第30話 私の気持ち
「かんぱーい!!」
テーブルのあちこちで、グラスを交わす音が聞こえてくる。
今日は、先日のお菓子博覧会の慰労会として、プロモーション部、営業部の合同飲み会が開かれていた。
主催者の野上部長は案の定、泥酔状態のようだが、彼の周りにいる営業部の人達が介抱してくれている。
気の毒だが今回は野上部長を彼らに任せ、プロモーション部の面々は気兼ねなくお酒を満喫する。
「中城さん、本当によくやったよね~」
「アミュゾンが参加辞退するって言い出したときは、もうダメかと思いましたよ」
労いの言葉を多くもらい、私自身も誇らしくなってくる。
「私もどうなることかと思いましたけど、どうにか形になってよかったです。これも皆さんのおかげです。私一人ではここまでできなかったです。本当にありがとうございました」
初めてのプロジェクトリーダーだったのもあり慣れないことも多く大変だったが、それ以上にやりがいもあった。
このプロジェクトを今いるメンバーで進められたことに感謝しかなかった。
しかし、感謝を伝えたい営業部の彼の姿が見当たらなかった。
営業部の人に聞くと、どうやら前野は予定があったようで、今日は欠席とのことだった。
彼にも改めて感謝を伝えたかったが、また今度伝えることにしよう。
飲み会は営業部のおかげもあり、平穏に終わりを告げた。
希望者は二次会に行こうという流れになっていた。
友香が私のもとに歩み寄ってくる。
「翔子、二次会どうする〜?」
「私はやめとこうかな」
「まあ、そうだよね~。私も帰ろ」
友香と2人で繁華街の街を歩きながら、駅へと向かう。
少し先の道を歩いている男女の集団が目に入る。その中に、知り合いによく似た人物がいるような気がした。
思わず足を止めてじっと見つめる。気のせいかと思ったが、やはり本人のようだった。
「あれ?」
「ん?どうした?」
そこには女性を両脇に引き連れて歩く前野の姿があった。女性たちは、彼の片腕に自らを絡ませて歩いている。
楽しそうに頬を染めているところを見ると、合コン帰りというところか。
友香も前野に気づいたのか、呆れたように話す。
「モテ男は両手に花だね〜」
「そう…だね…」
友香の言葉に対して、実のない返事をしてしまう。
私は集団の中心にいる前野ではなく、集団を追いかけるように少し離れて歩く2人に目を奪われていた。
奥村ともう一人、見知らぬ女性が私の前を通り過ぎる。距離があるからか、私たちには気づいていないようだ。
大人しそうな可愛らしい女性だ。2人の様子を見ると、とてもお似合いのカップルのように見える。
前野も奥村に好きな人がいることは知っている。
もしかしたら、あの女性が奥村の好きな人なのかもしれない。
彼女と話す機会を設けるために、前野が飲み会をセッティングしたということだろう。
「あの子、たしか管理部の子だよね。奥村くんだっけ?たまにうちのオフィスにも来てるし。翔子ともたまに話してたよね?」
「うん…」
奥村は女性に足並みを揃えて歩いている。
彼の様子を見ると普段通りのように見えた。
今日はお酒を飲んでいなさそうだが、横を歩く女性はしたたかに酔っているようだ。
彼女の足もとがふらつくと、奥村が優しく支えてあげていた。
(そうそう、そうやってエスコートしたら、好感度アップですよ)
心の中でエールを送りながら、駅の方向へと向かう彼らの背中を目で追ってしまう。
私の様子を見ていた友香が心配そうに声を掛ける。
「翔子、なんでそんなに辛そうなの?酔った?」
「え、ううん、そんなにお酒もたくさん飲んでないし」
「でもなんか顔色悪いよ?ちょっとその辺で休んでいく?」
友香の言う通り、足に力が入らなくなっていた。
つられるように胸が締め付けられるような苦しさが広がる。
(あれ…?なんだろう…どうしたんだろう…)
よろめく身体を友香に支えてもらいながら、私達は近くにある喫茶店に入った。
コーヒーを飲み、ひと息つくとだいぶ気持ちが落ち着いた気がする。
「友香、ごめんね。ありがとう」
「私はいいけど、体調は大丈夫?」
「うん、今はもう落ち着いたみたい」
「もう急に辛そうにするから焦ったよ~」
「私もびっくりしたよ。奥村さんたち見てたら、急に胸が苦しくなってきてさ」
その場のことを振り返りながら話すと、友香は何か考え込み始める。
彼女は見出した答えを私に回答する。
「翔子、もしかして、奥村くんのこと好きなんじゃない?」




