番外編 もうひとつの恋 その3
外国人らの背中が遠くなった頃、私は思わず高須に感想を素直にぶつける。
「高須くん、英語喋れたの!?」
「あ、はい。俺、大学のとき1年間オーストラリアに留学してたので、日常会話くらいなら喋れます」
初めて彼のことを尊敬したかもしれない。
普段からこれくらい頼りがいがあると安心して仕事を任せられるのに。
取引先と引き合わせるときも、こちらの身が持たないほどヒヤヒヤさせられる。
この前も取引先の専務に向かって「なんでそんなに偉そうなんですか?」なんて言った日には、フォローするのが大変だった。
「あ、このあとなんですけど、イルミネーションがきれいなとこあって、そこ行きませんか?」
「ここから遠いの?」
「駅の反対側なので、15分くらい歩くんですけど…」
ここからさらに電車移動となるなら荷物もあるし断ろうかとも思ったが、多少歩くくらいであれば特に問題ない。
彼は私の顔色を窺っているようだが、そこまで心は狭くないので安心してほしい。
「それくらいなら全然いいよ。私もイルミネーション見てみたいし」
「やった!ありがとうございます!」
17時になる前には陽が落ち、空が濃紺に染め上げられていく。同時に気温が一気に冷え込み始める。
雑談を交えながら歩いていると、あっという間に目的地まで辿り着く。
歩いたおかげで少し身体が熱かった。
彼が案内してくれたのは広場のような場所だった。
広場を囲うように木々が並んでいるが、それ以外何も設置されていない。
広々としたスペースが取られているので、時折イベントでも行われているかもしれない。
立ち並ぶ木々にLEDライトが取付けられ、点滅しながら様々な色に変化をしている。
まばらに人はいるが、そこまで混み合っていなかった。穴場のような場所なのかもしれない。
訪れた人たちは、きらびやかなライトアップに目を細めていた。
「きれい…」
「俺、ここ好きなんですよね。なんかずっと見ていられるっていうか」
「うん、ちょっとわかるな」
私たちは近くのベンチに腰を下ろす。
ふと隣を見ると、高須と視線が交わる。
私は自然と微笑み返していた。
すると、彼は緊張した面持ちでコートのポケットからラッピングされた小箱を取り出す。
「安達さん、あの、これ…」
「これ、どうしたの?」
「今日一緒に過ごせた記念に…」
私は彼から小箱を受け取る。
「開けてもいい?」
「…はい」
箱の中にはシルバー色のイヤリングが入っていた。透明感のあるピンク色のガラスビーズが小さくついており、かわいらしいデザインだった。
どこか見覚えがあると思ったが、先程ポーチを買った店に並べられていた商品だったことを思い出す。
「その、安達さんが欲しかったイヤリングには叶わないってわかってたので、悩んだんですが、でも今日のこと後悔したくなかったんです」
言葉を振り絞りながら話す高須。
彼がうわの空だった理由もようやくわかった。
これを買うか買わないか悩んでいたのだろう。
「だから、もらってくれませんか…」
いつも生意気で世話のかかる後輩だし、全然私の好みと違う。
でも彼が色々考えてくれたこと、その気持ちだけは純粋に嬉しかった。
「ありがとう…大事にするね」
私は彼からのプレゼントをそっと手の中にしまい込んだ。
そして、私たちは再びイルミネーションに視線を移す。
しばらく眺めた後、彼が明日帰省するとのことなので、早めに解散することにした。
駅まで戻る道中、私の視界の中に高須の笑顔が飛び込んでくる。
「安達さん、俺今日めっちゃ楽しかったです!安達さんはどうでした?」
そんな笑顔で聞かれたら、楽しくないなんて言えないではないか。
素直に認めたくなかったが、ちゃんと楽しかった。
「…楽しかったよ」
「やった!安達さん、俺のこと見直してくれました?」
さっきの潮らしい彼はどこへやら。いつもの後輩に戻ったようだ。
普段と違う一面を見れたのは確かだが、彼に好意を寄せると言うには程遠い。
「私を惚れさすなんてまだ早いから」
ただ、100年はかからない…かもしれないなんて思ってしまったことは胸に留めておく。




