第49話 新たな予感
5人で遊園地に行った週明け。
私は友香と会社近くでランチをしていた。
定食の唐揚げをつまみながら、彼女は私に問いかける。
「週末さ、翔子たち、高須くんと私を2人にしようとしてたでしょ?」
「えっ」
思わず箸を止め、友香に顔を向ける。
さすがに露骨だったかと反省する。
どう言い訳しようかと言い淀んだ私を友香は見逃さなかった。
「やっぱりな~。なんか変だと思ったんだよ」
「ま、まだ私何も言ってないよ」
「バレバレだから。顔に書いてあるもん、高須くんとくっつけようと企んでましたって」
「うぅ…ごめん」
「まあ別にいいけどさ」
一定のペースで食べ進めていく友香。
私は彼女の顔色を窺う。
「お、怒ってる…?」
「怒ってないよ。どうせ彼にせがまれて断れなかったんでしょ?」
「うん…でも高須くんも本気で考えてたから協力しようと思ったの」
「彼は若いからね、色んなことにすぐときめいちゃうのよ。ま、これもいい経験になるでしょ」
淡々と述べる友香は、高須のことを他人事のように話していた。
彼のイメージがどうしても軽いので、恋愛に対しても、そう連想してしまうのは致し方ない。
それでも彼が友香に思いを馳せている姿は、普段の一面とは違って見えていた。
しかし、残念ながら彼女本人にはそれは伝わっていないようだ。
「まあでも今度から彼に手を貸すのはなしね」
「はい…」
釘を差された私は素直に彼女の言葉を受け入れた。
高須には申し訳ないが、親友との友情と引き換えにはできない。
友香がランチを食べ終わっていたことに気づくと、私は急いで自分の分を食べ進めた。
会社に戻ると、エントランスで野上部長がぺこぺこと頭を下げている。
彼がここまで腰を低くしている姿は珍しい。
余程、大口の相手なのだろうか。
手を揉んで話しているが、そんな露骨なゴマすりは逆効果に思えた。
その野上部長と相対しているのは、男性物の着物を着用している男性だった。
会社ではスーツを着ている人ばかりなので、余計にその服装が浮いてみえた。
エントランスにいる社員たちも彼の出で立ちが気になるようだ。
誰もが彼に視線を向けていた。もちろん私たちも例外ではなかった。
私たちはエレベーターでオフィスに戻ろうと歩みを進める。
彼らとの距離が縮まっていくと、会話の内容が聞こえてきたので、つい耳を澄ましていた。
「ええ、もう、是非うちでお願いできればと」
「はい、家の者とも相談してみます」
やはり取引先の相手のようだ。
彼らの横を通り過ぎるとき、着物の男性と目が合った。
「あれ…」
すると、彼は野上部長を押し退け、私のもとへと近づいてくる。
笑顔を浮かべているだけで、周りにいる女性たちの黄色い歓声が静かに上がる。
それほど眉目秀麗だった。
着物を着ているからか、どこか落ち着いた雰囲気も漂わせている。
よくよく見ると、彼の面持ちはどこか見覚えがある気がした。
大きな瞳が真っ直ぐ私を捉えている。
まるで獲物を狙うハンターのようだ。
「もしかして中城翔子さんですか?」
突然名前を呼ばれたことに驚く。
しかし、なぜ彼が私を知っているのかわからなかった。
これほどの人物であれば記憶に残るはずだが、全く覚えがなかった。
(ど、どちらさま…?)
「あ、すみません。直接お会いするのは初めてなんです。私、由井薫と言います。以前あなたとお見合いする予定だった者です」
お見合いというフレーズに、私はお盆の帰省時に母親から見せられたお見合い用の写真を思い出した。
「あ…」
私の表情を見て察した由井が優しく微笑む。
「思い出していただいて嬉しいです。中城さんは、こちらにお勤めなんですか?」
「あ、はい。由井さんはどうして…」
「私は一応和菓子「水橋屋」の社長務めているんですが、昨今、和菓子業界も苦境に立たされているので、ここは一つ集客のために動くべきだろうと思い立ちまして。そこでプロモーションをお願いできればと考えていまして、色々と悩んでいるところです」
水橋屋と言えば、全国にも店舗を展開している和菓子の有名店だ。たしか和菓子の中でも水まんじゅうが人気だったはずだ。
まさかそんな人物がお見合い候補にいたとは思わなかった。
彼自身もかなり若く、私と同年代くらいではないだろうか。
その若さで水橋屋を取りまとめているのかと驚いた。
私たちの様子に気づいた野上部長が会話に加わる。
「由井さん、中城くんと知り合いなのでしょうか?」
「はい。中城さんもプロモーション部の方なんですか?」
「ええ、ええ、そうでございます。あ、明日の会食にはこの中城くんも同席いたしますので」
「本当ですか?それは楽しみです」
にこやかに話す2人だったが、私は野上部長を横目で睨みつける。
(そんな話は聞いてないけど!?)




