取り戻したルイーネが、それは少々虫が良すぎる話だと指摘する。

 彼女曰く、星の魔力を生むために魔法少女が必要になっている今は循環論法であり、それでは結局何も変わらないだろう、と。


 ヒダキもそれに頷く。


「それはその通りだ」


 だが、とヒダキは言う。


「星の魔力についてが共有されるべき事柄であり、枝葉末節である魔法少女の存在は無視できるものなんだ。ならばそれを活用する。星の魔力発生までの騒乱は全て巻き戻せば良い。そうすれば星の魔力のみを共有できる」


 ルイーネは戸惑いながら口にした。そんなことが可能なのか、と。

 内心では不可能だと思いながら。


「出来る。今回だけは」


 ヒダキは力強く言い切った。


「異物であるティアドロップが来なかったことにするんだ」

「魔法によって世界を書き換える」

「過去の改編によって、騒乱の起こらなかった未来を基幹であるこの世界に貼り付けることで、魔物の襲来を先送りにしよう」


 熱に浮かされたような語り口にルイーネは圧倒された。とてもじゃないが正気に思えず、しかしその瞳に燃える理性の炎に生じた疑念は焼き尽くされる。

 信じるしかない。

 そう思わされた。


 ヒダキは語る。

 接ぎ木の要領だ、と。

 世界をある時点で区切り、折り取った正しい世界を基幹世界に繋ぎ合わせる。見かけの上では連続するために、基幹世界は継続して進行していく。


「そんな無茶苦茶な」


 ルイーネは頭を振るう。

 理解をしても納得が追い付かない。

 彼女はその上書きが、あるいは繋ぎ目が、何かの拍子にポロリと取れてしまうのではないかと心配していた。

 そんな呟きにヒダキが答える。


「そうだな。私だけでは無理かもしれない」


 予想外の弱音にルイーネは目を見開いた。

 これまでの自信は何だったのか。ヒダキを問い詰めるよりも先に、あちらが続きを口にした。


「だから、あなたが必要だ」

「……は?」


「時空を操る魔法少女以上に適役は居ないだろう」


 言っていることは分かる。ルイーネもバカではない。ヒダキの言葉を理解して、その上で返答に窮していた。

 協力を求めているのか?

 妹の仇であるはずの、このわたしに。


 久しく忘れていた感情をルイーネは思い出していた。

 それは畏怖。

 理解しがたいものを前にして、ルイーネは腰の引ける思いを何時ぶりだかに味わった。


「遺恨はある。怨みも、怒りだって」


 その一言はある種の救いだった。

 ヒダキがルイーネの目線に降りてきての一言。許せていないことを知って、ルイーネは隠れて安堵する。


「それでもやるべきことがあるんだ。私だけじゃない、あなたにもな」


 責任を果たせ。

 ヒダキは何度も繰り返す。


 それに感化されたのか、ルイーネも引き受けて良いかと思うようになってきていた。

 どのみち他に方法はなく、生き延びる道は従うのみだ。


「なら、あなたは何をするの?」


 前向きに考え始めたが故の疑問をルイーネは投げる。

 自分が上書きを担当するとして、手の空いたヒダキが何もしないなどあり得るだろうか。いや、そんなことはあり得ない。

 半ば狂信的に進んでいるこの魔法少女が、暇することを許せるものか。ましてや、仇敵に頼りっぱなしになるなんて。





「星を起こすよ」





 ヒダキの答えは、ルイーネからするとよく分からないものだった。

 恐らくは星の魔力を覚醒させるようなことだろう。

 そう結論付けて、ルイーネはヒダキの要請を受諾する。








 ◆








「やあ」


 何もない空間に声が響く。

 それは親しげで、優しげで、からかうような調子の、全ての元凶の声。


「ようこそ、星の核へ」


 歓迎の言葉を受けながら、ヒダキは何もない空間で己れの身体を形作る。

 天も地もない仄かに明るいだけの空間だ。ここでは色も形も意味を成さないが、それでも自我の確立のためにヒダキは自身を強固にイメージする。


 星の核。そう呼ばれるこの空間は、その呼び名の通りに星の魔力を生み出す中核だ。

 ルイーネに上書きを任せた後に、ヒダキは大魔法を用いてここへの潜入を果たしていた。


「出てこれるだろう? 顔を見せろ」


 ヒダキがそう言うと、魔力に動きがあった。

 少し離れた所で渦を巻き、ゆっくりと人の形を成していく。

 やがてそれは一人の人物となった。




「ティアドロップ……じゃないな。なんて呼べばいい?」




 全ての元凶たる魔法少女は意地の悪い笑みを浮かべた。

 その目は全く笑っておらず、ヒダキを舐めるように観察している。

 一挙一動、一言一句。

 果たして望みを叶えるに足る存在であるのか。

 身動ぎ一つとて見逃すことなく、思考さえも透かし見る。満足いったのか、彼女は名乗ることにした。


「エンデ。それが真の名前さ」


 ヒダキが知っているティアドロップは脱け殻だ。出涸らしだ。残骸だ。とうに力の大半を失った軽いだけの御輿だったのだ。

 ルイーネに魔法少女として名付けられたからとて、同格の"真なる魔法少女"がそう容易く力を失うことなどない。たとえ半死半生の重傷を負っていたとしてもだ。


 彼女はルイーネに襲われる直前でとある大魔法を行使した。

 それは己れを分ける魔法。分割した偽りの自分を囮にして、星の核へと逃げおおせたのである。


「よく気付いたね」


 エンデは不思議そうに問う。

 偽装には自信があった。

 ティアドロップはきちんと"生きていた"し、まさか見破られるとは思ってもいなかったのだ。


「……自分に名前を付け直して気がついた。同じ真似が出来る筈なのに」


 ティアドロップが"真なる魔法少女"であれば、ヒダキ同様ルイーネの影響下から脱することが出来たはず。それが出来なかった要因は体力の消耗だけでなく、そもそもの出力が足りていなかったことにある。

 出力不足の原因がエンデである。彼女が主たる機能を根こそぎ持っていったがために、ティアドロップは機能不全を起こしてしまっていた。


「なるほどね。次に活かそう」

「それに誰かが居るのは予想していた」

「……なに?」


 エンデの目がすうっと細められる。

 蛇のような眼がヒダキを睨んだ。


 ヒダキは狼狽えることなく、その眼光を受け止める。




「これで何周目になった(・・・・・・・)?」




 エンデに明確な動揺が出た。

 細められた目が真円に近づく。距離など関係ないのに、彼女は思わず一歩下がった。


 遅れてエンデは失敗に気付いた。

 ヒダキは鎌を掛けたのだ。

 情報アドバンテージが失われていく。


「やっぱりそうか」


 深く頷くヒダキ。

 この今いる世界が何の改編も受けていない無垢な世界ではないと、彼女は以前から疑っていた。疑うだけであったが、それが正しいことをエンデによって明かされ、合点がいったのだ。


 恐らくだが、一度目の世界では星の魔力が正しく目覚めたのだ。魔法少女だけでなく、人類全てが等しくステージを進めて魔物へと対抗した。

 それをエンデが上書きした。歪んだ世界になるように改編した。方法はある。

 今回と同じように、ただし真逆に時系列を乱す形で、書き換えた。

 この世界は二度目なのか三度目なのか。もしかすれば四度よりも繰り返しているのかもしれない。そうして目的を果たそうとしたのだろう。


「狙いは星の核だな」


 エンデはぐっと眉を寄せてヒダキを睨む。

 図星だった。

 彼女は星の核から生み出される魔力に目を付けて、それを我が物とせんとしたのだ。




 ──その時、ぐわんと大きく世界が揺れた。




 改編が始まり、その影響が星の核にまで届く。


「な、何故核の魔力が弱まって……!?」


 エンデの驚きも無理からぬこと。

 それまでに彼女が行った三度の巻き戻しと違い、四度目となる今回は星の核が不自然な弱りを見せた。

 初めての出来事だ。


 エンデの知識として、星の核とその生み出す魔力は目覚める前からそこにあったものだ。彼女がこの世界にやって来てからずっとあり続けているものであり、ない方が不自然と言える。

 元々あって、何かの拍子に動き始めたのだと考えていた。



 しかし、それは間違いだった。










ヒダキとその妹誕生後、魔物襲来(一度目の世界)

ヒダキ誕生後、魔物襲来(二度目の世界)

ヒダキ誕生前に魔物襲来(三度目の世界)

ヒダキ誕生の数十年前に魔物襲来(今いる世界)

???


エンデは少しずつ改編を進めてきました。程よいところを探っていたわけです。




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