第46話 遊園地 その1
「キャアアアアアアアア」
ジェットコースターに乗った女性客の悲鳴が空から降ってくる。
「さっぶい」
友香は両腕を抱え身体を震わせる。
11月中旬になり、ただでさえ冷気がひしめく季節だというのに、今日は風も強い。
私も天気予報に従い厚着をしてきたが、それでもかなり寒かった。
「さあ、皆さん!今日は楽しみましょう!」
誰よりも元気な高須はパーカーにジャケットを羽織っており、傍から見たら大学生のようだ。
彼を追いかけるように、私たちは園内に足を進めた。
寒空の下にもかかわらず、遊園地には賑やかに人が歩き回っている。その多くは学生のような若者が中心のようだ。
高須の友香への想いが成就すればと、先日居酒屋でアドバイスをしたが、一度フラれた手前、2人で出掛けるのは厳しいと高須は考えていた。
そんな彼に自分をサポートしてほしいと懇願された私たち3人は、付き添いの形で巻き込まれることになった。
表向きは、社内プレゼンの慰労会としている。
友香からは「なぜ遊園地?」と詰め寄られたが、キャンペーンで入場チケットがたまたま安く手に入ったとごまかしていた。
実際、前野の交友関係のツテを使って格安で入場チケットを入手できているのだから、あながち嘘でもなかった。
友香は高須のことを気にする素振りも見せなかった。
彼から告白したと聞かされてなければ、今まで通り仲の良い先輩後輩のようにしか見えなかった。
私は無意識に奥村を目で追っている自分に気づく。
だが、彼の服装が気になるというのを言い訳についまた見つめてしまう。
(やっぱりあの服って…)
コートの下に着ている服が、以前2人で出掛けた際に奥村が購入した服装に見えるのだ。
しかし、何度見てもあの時の服に違いなかった。
2人にしかわからない秘密を共有しているようで少し嬉しかった。
私たちは手始めに待ち時間が少ないアトラクションに乗り込む。
できるだけ高須と友香が横並びになるように配慮したが、友香が嫌そうな素振りをした場合は無理強いをさせないと私たちの中で決めていた。
無理に一緒になることで嫌な気持ちを感じてしまえば、高須への印象が悪くなってしまうと思ったからだ。
私は久しぶりの遊園地で遊ぶうちに学生時代に戻ったかのようにはしゃいでしまう。
だが、身体は学生時代と同じわけもないので、その反動で疲労が一気に襲ってくる。
「そろそろなんか食べない?」
前野が皆に呼び掛けた。時計をみると13時近かった。
そう言われてみれば空腹を感じる。
「私もお腹空きました」
「私も〜」
全員の同意がとれたところで、昼食もかねて休憩することになった。
しかし、ちょうど昼どきだったので、暖かい室内レストランは満席となっていた。
仕方がないので、近くの屋外に設置されたパラソル付きのテーブルを取ることになった。
風はだいぶ収まってきていたので、ここでも問題ないという話に落ち着いた。
各々好きなメニューを注文し、出来上がった料理を自分で取りに行く形式だった。
それぞれ頼んだ料理を運んでくると、皆寒さを紛らわせるような温かいメニューにしていたようだ。
そのとき注文した料理が奥村と同じだったことに気づきいた。そんな小さなことまで意識してしまう。
奥村もそのことに気づいたのか、こちらに微笑みかけてくる。
それがより私の胸を温かく満たしてくれた。
私は湯気の立つドリアを口に運ぶ。
火傷しそうになるくらい熱かった。
息を何度か吹きかけ、熱を冷ましてからもう一度食べる。
お腹の中が温かくなっていくのを感じた。
「この後どうします?」
ラーメンをいち早く食べ終わった高須が声を掛ける。
「お化け屋敷とかは?」
前野がついに提案する。
いついくかは決めていなかったが、待ち時間を考えると早めに向かうべきだろう。
高須の顔が強張っていた。無理もない。
これが今日の本来の目的だ。
ここで友香の心を掴めるかがかかっている。
恋愛はそう単純な話でもないが、塵も積もれば何とやらだ。
これをきっかけに友香の気持ちも変わるかもしれない。
「いっすね!行きましょう」
覚悟を決めた高須は鼻息荒く、意気込んでいるようだ。
童顔な彼はどうしても可愛らしく見えてしまう。
「あ、僕ちょっとアトラクションに酔っているから、少しこのまま残っててもいいかな…」
奥村はあまり食欲がないのか、ドリアもまだ残っていた。
彼らを気遣っているのか、本当に体調が悪いかわからなかったが、どちらにしても私もこの場に残った方がいいと判断した。
「じゃあ、私も付き添いで残りましょうか?」
「まあ、一人にしておけないもんね」
私は前野にアイコンタクトを送る。
ここまできたら、2人で行かせたほうがいいだろうと思ったからだ。
「じゃあ、俺も残ってるよ」
察した前野も私の提案に便乗する。
「えー、それなら奥村くんよくなってから、皆で行けばいいじゃん」
「でもここのお化け屋敷有名らしいから早めに並んでおいたほうがいいんじゃない?」
ここのお化け屋敷はかなり本格的で、お化け屋敷目当てで訪れる人もいるくらいだ。
友香は折れて高須に呼び掛ける。
「じゃあ高須くん先に並んでいようか」
「はい!行きましょう!」
張り切る高須の行く末を祈りながら、私たちは2人の背中を見送った。




