第37話 作戦会議 その1
定例会が終わると、皆黙って会議室をあとにしていく。
私たちの行動に賛同する者、批判的な者もいただろうが関わらないのが吉と判断したのか、誰も声を掛けてこなかった。
部長は会議室を出る前にギロリと睨みつけてきたが、彼の威光に臆している場合ではなかった。
次の定例会は2週間後に迫っている。
それまでに部長を納得させるものを提示しないと、プロモーション部での立場が危うくなるかもしれない。
反旗を翻す羽目になった3人は、誰が何を言うでもなくその場に残った。
少し離れた席に座っていた友香が、私たちのもとに歩み寄ってくる。
「全くあんたは翔子まで巻き込むなっての」
友香は高須の頭に軽くチョップをする。
口を尖らせながら友香を見上げる。
「だって、あそこまで言われたら引き下がれないじゃないですか~」
「わからなくはないけど、それにしたって、もっとやり方ってもんがあるでしょうが。よりによって部長を敵に回さなくたっていいじゃない」
「中城さんと安達さんは、このままでいいと思ってたんですか?」
「いいと思ってたわけじゃないけど、部長に意見なんて言えないよ…」
「ふ~ん、そういうものですかね」
彼の肝のすわり方は底が知れないと感じる。
自分が新卒の時は仕事を覚えるのに精一杯で、部長に意見なんて考えもしなかった。
普段はこうして年相応の反応なのだが、自分が思ったことを抱えたままにできないようだ。
「とりあえず2人とも急ぎの業務はない?」
私と高須は揃って頷いたのを確認すると、にやっと笑みを浮かべる。
「じゃあ、このまま作戦会議始めるわよ!」
「あ、じゃあ、俺お詫びに缶コーヒー買ってきますよ~」
高須は元気に会議室を飛び出していく。
「こんだけの騒動起こしておいてお詫びが缶コーヒーって…」
「友香まで巻き込んでごめんね」
「何言ってんの。私は自分から手を挙げたんだからいいの。一番の被害者は翔子だよ」
「まあ、ね…。でも友香がいてくれたら助かるよ」
友香は世話焼きな性格で、誰かが一方的に不利になったとき必ず助けに入るような姐御肌なタイプだ。
私が巻き込まれていなくても、きっと彼に手を差し伸べただろう。
「さて、どうしたものか。あれだけ啖呵を切ったら下手なもの出せないしね」
「そうだよね…」
高須は鼻歌交じりに缶コーヒーを3つ携えて戻って来る。
楽しそうで何よりだが、私と友香はそこまで楽観的に捉えていなかった。
年間目標が簡単に達成できるなら、とっくに対処されているだろう。
部長だって、そこまで役職に甘んじてる訳では無いはずだ。
私たちは、早速コーヒーを飲みながら話し合いを始める。
「一応確認なんですけど、年内に良さそうな案件が入ってくることもないんですよね?」
「ないね。そういう話は営業から聞いてない」
「私たちで新しく何か考えないとだね…」
友香は口もとに手をあて、何か考え込んでいるようだった。
「残りの期間を考えたらB to Bとかかな…」
「B to B?」
「Business to Businessの略で、企業同士の取引のことだよ」
「なるほど」
高須は楽しそうに笑顔を浮かべる。
それに気づいた友香が彼に物申す。
「あんた何笑ってんの?」
「俺、逆境に立たされる状況って好きなんですよね」
「はぁ?」
「だって、これで部長を言い負かしたら最っ高に気持ちいいですよ!」
楽しそうに語る高須に軽くため息をつく。
周りを振り回しつつも、素直な性格だからか応援したくなるような、支えたくなってしまうような気持ちにさせるは彼の強みと言っていいだろう。
「全くそんな簡単な話じゃないんだから」
「自信満々だけど、何かアイデアでもあるの?」
「ないっす」
2人は深いため息をつく。
「あ、でもちょっと思ってることがあって…」
高須のアイデアは自社のプロモーションが足りないのではというものだった。
たしかに、自社プロモーションにはあまり力を入れていない。
あくまで営業力で契約を勝ち取るという方針だ。
比較的会社の体質が古いとも言えるかもしれない。
「自社プロモーションの動画はいいけど、それだけだと弱いな…。あともうひと押しできるものがないと…」
「単発の案件では無理だよね」
「そうね…営業の協力も仰がないといけないだろうけど、何を営業かけてもらうか方針を決めないと…」
「いいっすね、こういうの楽しいです!」
「お前が言うな」
友香は先程より強めに高須にチョップをしていた。
話し合いが始まり2時間。
友香は今日予定があるとのことだったので、続きはまた明日話すことになった。
高須と私は抱えていた業務の進捗を確認しつつ、簡単なものは済ませてから帰宅した。
私は駅のホームで一人、電車の到着を待っていた。
スマホのロック画面を見る。
時刻は20時を過ぎたところだ。
メッセージ通知は何も来ていなかった。
奥村とはあれっきりになっている。
文字を打ち始めては、消すという作業だけを繰り返していた。
早めに連絡をしないといけないとは思いつつも、何を言おうか決められずにいた。




