交差点にたたずむもの
某県S市のとある交差点。
深夜0時になると、ヒトの形をした黒い影のようなものが現れる。
それは突然、走行中の自動車のフロントガラスに張りついて視界をさえぎり、事故を起こさせるのだという。
――こんなウワサがささやかれるようになった。
よくある怪談の一種だ。
そこで実際に車両事故が起きたこともあって、世間では確度の高いウワサ話として尾ひれがついて広まりつつあった。
「――で、ぼくたちでそれを確かめようってワケだね。いいね、それ」
ユースケははずんだ声で言った。
怖い話が好きな彼にとって、これは嬉しい誘いだった。
「そ! ホントなら面白いし、ウソならウソで安心だし」
提案したレーコは上機嫌だ。
彼女にはユースケがこの提案に乗ることは分かっていた。
好奇心旺盛で怖いもの知らずの彼が断るハズがないのだ。
「なんなら正体を突き止めてやろうよ。その黒い影っていうのがオバケなのか、それともたんなる見間違いなのか」
「ええ、そのつもりよ。社会不安をあおる悪いウワサなんて私たちがやっつけてやる」
ふたりはその夜、問題の場所に向かった。
道幅は広く、大きな看板や街路樹もない、見通しのよい交差点である。
「雰囲気は……あるね」
ユースケがつぶやいた。
街灯が少なく、あたりは暗い。
せめてコンビニでもあれば陰鬱な空気も少しは和らいだであろう。
「こんな感じだから暗がりを黒い影と見間違えたのかもしれないわね」
一台、また一台と走り過ぎていく車を目で追いながらレーコが言う。
10分が経ち、20分が過ぎた。
ウワサに聞く黒い影はいっこうに姿を現さない。
「うん……やっぱりたんなるウワサなのかな?」
「もう少し待ってみようよ。今日はたまたま寝坊したのかもしれないし」
「オバケが寝坊なんてするかなあ……」
深夜1時になった。
変化は――ない。
時間が時間だけに交通量もほとんどなくなってしまった。
虫の鳴き声が遠くから聞こえる。
「今日のところは引き上げようか」
「そう、ね。残念だけど。でも今日はたまたま現れなかっただけかもしれないから、明日からも見張るわよ」
某県S市のとある交差点。
深夜0時になると、ヒトの形をしたふたつの青白い影のようなものが現れる。
それらは何をするでもなく、ぼんやりと立っていて、1時間ほどすると霧のようにかき消えてしまうのだという。
――いつしかこんなウワサがささやかれるようになった。
よくある怪談の一種だ。
終