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【完結】30歳、処女が恋愛指南していたけど、自分の恋愛は対象外です!  作者: 結城トウカ


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第58話 面白い人間

面白い人間は少ない。

型にハマる人間。伝統を重んじる人間。肩書きしか見ていない人間。

そして、大人になるとそれは顕著に現れる。

格式高い家に生まれたため、そんな人間をごまんと見てきた。

そんな人間から終始監視され、縛られる。私もそんなつまらない人生を送っている。

このまま終わるつもりは毛頭ない。だが、その機はまだ熟していない。

だからこそ、この退屈な生活に彩りを加えている人間に(そそ)られる。

あの二人は面白い。肩書きに囚われず、自らの道を歩いている。

特に彼はからかい甲斐がある。

噛みついてくるようなあの表情は、とても良い。


車のブレーキに、身体が少し前に押し出される。

運転手が到着を告げると、(まぶた)を開けた。

車を降り、見慣れたオフィスのエントランスで受付をする。

来客用のパスをもらうと、エレベーターに乗り込んだ。

階数表示のあるパネルボタンが表示されているのはドア脇のみだ。

先に乗り込んでいた男を避けるようにパネルを覗き込むと、「3」のランプが既に点灯していた。

しかし、不思議なことにもう一箇所「5」のパネルが光っていた。

エレベーターには私と彼の二人しかいない。

彼の横顔に視線を動かすが、見覚えはなかった。

私とは違う色のネックストラップを首から下げているところから、この会社の社員なのだろう。

つまり、彼の方は私のことを知っているということになる。尚且つ、私の行き先を知っているとなれば可能性は絞り込まれる。


「失礼ですが、中城さんか前野くんのお知り合いですか?」

「僕の親友と大切な人です」


男は振り返ることなく答えた。

私はそのまま背中越しに彼に話しかける。


「そうなんですね。いつもお二人とは楽しくお話させていただいているんですよ」

「あの二人に何かしたら、僕は許しません」


彼はちらっとこちらを見る。その眼差しは鋭いものだった。

思わぬ伏兵の登場に笑みがこぼれる。

エレベーターが停止し、扉が開かれた。

私は3階に降り立ち、男の方へと振り返る。

彼の視線は真っ直ぐと私を捉えていた。

私は彼への親しみを込めて微笑んだ。


「なるほど、肝に銘じておきましょう」



今日は企画案を由井に提案する日だ。

彼との約束の手前、前野も同席はしているが、今回由井と話すのは私の役目だ。

今まで助けてもらった分、私も自分の仕事をしっかりしなければと意気込む。


来客用の会議室に再び由井が訪れた。

彼はどこか嬉しそうに笑っている。


「どうかしましたか?」

「いえ、面白くなってきたなと思いまして」


彼の言葉に私と前野は顔を見合わせる。

だが、由井はその理由を語るつもりはないようだった。

私は空気を切り替えるように軽く咳払いをする。


簡単な世間話で場を和ませると、提案資料を指し示しながら話をしていく。

時折、由井が質問を投げかけてくるが、私が回答すると納得している様子だった。

提案の感触としては悪くないと感じた。

ひととおり提案が終わると、私は由井に尋ねる。


「資料としては以上となります。ここまででご質問はありますか?」

「いえ、気になるところは適宜お伺いできましたので」

「ありがとうございます。最後に、これはご相談なのですが、プロモーションに合わせて水橋屋の方で新商品を発売していただくことは可能でしょうか?」

「新商品ですか?」

「はい、売れ筋の水まんじゅうだけでなく新しい商品があれば、提案の内容と合わせることで相乗効果があるのではないかと思っています」

「なるほど、新商品については私だけでは決めかねるので、弟に相談してみます」

「真さん、ですよね?」

「ええ。彼は水橋屋の職人として今も働いています。新商品の開発にも積極的に取り組んでいるんですよ」

「信頼されているんですね」

「彼は私と違って和菓子職人の才能もあり、水橋屋に相応しい。兄として誇らしいですよ」


弟のことを余程信頼しているのだろう。由井は今までとは違う優しげな表情を浮かべていた。

すると、彼はもう一度資料を(めく)り始める。

何か気にかかることがあるのだろうか。


「心配事があれば何でも仰ってください」


私は由井に尋ねる。彼は腕を組み、考え込んでいるようだった。

その凛とした表情を見ると、彼が水橋屋を背負っているということを改めて実感する。

私と同年代で社長を任せられるという責任の重さは相当なものだろう。


「お話はわかりました。しかし、そんなに上手くいくでしょうか?情けない話ですが、こういったマーケティングのような知識は持ち得ていないので、これで上手くいくのかと半信半疑なのです」


彼の問いかけに答えようとしたとき、由井はその答えを前野に求めた。


「前野くんはどう思いますか?」

「え、さあ、俺はこういうの専門外なので」

「君個人の意見で構いませんよ」

「客層が若いんなら、効果あるんじゃないですか。予備の策もあることですし」

「なるほど、そうですね」

「由井さん、使えるものは使いましょう!」


私は両手で拳を握り、力強く声を掛ける。


「わかりました、この案でいきましょう」

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