第65話 スクープ
帰省後、親戚の挨拶まわりや正月行事をこなすと、それ以外の時間は実家でゴロゴロとだらけた日々を過ごした。
そんな年末年始の休みも気付いたら終わりを迎えてしまった。
そして、今日から通常通りの勤務が開始される。
新年明けての初出勤日には、会社全体で初詣に行く毎年恒例の行事が待っている。
だが、全員で行くわけにもいかないので、時間を分けて各部署ごとに行くことになっている。
私は神社に向かう道中、見知った背中を見つけ声を掛ける。
「奥村さん!」
プロモーション部の前は管理部が向かっていたようだ。
彼がここにいるということは、管理部は遅れて出発したのだろうか。
「中城さん!明けましておめでとうございます」
「明けましておめでとうございます」
新年の挨拶を済ませると、奥村はキョロキョロとあたりを見渡す。
「安達さんと高須くんはいないんですか?」
「あ、2人は往訪で外出してます」
「年始から大変ですね…中城さんは大丈夫なんですか?」
「はい、今日は休みボケのリハビリします…」
さすがに休み明けから取引先への訪問を入れる気にはなれなかった。急を要する企画も進行してなかったのも幸いし、今日は会社で自分のペースで業務を進める予定だ。
「管理部は年明けから月初対応があるので、バタバタしてます…今は束の間の休憩といった感じです」
「た、大変ですね…お疲れ様です…」
管理部が初詣に出遅れていた理由に納得がいった。
彼の表情にも少し疲れが浮かんでいるようにみえる。
朝から忙しかったのだろうと想像ができた。
「年末はゆっくりできました?」
「はい、親戚の挨拶まわりをしたあとはゆっくりできました」
「それはよかったです」
目的の神社は会社から少し離れているが、学業成就と商売繁盛のいいとこどりのご利益がある神社だ。
神社に着くと、うちの社員だけでなく他の会社の人たちや一般の参拝客で混み合っている。
参拝するにも長蛇の列ができていた。
ようやく順番がくると、賽銭箱に5円玉を投げ入れる。
(今年も健康で穏やかな1年を過ごせますように。あと…奥村さんと仲良くいられますように。あ、神様、先輩としてって意味です。よろしくお願いします)
「何をお願いしたんですか?」
「け、健康でいれますようにって!あと仕事も上手くいきますようにとか色々…!」
「ふふっ、たくさんお願いしたんですね」
慌ててごまかす私に軽やかに笑う奥村。
(欲張りすぎだと思われたかな…)
「大丈夫です、きっと叶いますよ」
「あ、ありがとうございます…」
優しく微笑む彼の表情に胸が高鳴る。
参拝早々、願いが叶ってしまった。心の中で神様に感謝を告げる。
「もう戻りますか?」
「あ、お守りだけ見てもいいですか?」
「はい、大丈夫です」
社務所に向かうと、多くの人たちがお守りを求めていた。巫女さんたちも忙しそうだ。
商売繁盛、学業成就、交通安全、と順を追ってお守りを眺めていく。その中に恋愛成就と刺繍されたお守りが目に留まる。
(恋愛成就か…)
ちらっと隣の奥村に目を向ける。
すると彼と目が合い、ハッとする。
「何か買うんですか?」
「い、いえ、やっぱりやめとこうかな」
私は先輩、私は先輩、と念仏のように小さく唱えた。
「奥村さんは何か買いますか?」
「僕も大丈夫です」
神社を後にしようとしたとき、前野がこちらにやってくる。
目が合うと、彼は手を挙げて応える。
「あけおめ。2人で来たの?」
「あ、いえ。途中でたまたま会いまして」
「そういうことか」
「あれ、陽介だけ?」
一人で来ている前野に疑問を感じたのだろう。
「営業部は年始からアポとかあるから、時間取れるタイミングでそれぞれ行ってくれってなってんだよ。でも2人が帰るなら、俺も戻ろうかな」
「寄ってかないの?」
「まあ、別に信仰心強いわけじゃないし」
揃って同じ道を引き返していると前野が尋ねる。
「ふ、2人は年明けとかは何してたの?年末は帰省とかあっただろうけど。誰かと会ったりした?」
「いや、俺は家でゆっくりしてたよ」
「私も昨日のお昼まで実家でゆっくりしてました」
「ふーん」
前野のぎこちない様子に違和感を覚えた。
どこかたどたどしい聞き方のように思えたのだ。
今さら気遣いあう間柄でもないだろうに。
「陽介は?」
「俺は実家に顔出してから、友達と会ったりしてた」
「陽介、友達多いからなあ。学生時代もモテててたし」
「そうなんですね」
「別にモテてないよ」
ぶっきらぼうに答える前野の態度に、私は以前、水橋屋の帰りに話したときの言葉を思い出す。
あの時、『俺も似たようなもの』って言ったのは、彼も誰かを想っていて、その人に気づいてもらえていない、ということではないだろうか。
「草太なんてーー」
それからそれぞれの学生時代の話題に盛り上がり、前野の話を深掘りすることはなかった。
私たちは会社に戻り、エレベーターに乗り込む。
私は2人に見送られながら先に降りる。
オフィスに戻り自席に座ろうとしたとき、血相を変えた友香が私のもとにやってくる。
「翔子!」
「あ、もう戻ってたんだ。お疲れ」
「そんなことより、これ見て、これ!」
「どうしたの?」
彼女が持っていたのは芸能人のスクープを扱うような文芸雑誌だった。
その表紙に煽り文がいくつも書かれていたが、その中の一文が目に飛び込んでくる。
『由井社長の火遊びに終止符!結婚秒読み間近!』
雑誌のページを捲ると、そこには目元にモザイクはかけられているが、私と由井社長の写真が載せられていた。
「な、なにこれ…」




