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【完結】30歳、処女が恋愛指南していたけど、自分の恋愛は対象外です!  作者: 結城トウカ


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第59話 目には目を、歯には歯を

「さあ、今回ご紹介するお菓子は水橋屋の新商品になります」


笑顔でこちらに目配せをする由井。

彼の手元には様々な動物を模した練り切りが置かれていた。

ネコやパンダなど人気の動物や干支の動物など種類は幅広い。

干支の動物は、時期的に正月商戦も意識しているのだろう。

私が由井に新商品の相談をしてから約2週間、これだけの種類を用意してくるのは驚いた。

さすが由井も認める彼の弟の手腕だ。

私も味見をさせてもらったが、滑らかな味わいがとても美味しかった。親指サイズのコンパクトさにも関わらず、細部にまで造形を(こだわ)ってる。さすがの逸品と言わざるをえない。

水橋屋のお菓子で意識されているのかもしれないが、どのお菓子も一つでは物足りないと感じさせる。


「かわいらしい形をした練り切りで食べるのがもったいないくらいですね」


由井はネコの形をした練り切りを手に取ると、そのまま口に運んだ。

噛みしめるようにゆっくりと食べる。


「上質なあんこが入っていてとても美味しいですね。見た目もかわいらしくギフトにぴったりですね」

「はい、OKでーす!」


その声を皮切りに周りが騒がしく動き始める。

由井は軽く息を吐くと、レフ板に囲まれた場所から離れる。

私は彼に近づくと声を掛けた。


「もうだいぶ慣れてきたんじゃないですか?」

「話す相手がカメラというのが難しかったですが、中城さんにカメラの後ろに立ってもらえると、お客様のイメージが湧きやすくてやりやすかったです。ありがとうございます」


そう、私が彼に提案した企画は、SNSを使ったプロモーションだ。

彼が商品を紹介することで若い女性を中心に、かなり注目を集めている。

コメントもかなりついていて、再生数もうなぎのぼりだ。

彼の容姿と甘い笑顔に引かれて見ているユーザーが多いのだろう。

今日は、スタジオを借りて追加のショート動画の撮影を数本行っているところだ。

前野も一緒にいるが、たまに営業の電話対応をしているくらいで暇そうだ。

今も私の横で大きなあくびをしている。

撮影した動画のチェックを終えると、私たちは次の場所に移動する。


向かった先は、都心の駅前にある水橋屋の店舗だった。

事前にSNSで由井の来店を告知していたこともあり、既に長蛇の列が並んでいた。

由井が車から降りると、黄色い歓声が()く。

いつもの笑顔を彼女たちに振りまくと、店内に入っていった。

そして、店内で飲食を楽しむお客様への接客を始める。

配膳をする由井を、女性客たちは目を輝かせて見ている。

彼が「ごゆっくりどうぞ」と微笑むだけで、うっとりとした表情を浮かべていた。

ちょっとしたアイドル並みの人気だ。

私と前野は店舗へ並ぶお客様の整列を促す役をかってでた。

しかし、彼がいると列を乱す女性客が現れてしまったので、もれなくその役は剥奪された。

代わりに、由井から店内の接客担当を任されていた。

店員の和装姿に包まれた前野は普段と違った装いだ。

楽しそうに話す彼女たちの中には由井目当ての人が多いはずが、どちらが好みかと客同士で論争に花が咲く。

花より団子とはよく言ったものだ。

ここでは、その(ことわざ)は全く通用しない。

でも、その中に「水橋屋のお菓子見た目もかわいくて美味しい」と言った声もちらほら聞こえたのが少し嬉しかった。


私が考えた予備の策は、彼が水橋屋の店舗で接客することで集客する、というものだ。

彼に接客をするように依頼したのは、今訪れているような都心にある店舗だ。特に駅前に構えている店舗を中心としている。

店に並んでいる様子を見た人たちは、水橋屋が気になってくることだろう。

これは、お菓子博覧会で学んだことだ。

長蛇の列を成す店があれば、人はどうしたって気になる。

そのまま列に並んでくれてもよし、もし()いているタイミングがあれば、そのときに来店したくなるだろう。

さらに、そういった口コミが広がっていけば、メディアも食い尽くはずだ。

そうすればさらなる創客に繋がる。階段式に顧客を呼び込むという策略だ。


「お疲れ様でした」

「ええ、さすがに疲れました」


店舗の裏で休む彼に私も同席した。

撮影がある日は彼の予定に付き合っている。

お客様の反応を見れる機会は貴重だ。

実際に彼の人気が(すさ)まじいことを痛感した。

何より最初の頃こそ衝撃的な態度だったが、前野との約束以来、彼は特に何かしてくることはなかった。

むしろ、ひたむきに仕事に取り組む様子に彼の印象が変わりつつある。


「話題を聞きつけたテレビ局から取材をさせてもらえないか、と申し込みが来ましたよ」


由井は温かい緑茶の入った湯呑みに口をつける。

同じく飲もうとした手を止め、喜びの声をあげた。


「それはよかったです!メディア露出も目標の1つでしたし!」

「ええ、今でも店舗によっては、5倍ほど売上が伸びたとのことです。新商品の売れ行きもかなり順調とのことでした。テレビで特集してもらえれば、全国的に売上が伸びるかもしれません。中城さんと前野くんのおかげですね」


嬉しい言葉だった。

今までの経験が活きた結果でもある。


「俺は何もしてないですよ」

「いえいえ、私のモチベーションに繋がったのですから、前野くんのおかげでもありますよ」


前野は呆れたようにため息をつくとお茶を飲む。


「あっつっ!!」


お茶が熱かったのか、前野の舌は少し赤くなっていた。


「前野くんは猫舌なんですね」


楽しそうに笑う由井に、言い返す言葉が見つからないのか前野は悔しそうに睨みつけていた。

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