エピローグ お詫びに その1
「うわぁ~、すごい!!」
思わず声に出るほどの豪邸が目の前に広がる。
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2週間前、水橋屋との新たなプロモーション企画の話をするため、由井のもとへ訪れたときのこと。
退席しようと、荷物をまとめているところに由井から声を掛けられる。
「中城さん、GWにうちの別荘にきませんか?」
「え?」
「ああ、いえ、私が軽率な発言をしたせいで、ご迷惑をおかけしてしまったので。お詫びといってはなんですが、うちの別荘にいらっしゃいませんか?おもてなしさせていただきますよ」
返事に悩んでいると、さらに彼が私の背中を押すように言葉を付け加えた。
「奥村さんやお友達も誘っていただいて構いません」
「ありがとうございます…。じゃあ…お言葉に甘えて…」
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そういうわけで、私たち5人は由井の招待で、彼の別荘を訪れている。
玄関で由井が出迎えてくれた。
その姿はいつもの着物姿ではなく、アウトドアに適した軽装だった。
着物以外の装いは新鮮に感じる。
「ようこそ、いらっしゃいました」
「お邪魔します」
玄関を進むと、天井の高いリビングが広がる。何畳あるのかわからないほど広い。
リビングには10人は座れそうなソファ、8人掛けのテーブル、見たことがないほどの大きいテレビが陣取っている。
全てが規格外だった。
「2階は皆さんの自室になっています。どの部屋でもご自由にお使いください。私はあそこの1階奥の自室にいますので、もし何かお困りのことがあれば、お声がけください」
階段の下にある扉を指し示しながら由井は言った。
彼もこの別荘にそのまま泊まるということらしい。
「それと、冷蔵庫のものも自由にしていただいて結構ですので」
私たちは2階の部屋に荷物を置きにいく。
8畳ほどの部屋に、整えられたベッドが備え付けられている。
部屋もトイレや風呂、洗面台全て完備されていた。
この部屋だけでも生活するのに困らないだろう。
扉がノックされたので返事をすると、友香と高須が入ってきた。
「中城さん、由井社長からこの辺にきれいな滝があるって聞いたんですけど、一緒に見に行きませんか?」
「ううん、私はちょっと疲れたからひと休みしてるよ。2人で行ってきて」
「じゃあ、行ってくるね」
「行ってらっしゃい」
私は手を振って、彼らを見送る。
せっかくなら2人にしてあげたい、なんていうのは余計なお節介だったかもしれない。
◆
高須の先導で、別荘の裏手にある山道を上がっていく。
由井から事前に道順まで聞いていたのか、高須は迷わず進む。
道は舗装されていたので、サンダルでも歩きやすかった。
別荘の宿泊者がよく訪れる場所なので、手を加えたのかもしれない。
10分は歩いただろうか。それでも滝の姿形は見えなかった。
「安達さん、大丈夫ですか?疲れてないですか?」
「うん、大丈夫」
もう5分歩くと、滝が落ちる音が聞こえてきた。
道のりの傾斜が緩やかになってきた。
更に進んだところで、目的地に到着する。
思ったより大きな滝だ。
他に客はおらず、滝の落ちる音だけが響いている。
滝が落ちた先の水辺は透明度が高く、泳ぐ魚の姿まで確認できた。
「わぁ〜、すごい」
「ですね〜。しかも涼しいですね」
「うん」
山登りを終えた火照った身体にちょうどいい涼しさだ。
ひとしきり涼んだところで、帰ろうかと話していたところに、高須が別の話題を切り出す。
「あの、安達さん、今度映画とか観に行きませんか?」
「え?」
「友達からタダ券もらったんで、どーかなと思って」
少し照れくさそうに話す高須。
可愛らしいところもあるし、頼りになることも少しはあることに気づくようにはなったが、それでも正直、彼を恋愛対象としては見れない。
私のことを気にかけていたら、本当に良い相手を見つけられなくなってしまう。
彼に期待をさせないように、釘を刺しておくべきだろうか。
「高須くん、そんな私にばっかり構ってないで、次の相手探しなよ。君はまだ若いんだし」
「そんなこと言わないでよ」
彼は小声で何かを呟くが上手く聞き取れなかった。
「え…なんて?」
「俺が好きなのは安達さんなんですよ!」
珍しく声を荒げる高須に物怖じしてしまう。
彼は私の手を掴むと自分の胸にあてる。
「俺がドキドキしてるのわかりますか?」
彼の心臓の鼓動が、熱が、手のひらから伝わってくる。
「俺が安達さんと話すとき、こんくらいいつもドキドキしてるんです。だから、そんなすぐ次の人みたいな言い方しないでください…」
彼の気持ちをないがしろにしてしまったことを反省する。
「ご、ごめん」
「俺が安達さんのこと好きなんだって伝わりました?」
「わ、わかった…」
彼は私の手を離さず、そのまま手を繋ぐ。
「あ、あの、手…」
「安達さんが本当に嫌なら離します」
高須の強い眼差しに断ることができなかった。
ガッシリとした男性の手だなと感じる。
別荘に戻るまで、繋がれた手は解かれなかった。




