第9話 アプローチ
横幕亜美、24歳。
私の人生はリア充に満ちている。
好きになった人は皆オトしてきた。
私がいるとみんな私に注目しちゃう、我ながら罪な女。
自分自身が怖いくらい。
初めての彼氏は小学校で1番イケメンだった子。
中学の時もサッカー部のキャプテンの子。
高校の時は、生徒会長も努めたカリスマ的な子。
大学の時は、K大に入ったお金持ちの子。
つまんなくなって皆別れちゃったけど。
男性が好きな仕草や話し方は心得ている。
社会人になってからも私のモテ期は終わらない。
会社でも男性からの注目を集めてしまう。
課長も私と話す時、鼻の下を伸ばしてるし、私が通ったあとの香りに夢中になる同僚もいる。
利用できるものは全部利用する。
親戚のコネで入社したこの会社。
面倒な仕事は課長に頼んで別の人に担当してもらう。
おかげで毎日定時退社。
自分磨きの時間や合コンで男性との出会いを探している。
でも私に見合う男はなかなかいない。
付き合ってもすぐ別れちゃう。
次第に会う時間が取れなくなって、私の話を聞いてくれなくなるし、結局サヨナラする。
社会人になると長続きすることの難しさを感じる。
(早く私の王子様現れないかなぁ)
同期の新入社員で同じ管理部に所属されたのは、私と奥村という地味男子の2人。
どう見ても陰キャの彼。
魅力的な私に密かに恋するけど、声掛けれないみたいなタイプ。
まあ私もこんなのに興味ないけど。
◆
「おはようございます」
ある日、出勤してきた彼の様子がいつもと違った。
彼はコンタクトにしたようだ。
(めっちゃイケメンじゃん!)
今まで地味過ぎて気づいてなかったけど、思ったより好みのタイプだと気づいた。
彼はまだ2年目だけど、結構色んな仕事を回されている。
仕事もテキパキこなすし、周りに色々気配りをしていて、同僚からも目をかけられている。
私の次に。
彼なら私の話も聞いてくれるし、私に合わせて色々してくれそう。
同じ会社なら時間が合わないことも減るし、きっと長続きするに違いない。
彼をターゲットすることにしよう。
「奥村くん、ちょっといぃ?」
「はい」
「ここの部分がわからなくてぇ」
彼の机に近づいていき、私は上目遣いで彼に目線を向ける。
「あぁ、これはですね…」
私は話を聞きながら髪を耳にかける。
これで私の表情がよく見えるし、髪から溢れる私の香りも漂わせることができる。
でも、彼は鈍感なのか私の魅力に全然気づいてくれない。
今までの人なら私に目を奪われたり、向こうからのアプローチをし始める。
もしかして私が高嶺の花すぎて声を掛けられないとか?
その後も、彼だけに皆とは違うお土産を渡したり、ちらっと胸元をみせる色仕掛け等、
あの手この手で彼にアプローチするが全く響かない。
ランチやご飯に誘っても、何かと理由をつけられて、なぜか断られる。
(こんなに手強い男は初めてだわ…)
どう彼を射止めるかと悩んでいた時、
帰宅途中、コンビニの前で彼と親しげに話す女性がいた。
彼女は見覚えが会った。会社の有名人だ。たしか、中城といったはず。
魔性の女だかなんだかで恋愛指南役と言われてる。
正直そんな風には全く見えない。
むしろ地味女という印象だ。
しかし、彼女のアドバイスで告白が成功したり、結婚まで行き着いたという話は聞いたことがある。
私のほうが絶対モテるのに。
彼と別れた後、中城は真っ直ぐ駅に向かっているようだ。
彼女から何か情報が得られないかと思い、声を掛けてみる。
何も知らないって感じだったけど、私に何か隠してそうだった。
女の勘がそう言ってる。
私の中で要注意人物リストに名を連ねた。
◆
「今年も決起会が開催されるらしいが、管理部は今年受付を担当することになった」
定例会で課長から知らされた社内行事。
どうやら会社の毎年恒例イベントで決起会と称した飲み会が行われるらしい。
各部署で担当をもち、その担当分を部署内の誰かが対応しないといけないとのことだ。
「毎年新人に担当してもらっているんだが、え~、年次が浅いのは~…奥村と横幕さんか」
私たちの下の代にあたる新卒1年目は、まだ研修を受けているため、
現状1番下の年次なのは私たち2人ということになる。
課長が私たちの名前を挙げたことで、周りから視線が向けられる。
奥村は視線に答えるように、頷いた。
「大丈夫です」
奥村がやるというなら、やらない手はない。
新人2人だけで仕事をすることなんてほとんどない。
これは絶好のチャンスだ。
「私もやりたいです!」
「じゃあ、庶務課と連携しながら、2人で当日の流れとか確認して進めておいて。
わからないことがあれば、私に聞いてくれ」
決起会まであと約2週間。
彼と話す機会はぐっと増えるはずだ。
(絶対に奥村くんをオトして私のものにしてみせる!)
さあ、今日はどうアプローチしていこうかな。