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24:一人じゃない


 大災級の新たな出現予測とモクアミの拠点叩き。

 ルイーネから告げられた二つは魔法少女たちを動揺させた。戸惑いや躊躇い、困惑など反応はそれぞれだ。

 ただ誰も喜んではいない、ルイーネを除いて。



 それは、『モクアミ』という存在に理由があった。

 モクアミとは元の木阿弥からとられた呼称なのだが、名の通り良くなったものを悪くする者たちである。

 良くなったものとは魔物に対応出来る社会のことで、魔法少女を運用するシステムを指している。

 モクアミとはこれを破壊せんと目論むテロリストなのだ。つまり、魔物ではなく人間を相手にするのであり、魔法少女たちが気乗りしないのも無理からぬことであった。


 それからもう一つ、モクアミは魔法少女である。

 現行社会への不満を抱いた同胞を、この手で抹殺する。

 それは上位の魔法少女に課せられた使命であるが、とてもではないが快く実行できるものではなかった。



 沈黙がテーブルを覆う。

 ルイーネは一人、ワインを飲み続けているが、他の面々は顔を強張らせたままだ。


 誰がモクアミを潰しに行くのか。

 それが決まっていないのである。

 ルイーネは話を進めておきながら、肝心のところを挙手制にした。あるいはそれさえも楽しみの一つだと言わんばかりである。


 ヒダキは直接顔を会わせて理解した。

 このルイーネ、どうしようもなく性格が悪い。社会に対して悪を為す方が自然ではないかと疑いたくなるほどに。


(まぁ、ここは行かねぇとな)


 気が進まないことには違いないが、それを少女たちに任せる方がヒダキには許せない。

 魔法少女であるのは己れも同じ。

 であれば、手を汚さないでのうのうと生きていくわけにはいくまい。それに、上手く運べば多くの命を救うことが叶うかもしれない。



 手を挙げたヒダキを見て、ルイーネはにんまりとした笑みを浮かべる。どうやら、元々彼女を行かせるつもりではあったらしい。

 こうして本人の希望という形にする辺りがいやらしい。ヒダキは顔をしかめるが、それはルイーネを喜ばせるだけであった。


「ふむ、もう一人欲しいですね……」


 目を細めてテーブルを囲む少女たちを睥睨するルイーネ。その視線は粘っこく、一人一人をなぞっていく。


 誰もが縮こまる中、ルイーネの視線が止まった。

 唇がつり上がる。さながら捕食者の笑みだ。

 哀れ。目をつけられた魔法少女は、うんざりした様子を隠そうとしなかった。


「スコーピオン。行ってくれますよね」


 口ぶりは確認であるが、実態は命令と同じだ。

 スコーピオンは嫌々だが頷く。


 ルイーネの選択は間違いでないのだ。


 ヒダキは広範囲への攻撃を得意とし大規模破壊を可能とする魔法少女だが、反対に一人を狙ったり周りを破壊せずに立ち回ることは苦手としている。取りこぼしだってあり得るだろう。

 その穴を埋めるには、単身での戦闘能力が高く攻撃範囲が限定的な魔法少女が良い。それはスコーピオンの能力そのままであり、故に彼女は反抗しなかった。


 ただ、理解をしていても感情までもが収まりついているとは限らない。

 機嫌悪そうにヒダキを睨む目は、その辺りを分かりやすく物語っていた。


「ええ、これでこちらは任せておけますね」


 ちろり、とヒダキに目線を送ってから、ルイーネは続ける。


「オーダーは"殲滅"です。一人も逃さず、始末してくださいね」


 ──パリン……。


 突如、ルイーネのグラスが割れた。

 中から弾けるように砕けてしまった。


 その場の全員がヒダキを見る(・・・・・・)

 下手人は明らかだった。


 目を爛々と輝かせて熱気を纏った少女は、激情に縄をかけて必死に制御しながら言った。区切り区切りになったのは、溢れ出す怒りが暴れようとしているからだ。


「訂正を、して、ください」

「ふふ。いいえ、殲滅ですよ。皆殺しです」


 空気が張りつめる。

 睨むヒダキと、それを笑顔で受け止めるルイーネ。

 他の魔法少女たちは(おのの)いた。まさか変身せずとも物理的な干渉を行えるとは。向けられる複雑な心境は、しかしヒダキには届かない。


(ふざけた命令出しやがって……!)


 噛み締めた歯を軋ませ、ヒダキは首を横に振る。それだけへごめんだと、態度で示す。



 だが。


「命だけは助けてあげようと思っていたんでしょう? なりませんよ。あれらは世に弓引く者たち、情けなど要りません」


 ──正義は私たちにあるのですから。


 幼子を諭すような口調であるが、その目の酷薄さは筆舌に尽くしがたい。

 虫を見るよりも興味の無さそうな視線は、ヒダキに口答えを許していなかった。


 顔を紅潮させて反論を必死に飲み込んで、ヒダキはルイーネを睨むことしか出来なかった。


(便利な道具くらいにしか見てねえ)


 抵抗の無意味さにヒダキは口を噤む。

 話の通じなさであれば、ルイーネは魔物に匹敵するのではなかろうか。モクアミの方がまだ交渉の余地があるだろう。


 "今後"と"理想"を天秤にかける。

 どちらをとるか。とらないか。

 ヒダキが答えを出そうとした時。


「おい」


 それを遮る者がいた。


「役割決まってもうアタシらに用はねぇだろ」


 スコーピオンがヒダキの脇に立っていた。

 彼女はヒダキの腕を掴み、引っ張って立ち上がらせる。

 それから、ついて来いと促した。


「あら、どこへ行くのかしら?」

「打ち合わせだよ、打ち合わせ。何にも話さねーで一緒に戦うなんて御免だからな」


 そう言い捨てて、スコーピオンは懐から取り出したコンパクトを起動させる。

 瞬間、ヒダキとスコーピオンは姿を消した。

 『魔女の閨』から退室したのだ。二人が転送された後を見て、ルイーネは不敵に笑う。


「さあ、続きを話しましょう──」






 転送された二人は、魔法少女保護局南関東支部に居た。会議室のような部屋で、折り畳み式のテーブルとパイプ椅子が数脚置かれている。

 スコーピオンは掴んでいた腕を離し、パイプ椅子にどっかと腰掛けた。さらに、ヒダキにも座るよう手振りで示す。


「お前さあ……」


 足を組み、頬杖をついてスコーピオンはヒダキに苦言を呈する。


「あの場で正面から突っかかってどうすんだよ」


 先ほどのやり取り。ヒダキとルイーネでは勝負にならない。それを理解していないはずがないのに、ヒダキは真正面から戦おうとした。

 その結果として、まるで歯が立たずに勝手に追い詰められる羽目となった。


「そりゃ、あそこで命だけは助けると言質が取れれば一番良いぜ? だがそんなのはあり得ねえって薄々察していただろ」


 ヒダキは魔法少女に頼りきりの現行社会が嫌いだ。その志はモクアミの側にあると言っても良い。

 彼女が体制側に居るのは、偏に"多く"を救うため。

 その多くにはモクアミの少女たちも含まれる。


 そんな内心をある程度知る(・・)スコーピオンは、しかし厳しく指摘する。ルイーネ相手にそれは無理だと。


「分かってんだろ、お前も。正面からは無理だって」

「……まあ、そうですね。少し、焦りすぎました」

「ちったあ、頭が冷えたみたいだな」


 冷静さを取り戻したヒダキに、スコーピオンは安堵する。

 ことここに及んで、まだ血が上っているようであれば今後の付き合いを見直す必要があったからだ。どうやらその必要はないらしい。


「んじゃあ、ちょいと裏から手を回すとしようや」



 魔法少女スコーピオンは、モクアミの一員である。ルイーネを頂点とする現体制に不満を覚える彼女は保護局内部に潜伏して、機密情報を流したり反対に誤情報を拡散したりと工作をしていた。

 そんな彼女がヒダキに接触したのは、数週間前。療養していた彼女が復帰してすぐのことだった。


 スコーピオンとヒダキは繋がっていたのだ。

 裏で繋がる二人は、表向き険悪な関係を演じつつ相互に協力をする約束をしていたのである。


 スコーピオンはプライドが高い。非常に高い。

 たとえ、使われる立場に甘んじることはあっても、使い捨てられる立場に成り下がることは許せない。













 ◆






「──これを見て、スコーピオンをモクアミとして処理することに反対する者は居るかしら?」


 手は挙がらない。

 誰もが俯いてた。


「なら、私の方で人員を回しておきましょう」








仲間が居るから一人じゃない

内通しているのは一人じゃない


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