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【完結】30歳、処女が恋愛指南していたけど、自分の恋愛は対象外です!  作者: 結城トウカ


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第68話 応え

もしかしたらこれから先、私みたいな人と結婚を考えてくれる人はいないかもしれない。

もしかしたらこれから先、私が出した答えに後悔するかもしれない。

でも、少なくとも今の私が後悔しない方を選びたい。

そして彼の生い立ち、背負うもの、覚悟、それらを聞いたうえで私が出せる応えは…。

私は彼に身体を向き直す。


「すみません、私は…由井さんとの結婚は前向きに考えることはできません」


由井は動きを止め、私に目を向ける。


「理由を聞いても?」


将来をともに過ごすことを考えた時、頭の中に思い浮かべた人物は由井ではなかった。

理由として挙げるとしたらそれしかなかった。


「その、好きな人がい、いるんです」

「そうですか…それは残念ですね」


だが、彼は悲しげというよりも動じていない様子にみえた。

まさか断られるのがわかっていたのだろうか。

彼は何か思い出したかのように呟いた。


「その人はもしかして…」

「え?」

「いや、何でもないです」


由井は勢いよく飲み干すと、再びシャンパンを注いだ。

私はもう一つ彼に伝えたいことがあった。


「あの、差しでがましいんですが、水橋屋は今のまま二人で支えていく形でもいいんじゃないでしょうか?」

「え?」

「由井さんが和菓子に対して真摯(しんし)に向き合っていることは知っています。私はそんな由井さんの姿が社長にふさわしくないとは思えません」


プロモーションの依頼も競合調査も、彼が水橋屋のためを思ってやってきたことだろう。

彼が今までしてきたことが、水橋屋を大きくしてきたのだ。

それを利権に目がくらんだ人たちに否定されるのは納得できなかった。


「由井さんが経営を、和菓子作りは弟の(まこと)さんの二人で担う。私にはプロモーションの時、すごく連携がとれてるように感じました」


プロモーションがうまくいったのは由井の力も大きいが、それに合わせて見た目も味も素晴らしい和菓子を作ってくれた弟の力も大きいはずだ。


「一人ではなく二人で…か。しかし、派閥が…」

「派閥の件は私にはわかりません。由井さんが頑張ってください」


自信満々で言えることではないが、派閥の件は部外者の私では意見も提案もできない。

これに関しては由井に任せるしかない。


「アハハハハハ」


大きく笑う由井の姿に思わず戸惑ってしまう。

私の的外れの意見がツボに入ったのだろうか。

逆に自分の意見が恥ずかしくなってくる。


「む、無責任なこと言ってすみません!何も知らない私が勝手に言ってるだけですし、聞き流してもらって大丈夫なので…!」


目に浮かぶ涙を拭きながら彼は言った。


「…そうですね…私も頑張ってみます。真とも話してみます」


彼は立ち上がり花瓶に歩み寄ると、花弁を優しく撫でる。


「あぁ、それから記事についてはもう手を打っているので安心してください」


記事のことを完全に忘れていた。

元々その話をするつもりだったのに。

いや、それよりも手を打った意味を考える。

まさかこれが世に聞く、スキャンダルを握りつぶすという意味なのだろうか。


「…何をしたんですか?」

「あくまで私は一般人、という点を利用します」


どういうことだろうか。

彼の言葉の意味を理解することができなかった。

私の表情から察したのか、説明を加えた。


「有名人のスキャンダルで上書きするんですよ。人は好奇心がかきたてられるものに寄っていくものです。これ以上話が広がることはないでしょう」

「でもどうやって、そんなスキャンダルを…」

「他の出版社が握っているスキャンダルの発表を早めてもらったんですよ。ちょうどいいネタを持っていたようでよかったですよ」


さすが記事にされた経験があるだけはある。

手回しが速い。


「明日にはメディアも含めてそのニュース一色(いっしょく)になるでしょう」

「なんで今そんな話を…」

「この話を先にしたら、結婚を引き換えにしているようになってしまうので」


たしかに事前にこの話を聞いていたら、これ以上噂を広めたくないなら結婚をしてくれ、と聞こえる。

彼なりに義を通してくれていたようだ。

やはり彼は根は優しい人なのだろう。


「さあ、そろそろ出ましょうか」


ホテルの表口ではなく地下の駐車場に向かうと、駐車場の出入口に黒塗りの車が迎えに待っていた。

記者が張り込んでいる可能性があるので、それを防ぐ意図があったのかもしれない。


「家の近くまでお送りしますよ」

「あ、いえ、少し歩きたいのでここで大丈夫です」

「…わかりました、今日はお時間をいただいてありがとうございました」

「こちらこそ色々とご対応いただいてありがとうございました」


彼は手を挙げると、サイドウィンドウを閉める。

走り去る車を見送ると私はエレベーターで地上まで上がる。

怒涛の1日だったにも関わらず、まだ日差しが緩やかに降り注いでいた。

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