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【完結】30歳、処女が恋愛指南していたけど、自分の恋愛は対象外です!  作者: 結城トウカ


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第71話 容態

救急車のサイレンが耳の奥で鳴り響く。

車内で救急隊員が騒がしく会話を交わしている。

奥村の状態を確認しつつ、応急処置を行っていた。


「出血が多いな…」

「脈110!」


彼の意識はあれからずっと戻っていない。

止血するための布が赤く染まっていく。

奥村を見るだけで胸が苦しくなる。

私は神に(すが)るようにただ祈った。


(お願い…助かって…)


病院に到着すると、奥村は慌ただしく手術室に運び込まれた。

私は手術室の周りをウロウロと歩き回ったり、外にあるベンチに腰掛けたりと落ち着けなかった。

何度もスマホの液晶画面を見るが、まだ前に開いてから2分しか経っていない。

これほど時間の流れが遅く感じたことはない。

手術が始まってから1時間半を過ぎた頃、手術室のランプの点灯が消える。

私は勢いよく立ち上がる。

医師が出てきたのに合わせ、私は彼に迫った。


「先生…!奥村さんは…!」

「命に別状はありません。運良く臓器も傷ついていなかったのは不幸中の幸いでした」

「よ、よかった…」

「今は鎮静剤を打っていますので、今日は目を覚まさないと思います。面会は明日以降でお願いします」

「わかりました、本当にありがとうございました」


私は医師に頭を下げる。

遅れて手術室から奥村が担架に乗せられ出てきた。

彼の顔には酸素マスクがつけられていたが、穏やかな息遣いになっている。

看護師に押された担架は病室に向かったのか、別の場所へと運ばれていった。

彼女たちと入れ違いで、青ざめた表情の夫婦らしき男女が駆け寄ってきた。


「あの、草太の母です!草太の容態は…!」

「命に別状はないそうです。今は病室に運ばれていると思いますが、今日は鎮静剤の影響で目を覚まさないとのことでした。面会は明日以降だそうです」

「あぁ…よかった…本当に…」


彼の母の目に涙が浮かぶ。

夫と思しき男性が、彼女の身体を支えた。


「あの、失礼ですが、あなたは…」

「あ、私は奥村さ…いえ、草太さんと同じ会社に勤めている中城と言います」

「中城さん、本当にありがとうございました…」

「いえ、私は…」


続けざまに警察官が事情を聞きたいとやってきた。

私は奥村の両親と別れ、警官に簡単に状況を説明する。

女の標的が私だとわかると、詳しい事情は警察署でという話になり場所を移すことになった。

まだ彼を刺した女は捕まっていないらしい。

事情聴取が終わる頃には日を(また)いでいた。

まだ女が私を狙っている可能性があるので、パトカーで家まで送ってもらえることになった。

念の為、付近のパトロールもしてくれるそうだ。


自宅に着くと、電気を点けずベッドに身体を預ける。


(疲れた…)


あのときの光景が自然と蘇る。

女は薫様と言っていた。 恐らく由井との記事が原因だったのだ。

あのとき軽はずみに私が頷かなければ、奥村が刺されることはなかった。

どうして突然話しかけられたことに疑問を持たなかったのだろう。

いや疑問は持ったのだ。

でも、まさかそこからあんな事件に発展すると考えなかった。

自分の危機管理が甘かったとしか言いようがない。これは私が招いた事態だ。

病院でお礼を言う奥村の両親のことを思い返す。

私はそんなことを言われる資格はないのだ。


「私のせいだ…私の…」


ポツリと呟いた言葉を皮切りに、次々と涙が目から零れ落ちた。



気付いたら眠ってしまっていたようだ。

時計を見ると、8時を少しまわったところだった。

身体が重かったが、無理矢理起き上がった。

洗面台で鏡を見ると、目元が少し赤くなっていた。

目を冷やすと、少しは赤みが引いたので安堵する。

奥村の容態が気がかりだったので、今日は彼のお見舞いに行きたかった。

外に出るのは少し怖かったが、それよりも彼に謝りたい気持ちが強かった。

私は念の為タクシーを呼び、病院へ向かうことにした。

手ぶらで行くわけにも行かないので、途中で手土産にフルーツを買った。


病院に到着すると、昨日と同じ場所とは思えないくらい活気に満ちていた。

私と同じくお見舞いに訪れている人や病衣を着た患者が、それぞれの目的地に向けて歩いている。

これほど大きい病院は来たことがないので驚いた。

私は受付で奥村の病室を尋ねる。

7階に到着する。案内板によると廊下の一番奥が彼の病室のようだ。

扉が僅かに開いているのが、遠目からもわかった。

空気の入れ替えでもしているのだろうか。

何か会話のような声が漏れ聞こえてきた。

病室に近づくにつれて、会話の主が奥村と前野だとわかった。

彼の意識が回復したことに嬉しくなる。

私は足早に病室に向かうと、会話が鮮明に聞こえてきた。


「…のか?」

「うん、まだ。次に会ったとき告白しようと思ってる」


奥村の言葉に耳を疑った。

ノックしようとした手を思わず止めた。

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