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【完結】30歳、処女が恋愛指南していたけど、自分の恋愛は対象外です!  作者: 結城トウカ


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第61話 感謝の会 その2

私は運良く通りかかった由井の車に乗せてもらい、会場に向かうことにした。

今日の感謝の会には彼も出席すると事前に返事をもらっていたので、私にとっては渡りに船だった。


「乗せていただいてありがとうございます」

「いえいえ、これくらいはお安い御用ですよ」


由井はいつも通りの着物姿に羽織を着ている。


「このあたりで打ち合わせだったんですか?」

「はい、ちょうど感謝の会に向かおうとしたところで、電車が止まっていたので助かりました。由井さんもこのあたりでお仕事ですか?」

「いえ、家の方がごたついているので、その対応に追われていました」

「…そうなんですね」


家の事というのは由井家のことだろう。

漫画の中だけの話だと思っていたが、現実の格式高い家でも何かしら事情を抱えているものらしい。

さすがに詳しく聞くことはできないので、私は話を逸らすように窓の外へと目を向けた。

どうやら車は高速に乗ったようだ。

このまま下道(したみち)を走っていると、帰宅ラッシュの渋滞に巻き込まれるからだろう。

ふと隣を見ると、由井も外に顔を向けていた。

高速道路に降り注ぐ照明が、同じテンポで青白く彼の横顔を照らす。その表情はどこか物憂げにみえた。


ほどなくして無事会場に辿り着いた。渋滞に巻き込まれることもなかったが、それでも開始時刻から10分ほど過ぎていた。

由井が先に車を降りると、微笑みながら私に手を差し伸べる。

無下(むげ)にすることもできないので、彼の手を取り降車する。


会場のホテル入口に2人のスタッフの姿があった。そのうちの一人はベンチコートを着た奥村だった。

今回は案内役を担当しているようだ。

寒い中、立たされる奥村が心配になる。受付時刻までここにいるのだろうか。

寒そうな素振りも見せず、彼は由井に話しかける。


「会場は右手の階段をあがった先になります」


由井は立ち止まると奥村の方に視線を向ける。


「ありがとう、久しぶりですね」

「…はい、先日は失礼いたしました」

「いえ、とんでもないです。お気になさらず」


私は二人の顔を見比べる。まさか彼らが顔見知りだとは思わなかった。

どこで会ったのだろうか。

由井がホテルへと足を向けると、奥村は優しい笑顔を向けてくれた。


「お疲れ様です。間に合ってよかったです」


私は5人のグループチャットで会場入りが遅れることを連絡していたので、彼はそれを見たのだろう。

由井に拾ってもらったので、まだその後スマホを見れていなかった。


「ありがとうございます。寒いと思うので、風邪引かないように気をつけてくださいね」

「ありがとうございます」


私は後ろ髪引かれる思いで、ホテルに足を踏み入れる。

由井は会場入口で受付をし終えて名札を受け取っていた。

私は関係者スタッフの控え室に荷物を置くと、すぐさま会場内に入る。

既に乾杯は終わっているようで、それぞれ歓談に花が咲いている。

友香や高須の姿もある。

高須は先輩について、取引先との関係構築を図っているようだ。

人が集まっているところがあったが、その中心には由井がいた。着物を着ているので、会場内でもかなり目立っていた。

私も自分の取引先の担当者を見つけると、挨拶に向かった。

何人かと話を終えた後、由井が一人で料理を取っている姿が目に入る。

私も彼に便乗し、取り皿を手に取ると由井の隣につく。


「由井さん。大人気でしたね」

「私はこういった社交場にはあまり出席しないので、珍しがられてるだけですよ」


由井はサラダやサーモンのマリネ、一口切りのステーキなどバランスよく皿に盛り付けていく。

私は一口で食べれる料理を中心にピックアップしていく。

ホテルのスタッフからドリンクを受け取るとテーブルに皿を置く。

私は手早く料理を口に運ぶ。ホテルの料理だけあって当然美味しいが、もっとゆっくりした状況で食べたかったと思う。

すると、私が担当している西川製菓の担当者がこちらに近づいてくる。


「中城さん、お久しぶりです」

「野田さん、お久しぶりです。今年一年お世話になりました」

「こちらこそお世話になりました」


野田はちらっと由井の方を見る。


「失礼ですが、水橋屋の由井社長でしょうか?」

「はい」


どうやら彼の狙いは由井のようだ。

簡単な挨拶が終わると、身体を由井の方へと向ける。


「はじめまして、私は西川製菓の野田と申します」


彼らは名刺交換を行う。


「水橋屋のご担当も中城さんがされていたんですか?」

「はい、そうなんです。たまたまご縁がありまして」

「中城さんは私の婚約者なんですよ」


笑顔で告げる由井の言葉に思わず野田は固まる。

その様子をみた由井が静かに弁明する。


「冗談ですよ」

「じょ、冗談…?びっくりしましたよ」


彼はこうして人をからかう癖がある。

初対面の人であればどう対応していいかわからないだろう。私も通った道だ。

それすらも彼は面白がっているのかもしれないが。


「ぜひうちとの共同製作もご検討いただきたいので、ぜひお打ち合わせをさせてください」

「それはぜひ」


それぞれ情報交換を終えると、野田はお辞儀をしてその場を離れる。

野田はまた違う相手に話しかけに向かったようだ。


21時を過ぎたところで会はお開きとなった。

取引先を見送った後は各自解散のため、私は控え室に荷物を取りに戻る。

そこには友香と高須の姿があった。


「安達さん!夜景見に行きましょうよ!」

「はい、残念。これから取引先と会食なの」


高須の猛攻を華麗に(かわ)しながら、友香はテキパキと帰る準備をしている。


「イブに会食ですか?」

「イブとか関係ないから」

「そいつ安達さんのこと好きなんじゃないですか?」


高須は()ねたように呟く。

そんな彼を見て、友香はふっと笑う。


「なに、君いっちょまえに嫉妬してるのか」

「当たり前じゃないですか」

「残念でした。お相手は女性なのでご心配なく」

「俺も行っちゃだめですか?」

「ダメダメ。高須くんの担当先じゃないでしょ。それに予約済みだから」


友香はコートを羽織ると控え室を出る。


「翔子、おさき〜」

「うん、お疲れ」

「中城さん、お疲れ様です!安達さん、そこをなんとか〜」


高須が友香に食い下がりながら、あとを追いかける。

入れ替わるように奥村が控え室に入ってきた。

もうベンチコートは着ていなかったので安心する。温かい場所にいれたということだろう。

彼は真っすぐ私のもとへと歩み寄ってくる。

そして少し恥ずかしそうに、口もとに手をあてながら小声で話す。


「中城さん、このあとお時間ありますか…?」

「あ、なにか手伝いますか?」

「いえ、その、もしよければこのあとご飯とかどうですか?」

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