第6話 練習 その1
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僕と映画を観に行ってくれませんか?
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奥村からメッセージが届いた。
内容からして、お相手に送るデートのお誘いなのではないだろうか。
(誤爆…?)
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宛先あってますか?
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すぐ奥村から返信が来る。
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あっています。
女性が喜ぶ場所とか実際に行ってみたいと思っていまして…
中城さんがいてくれたら、僕が気づかない場所とか仕草とか気づいてもらえるかなと…
友人から映画のチケットももらったので、もしよければどうでしょうか。
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(もしかしてお相手とデートの約束を取り付けたのかな!?
そのためのリサーチ…!)
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わかりました!リサーチ是非同行します!
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私は勢いよく返事をする。
お相手の追加情報があると嬉しいが、特になさそうだった。
それなのにデートを取り付けるとは、奥村も相当頑張ったのだろう。
日程を決め、スマホを閉じる。
「よーし!理想のデートプランを練るぞ~!」
私も彼の努力が実るように精一杯やり遂げよう。
ノートを取り出し、付箋だらけの漫画を取り出し、いくつか候補のプランを書き出していた。
◆
ーーーお出かけ前日ーーー
明日のデートプランは決まり、実際どう回るかも無事決まった。
「さあ、明日に備えて早く寝ようかな…」
そこでハッと気づく。
明日は奥村とデートの練習だ。
となると、私もそれらしい格好じゃないといけないのか?
そもそも男性とお出かけって初めてでは?
私はクローゼットを勢いよく開ける。
服をベッドの上に放り投げると、服の組み合わせに頭を抱える。
「あ~、どうしよ~~~。どの組み合わせが…」
その時、視界に漫画が入り込んでくる。
「そうだ、こういうときこそヒロインの格好だ!」
ページを捲っていき、各作品のヒロインの私服の格好を見比べていく。
少女漫画が多いからか、ワンピースやふりふりのスカートを着ているキャラが多い。
私の年齢では着れないような格好だ。
「こ、こんなかわいい服持ってないよ…」
大人向けの女性漫画も眺めていく。
大人っぽいシャツにワイドパンツの組み合わせだ。
「こういう感じならいける!」
いつかのために今度買い物にでも行こうと心に誓う。
明日の服装も決め終わり、時刻を確認する。
「もう0時過ぎてる!?」
急いで寝る準備を済ませ、ベッドに入る。
(明日はスムーズに回れるように頑張らないと)
(10時には家でないと)
(映画も楽しみだなあ。ちょっと気になってたんだよね)
明日のことを考えている内に、何度も寝返りをうっている自分に気づく。
(あれ…?)
「どうしよう…寝れない…」
◆
「チュン…チュンチュン…」
スズメの鳴き声が窓から聞こえてくる。
朝の日差しがカーテンの隙間からわずかに部屋にこぼれている。
「朝になってしまった…」
寝れても2時間起きくらいに目が覚めて、逆に全然寝れた気がしない。
身体の疲労感を既に感じる。
待ち合わせまであと6時間。
移動時間まで考えるとあと5時間。
化粧とか出かける準備を考えるとあと4時間。
寝れる時間は刻一刻と迫っている。
(中途半端に寝るより、もう起きてしまえ!)
勢いよく起き上がり支度を始める。
鏡を見ると、目の下に濃いクマができていたが、
コンシーラーを重ねて、どうにかわからないくらいまで消すことができた。
眠かったはずの身体も徐々に慣れてきたのか、何も感じなくなってきた。
待ち合わせには早いが、初めて行く場所なので迷ってしまうかもしれない。
準備を済ませると、予定より早めに家を出る。
晴れ晴れとした日光が身体に降り注ぐ。
まだ午前中というのに、気温が既に高い。
夏がもうすぐそこだ。
地図アプリを使いながら目的の場所に無事たどり着く。
待ち合わせ場所は都心部にある大型ショッピングモールだ。
映画館やカフェ、色々なショップも参入しており、ここだけで1日過ごせる場所だ。
理想のデートプランも組んできたのだ。
今日は彼の本番が成功するように、しっかりとエスコートしよう。
待ち合わせ時間の20分前。
私服姿の奥村がやってきた。
白の半袖のシャツに黒パンツという、私服からも真面目さが窺える装いだ。
「すみません、僕、時間間違えてましたか…」
「いえいえ、私が早く着いただけなので!」
奥村が私の顔をじっと見つめる。
無言で見つめられるので、何だろうとぎこちない笑顔で見つめ返す。
「あの、もしかしてあんまり寝てないんですか?」
「え?」
十分隠したつもりだったが、目のクマに気づいたのか。
意外と観察力が鋭い。
(実は今日のこと考えすぎて寝れなかったなんて言えない…どうにかごまかさないと…)
「あ、いや、まあ昨日色々あって…」
「もしかして…あ、いや何でもないです」
(何を言いかけたんだろう?)
奥村は気まずそうに目を逸らす。
詮索するのも野暮というものだ。
私は空気を切り替えるように、パンっと手を合わせる。
「早速行きましょうか!」
「は、はい!よろしくお願いします!」
最初の目的の場所は、ショッピングモールの目の前の通りにある。
女性が好むSNS映えするパフェもあれば、ランチプレートやハンバーガーなどの軽食もある、人気のカフェだ。
「まずはこちら!SNSで話題のカフェです!」
目的地はランチタイム前にも関わらず、既に10組ほどが並んでいる。
そのほとんどがカップルばかりだ。
休日とこの天気の組み合わせが揃えば、もうデート日和ということだろう。
「さあ、私達も並びましょう!」
最後尾に並ぶと、奥村への恋愛指南も兼ねて話を始める。
「こういった待ち時間も活用してください!待ってる間の姿とかも女性は結構見てるので!」
私はノートを取り出し、話題に使えそうなものを奥村に見せる。
これは以前奥村に渡した恋愛資料のコピーだ。
「天気から入るのは定石なんですが話題を広げるのが難しいので、あくまで話題の繋ぎとして使ってください。
趣味とか、休みの日はどんなことをしてるのか、学生時代何してたとかは、どんな相手でも使えますし、話題も広げやすいですよ!
あ、できたら仕事の話は避けたほうがいいですね。
今日はデートということを意識してもらったほうがいいので」
「なるほど、勉強になります…!」
「ちょっと練習してみますか?」
「あ、はい…!よろしくお願いします!」
奥村は少し緊張した様子で話し始める。
「では…中城さんは趣味とかは何かあるんですか?」
「私は漫画読むのが好きですね」
「そうなんですね」
沈黙。
奥村は口を開けたままフリーズしてしまっていた。
話の広げ方がわからなかったのだろうか。
「奥村さん、そこは、「どんな漫画読むんですか?」とかで話を広げないと…!」
「あ、すみません!」
会話の練習しているうちに、ようやく我々の順番がくる。
お昼時ということもあり、ランチプレートと話題のパフェを堪能する。
口コミ通り見栄えも味も大変満足できた。
食事を済ませると、会計のためにレジへと進む。
奥村が私に向かって控えめに手のひらを広げる。
「今日は僕が持ちますので!」
「え、でも…」
「エスコートの練習だと思いますし…!」
たしかに、男性が多くもつもしくはお代をもつというのは女性の好感度が上がるポイントだ。
これも練習の一つと捉えられるか。
それに彼からしたら、無償でやってもらうことに後ろめたい気持ちがあるのだろう。
それが解消できるのであれば、お互いその方がやりやすいというものだ。
「な、なるほど、ではお言葉に甘えて…」
店員が私達を見定めると、笑顔で話しかけてきた。
「お客様カップルの方ですか??」
「え?」
「本日はカップル割引をしていまして、カップルの方はお会計20%オフなんです!」
店員が指し示した案内板にはたしかに今聞いた内容が書かれていた。
私達は目を見合わせる。
だからカップルが多かったのかと合点がいった。
ここはカップルということにしておいたほうがいいか、それとも素直に違うと答えるべきか。
お互いなんと言おうか悩んでいた。
店員はそんな我々の様子を気にせず、話を続ける。
「カップルの方でしたら、証明のためにこの場でキスしていただきまーす!」
「えぇ~!?!?!?」
思わず2人の声が重なった。