番外編 もうひとつの恋 その1
年の瀬にすることと言えば大掃除ではなく、年末売り尽くしに出向くことだ。
これは、あくまで私の持論であるが。
「安達さ〜ん、まだ回るんですか〜?」
寒空の下、弱々しい高須の声が響く。
彼は重々しい足取りで私の後ろを歩いている。
「当たり前じゃん!あと3軒は回るから!」
私の手には2つの戦利品が下げられているが、彼の方には大小様々な紙袋が両腕に下げられている。
何店舗かは限定品の商品があったので、女同士の熾烈な闘いだったが、今日の戦果としては上々だ。
「腕っぷしには自信あるんでしょ?」
私は彼を鼓舞するように声を掛ける。
「うっ、はい!まだ全然いけます!」
朝から連れ回してるので、ついてくるのも大変だろうが、来ると言った限りは運命共同体だ。今日はとことん付き合ってもらおう。
いつもより安い値段でブランドものが買えるこの日を逃すわけにはいかないのだ。
太陽が真上に昇り終える頃、ようやく今日の最終ノルマの店舗に辿り着く。
ここではピンクパールのついたイヤリングを購入予定だ。なんと年末セールで40%オフだ。これは買うしかない。
「申し訳ございません。先ほどこちらの商品は完売してしまいまして…」
「そ、そんな…」
店員は再三、申し訳なさそうに頭を下げるが、彼女は何も悪くない。
悪くないが、今日のお目当ての一つだっただけにショックで呆然としてしまう。
トボトボと店を後にすると、高須が心配そうに私の顔色を窺う。
「あ、安達さん、大丈夫ですか?」
「うん…」
バーゲンであれば、同じ狙いをつけている人はいる。
よくあることだ。くよくよしたってしょうがない。私は顔を上げ、気持ちを切り替える。
「こればっかりはしょうがない。さっ、お昼食べに行こうか」
「はい!」
高須は嬉しそうに歩き始める。ようやく休息できると聞いて喜んでいるのだろう。
本当にわかりやすい性格だ。
私たちはカフェレストランに入る。
このあたりにくると、私は大体この店を選ぶ。
並ばず入れることが多いし、それでいて料理も美味しい。ランチにはサラダも無料でついてくる。
駅から少し遠いが、そんなことは全く気にならない。むしろ立地のデメリットを補うに余りある程だ。
今日もランチタイム真っ只中だが、そのまま席に案内される。
カウンターに通されると、高須と横並びで座る。
今まで歩きっぱなしだった分、疲労がどっと押し寄せてくる。しばらく立ち上がりたくない。
高須は日替わりランチのハンバーグ、私はきのこパスタを食べ始める。
疲れた身体にエネルギー補給が沁みる。
「ここ美味しいっすね」
「でしょ」
私は半分ほど食べたところで手を止める。
「高須くんさ、今日私に付き合ってよかったの?ほんとは実家帰る予定だったんでしょ?」
彼は今日から実家に帰る予定だったにも関わらず、私に付き合うために帰省する日を1日ずらしていた。それであればと私は同行を断ったが、彼が問題ないと言い張って譲らなかったのだ。
「大丈夫っす!これも安達さんに俺のこと好きになってもらうためですから!」
ハンバーグのソースを口につけた男が、またなにか言っている。
「私を惚れさすなんて100年早いから」
私はペーパーナプキンで彼の口もとを拭く。
彼は固まったままじっと私を見つめる。
そこで私は自分の行動にハッとする。
「あっ、ごめん。気になって」
「いえ、ありがとうございます!嬉しいです」
清々しいほどの笑顔を浮かべる高須。
私の何が彼をここまで突き動かすのか、首を捻るばかりだ。
高須に直接尋ねたことがあるが、好きなものは好きなんです、と言うばかりで理由は全くわからなかった。
仕事中もコーヒーを差し入れてくれたり、喉を痛めないようにのど飴をくれたり。空回りしていることも多いが、彼なりにアピールしてくる。
それに私が嫌がるようなことはしない。そういった区別もしっかりつけられる子なのだ。
私にばかり拘っていないで、新たな恋でも見つけてくれればと思う。
彼ならもっと同世代の可愛らしい子がお似合いだろう。
「このあとはどうします?」
食事を終え、ひと息ついたタイミングで高須が尋ねる。
「そうね…お店は回り終わったし、このまま解散にしようか」
「え!?」
「うそうそ、高須くんの行きたいところあれば一緒に付き合うよ」
「それってもしかして、デートってことですか!?」
高須が椅子から勢いよく立ち上がると、周囲の視線がこちらに向けられる。
「声が大きい…」




