第45話 高須の悩み
「俺、実は…」
「あれ、直じゃん。あ、中城さんも」
高須の後ろから前野と奥村がこちらに歩いてきた。
2人とも仕事帰りのようだ。
だが、彼らのオフィスは別の階だ。何かプロモーション部に用事があるのかもしれないと想像した。
「プレゼン上手くいったって聞いたから、飲みに誘おうと思って来たんだけど…」
前野と奥村には定例会後にプレゼンの結果を報告していた。その連絡を受けて誘いに来てくれたのだろう。
「もしかして、お邪魔だった…?」
高須と私の間に広がる雰囲気に前野は何かを察したようだった。
私も高須の用件が何なのかわからなかったので、何も言えなかった。
私は答えを求めるように高須に目を向ける。
「いや、むしろ陽介先輩も草太先輩にも聞いてほしいです!」
いつの間に先輩呼びをする仲になったのかと驚いたが、さすがにこの場は言い留めた。
「じゃあ、とりあえず場所変えるか?」
「安達さんにも声掛けましょうか」
「あ、友香はもう帰っちゃってて…」
「いや、むしろその方が助かります」
高須の言葉が気になったが、ひとまず話の続きは移動した後にすることになった。
せっかくなので4人で飲みに行くことにした。
駅前にある居酒屋に入る。前野のおすすめの店らしい。
店内はそれほど広くなかったが、ちょうど席が空いていたので、待ち時間なく座れた。
店に入るとでかでかと鶏の絵が掛けてあるのが目に入る。そして、入口近くには日本酒の一升瓶も数多く並べられていた。
前野から鶏料理と日本酒が美味しいと言われたが、彼に教えられなくても店側が力を入れているということが一目で分かった。
飲み物と食べ物を軽く注文し、高須の話の続きを待った。
「実は…俺…安達さんのことが好きになっちゃったんです!!」
周りにも聞こえるような大きな声で宣言する高須。
一瞬、その場にいる全員の動きが止まった。
ようやく我に返ったところで彼に尋ねる。
「え、高須くんが友香のことを…?」
「安達さん、俺のこといつも見てくれるしフォローもしてくれて、頼りになるしカッコいいし、そんで俺ビビッときちゃったんです。この人しかいないって」
高須がトラブルメーカーだから注意深く見ていたとは言えなかったが、理由はどうあれ友香が彼を気にかけていたのは事実だ。
「でも、わかる気がする。ちょっとしたことで、その人のこと好きになっちゃうんだよね」
しみじみと話す奥村の姿に私は複雑な気持ちになる。
きっと好きな人のことを思い浮かべているのだろう。私は彼を見なくてすむようにお酒を飲んだ。
そのとき、ふと前野の表情に陰りがあることに気づく。
(あれ、なんか前にも…いつだっけ…)
思い出そうとしているところに、高須が奥村に言い寄っていて思わず目が移った。
「草太先輩、わかってくれますか!?」
「え、あ、うん」
飲み物と注文したサラダや唐揚げ、フライドポテト等が運ばれてきた。
一旦話を中断し乾杯をする。
「でも、直がそんな悩むなんて意外だな。お前ならすぐ告白しそうなのに」
「いえ、もう告白しました」
「「「え!?」」」
予想外の返答に3人は声を揃える。
思ったらすぐ口にしてしまうタイプだとは思っていたが、恋愛においても同じだとは驚いた。
「でも振られました…」
うなだれてる彼は悲しそうに呟く。
その落胆ぶりを見ると、友香への気持ちがいかに本気だったかが伝わってくる。
彼のことだ。今話した友香への思いをそのまま伝えたのだろう。
「高須くんは後輩だから、そういう関係にはなれないって…」
彼女もハッキリしている性格なので、後腐れのないように告げたに違いない。
それが彼女なりの優しさなのだ。
「たしかに友香の好み的に高須くんはちょっと違うかもしれない…」
「ここは恋愛マスターかつ安達さんの親友である中城さんにアドバイスをいただきたく…!」
高須は諦めるつもりはなく、再度友香にアタックするつもりのようだ。
手を合わせて懇願する彼を無下にすることもできない。
「う~ん、そうだな…」
友香の元カレである正志さんは、歳上で落ち着きがあり、それでいて男意気のある感じだった。
高須は歳下であるし、どちらかというと可愛げがあるタイプだ。
友香のタイプには該当しない。
年齢に関してはどうしようもないが、他の部分は改善の余地がある。
「友香は落ち着きがあって、男らしい感じの人が好きな気がする…」
「落ち着き…」
前野と奥村は高須に目を向ける。
唐揚げにかぶりつくと喉に詰まらせていた。慌ててビールで流し込む様子を見ていると、落ち着きからは程遠いと思い至る。
「あとは男らしいか…そもそもアピールする場がないよね」
「例えば、誰かに絡まれてるところを助けるとか?」
「絡まれるシチュエーション作れないでしょ」
「あとは、怖がっているところを勇敢に助けに行くとか」
「怖がってるところもないでしょ」
「あ、そうだ。お化け屋敷とかは?」
「まあそれなら…」
「中城さん、安達さんがお化け苦手とか知らないの?」
前野と奥村の掛け合いから、突然私に話が振られる。
私は過去の記憶を遡ると思い当たる出来事を思い出した。
「聞いたことないけど…そういえば同僚が怪談を始めたとき、結構ビクビクしてた気がする…」
「ってことは!」
前野は思いついたアイデアに確信を持ったように笑みを浮かべる。
ほのかに酔っているからか、普段よりテンションが高いようにみえた。
「お化け屋敷に直と一緒に安達さんを連れて行って、怖がっているところを直がカッコよく助けたら、見直すんじゃないか?」
「いいっすね!ありがとうございます!それで行きましょう!」
顔を赤らめている高須は意気揚揚としていた。
「じゃあ、いつ行きます?」
「え?」
私たちは思わず顔を見合わせた。




