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【完結】30歳、処女が恋愛指南していたけど、自分の恋愛は対象外です!  作者: 結城トウカ


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第73話 逃避

病室内に静寂が広がる。

ずっと入口で立ちすくむわけにもいかず、私は少しずつ彼のもとへ歩み寄ると、ベッドの(かたわ)らにあった椅子に座る。


「さっき陽介が来てたんですよ。ちょうど入れ違いでしたね」

「そ、そうなんですね。その、お身体の具合いはどうですか?」

「麻酔が切れて痛みが少しありますが、問題なければ来週には退院できそうです」

「よ、よかったです」


ぎこちない返事しかできない。

後ろめたい気持ちがどうしても離れない。

私を気遣ってくれたのか、奥村が話を切り出した。


「今朝、警察の人が来て教えてもらったのですが、あの女性は捕まったらしいですよ。やはりあの週刊誌の記事が原因だったようです」

「そ、そうなんですね」

「だから、もう安心してください」


あの女が捕まったと聞いて内心ほっとする。

私を憎んでいるなら、また襲いにかかってくるともいえない。

私自身に向かってくるならまだいい。

でも、また誰か私の周りにいる人に危害が加えられる可能性だってある。

その悲劇が繰り返されないとわかっただけでもよかった。


沈黙が続く。


次の言葉が出てこない。

早く謝らなければ。

元々、そのために来たのだ。

一度出直そうと思っていた手前、決意が揺らぎかけている。

私は膝の上に置く(こぶし)を強く握り、自分を奮い立たせる。


「奥村さん…あの、すみませんでした!」


私は彼に向かって頭を下げる。


「中城さん、顔を上げてください」


こちらを見る奥村は、まるで何事もなかったかのように、いつも通り優しく微笑んでいた。


「中城さんのせいじゃないですよ。それより、あなたが無事でよかったです」


どうして。

違う。

そんなに優しくしないで。

私が悪いのに。


「なんで…そんなに…刺されたんですよ!」


こんなの八つ当たりだ。

頭でわかっていても言葉を止められなかった。


「私のせいなんですよ!私が不用意に返事しなければこんなことには…。なのに、どうして何も言わないんですか!」


今にも涙が(こぼ)れそうだった。

でも、ここで涙を流してはいけないと、視界を大きく(にじ)ませる。

彼は優しいから、そんなこと言わないとはわかっていた。

でも今の私にはその優しさが辛かった。


「中城さん…」


目を見開いた奥村を見て、ハッと我に返る。

私は感情に任せて何を言ってしまったのか。


「すみません、私帰ります」


勢いよく病室を飛び出す。

私の名を呼ぶ声が聞こえたが、足を止めるとこはしなかった。


寒空の下、トボトボと道を歩く。

何してるんだろう。

彼に謝りたくて来たはずなのに。

むしろ彼を傷つけて。

こんなことなら来なければよかった。


「私、最低だ…」


(せき)を切ったように流れる涙を(ぬぐ)う気にもなれなかった。

でもそんなことは、もうどうでもよかった。



私はそれから奥村を避けるようになった。

彼から何通かメッセージが届いていたが既読にもしなかった。

黙々と仕事をしては、家に帰って自分を責めては泣いていた。

好きな人を二度も傷つけてしまった。

情けないうえに悔しい。

今まで色んな人の恋愛相談に乗ってきた。

でも実際に自分ごとになると、こんなにも難しいのかと痛感する。


それから2週間経ったある日。


無事退院できたのか、会社で奥村の姿がちらりと見かけることもあった。

だが、彼がいなくなるまでやり過ごしたり、遠回りをするようにした。

これでいいのだ。

これがお互いのためだ。

彼女に想いを告げようと決心した奥村に関わらない方がいいだろう。

私なんかに構っている場合ではない。

むしろ私がいない方が都合が良いはずだ。

もう彼とは会えない。

もうただの先輩と後輩には戻れない。



「奥村くん、先週退院したらしいね」


友香と休憩スペースでひと息ついていると、彼女が話を切り出した。

私がナイーブになっていることを気遣ってからか、あまり事件関連の話をしないようにしてくれていた。


「…そうなんだ」

「退院祝いに皆でご飯でも行く?」

「いや、私は…」

「翔子、最近なんか変だよ。どこかうわの空っていうか」

「ありがとう、大丈夫だから」

「翔子、今も気にしてるの?あれは翔子のせいじゃないんだよ?」

「うん、わかってる」


力なく笑いかけているのが自分でもわかった。


「わかってないよ!」


友香は語気を強める。


「なんであんたがそんなに落ち込まないといけないの!悪いのはあの女じゃない!」

「友香…」


彼女が私を励まそうとしているのが伝わってくる。

友香と同じようにあの女のせい、と思っていた自分もいた。

でも、自分の不注意。そして、彼を傷つけてしまったこと。

それは消せない事実なのだ。


退勤後、一人駅に向かう。

首もとを突き刺すような風が吹きつける。

あまりの寒さに思わず(うつむ)く。

地面のタイルの切れ間を踏み越えないように、タイルの中央を踏みながら進む。

すると、着信が鳴っているのに気づく。

相手は前野からだった。

迷ったが電話に出ることにした。


「中城さん、今大丈夫?」

「はい」

「今から少し話せない?」

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