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【完結】30歳、処女が恋愛指南していたけど、自分の恋愛は対象外です!  作者: 結城トウカ


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第29話 3人でランチ その2

「書類を処分したのは横幕さんですね」

「証拠でもあるのぉ?私がプロモーション部に行ったときに、たまたま落としただけかもしれないじゃない」


あくまでしらを切る横幕を見据え、奥村は冷静に続ける。


「誰もいないプロモーション部のオフィスから出てくる横幕さんを見たって人がいたんです」

「嘘っ!オフィスには誰もいなかったし!」


勢いのまま答える彼女はハッとする。

自分の(あやま)ちに気づいたのか、一歩後ろに引き下がる。


「そうですね、そういうことをするのであれば人がいないときを選びますよね」

「私を騙したの!?」


怒りをむき出しにしている彼女は、普段の彼女とは思えないほど歪んでいた。


「すみません、カマをかけてしまいました。横幕さんではないと信じたかったので残念です」

「なによ!私よりあんなおばさんを選んだくせに!」

「そのことと中城さんは関係ないです。もう彼女を妨害するようなことはやめてください」

「ふん、今度はもっと痛い目にでも遭わせてやる」


横幕はその場を去ろうとするが、奥村は手首を掴む。

頭に血が(のぼ)っている今の彼女なら、本当に何か()()を起こしかねない。


「やめてください。これ以上彼女に何かするなら、僕は横幕さんを許せません」

「許せなかったらなんなの?」


奥村はスーツの胸ポケットからスマホを取り出す。


「この録音データを出すべき場所に出さないといけなくなります」

「なっ!」


奥村の手を振り払うと、掴まれた手をさする。

横幕は苦虫を噛み潰したような顔をしていたが、観念したのかその表情を緩める。


「わかったわよ。手を出さなきゃいいんでしょ」

「はい、約束してください」

「はいはい、わかりました。中城さんに手は出しませーん」


横幕は奥村を睨みつけると、その場を去る。

怒りが収まりきらないまま、早足で通路を歩く。

彼から幾分か離れたあと、怒りを一気に吐き出す。


「なんなのよ、もうっ!」


どうにかあの2人に復讐できないかということしか考えられなかった。

会社、家族、友人、打てる手はまだある。


(アイツに気づかれないようにすればいい。私を敵に回したことを後悔させてやる!)


横幕が曲がり角を曲がろうとしたとき、反対側から来た人と勢い余ってぶつかってしまう。


「いったぁ。もうどこ見て歩いてるの」

「大丈夫ですか…あ、横幕さん」

「前野さん!お疲れさまですぅ」


にやっと笑みを浮かべる横幕。


(この男オトして、奥村(アイツ)の弱みを聞き出してやる)


「もしよかったら、今度2人でご飯行きませんかぁ?」

「なに、急にどうしたの?草太のことはもう諦めたの?」

「前野さんなら亜美の魅力をわかってくれるかなって思ってぇ。奥村さんってワガママすぎだしぃ、頼りないしぃ、亜美のこと全然見てくれないんですよぉ」


横幕の言葉を聞くと、前野の雰囲気が変わる。

瞳孔が開いた瞳で睨みつけると、じりじりと壁際へ追いやる。

彼女に覆いかぶさるように両手を壁につく。


「お前に草太の何がわかるんだよ。身の程知らずが」

「…っ、何よ急に」


予想外の凄みに気圧され、たじろぐ横幕。

前野はため息をつくと、急に笑顔になる。

その笑顔がより彼の狂気を感じさせた。


「こんなこと言いたくなかったんだけど、俺さ高校のサッカー部の先輩に中村健(なかむらたける)って人がいてさ」

「え…」


横幕の顔色が驚きの表情へと変わる。

それは元カレの名前だった。何故ここで彼の名前が出てくるのかわからなかったが、嫌な予感しかなかった。


「この前、たまたま再会してさ。俺驚いたよ」


スマホを手早く操作し、ある写真を横幕に向ける。

そこには、爽やかな笑顔の男と化粧台に向かって座っている女が映っていた。

横幕はスマホから思わず目を逸らす。

女の顔を見たくなかったからだ。

一重(ひとえ)の眼に、頬にはそばかすがあるブサイクな顔。それは毎日十数年も見てきた顔だ。


「横幕さんって()()してたんだね」


整形は間違いない事実だった。

あの手この手で貯めたお金でようやく自分の望む顔になれたのだ。

当時は化粧やアイプチで隠していた。

これは元カレが面白がって撮った写真だった。

消して欲しいと頼んでいた写真を何故か突きつけられている。

横幕にとって、これ以上ないくらいの黒歴史であった。


「草太にこれ以上近づかないっていうなら、黙っててあげるよ」


微笑みかける前野をどうにか押しのけると、涙を浮かべながら横幕は走り去る。

彼女が退職届を提出したのは、その翌日のことだった。



「急ですね…。何か事情でもあったんですかね…」

「まあ、辞めた人のことは考えたってしょうがないよ」


前野は気にしていないのか、話題を切り上げようとする。

私はもう少し彼女について尋ねたかったが、ちょうどお昼ご飯が運ばれてきたため、話がストップする。


鮮やかなピンク色の焼き鮭から、香ばしい匂いが漂ってくる。

ご飯と味噌汁からも湯気が立ち(のぼ)っている。

その横には副菜の小さな豆腐が添えられていた。中央には生姜とネギがのっている。

食欲をそそる並びだが、私は食べ始める前に机の上にあるポン酢を豆腐にかける。


「草太、醤油いるか?」

「うん」


どうやら男性陣は醤油派のようだった。


「陽介、あれとって」


前野は迷わず七味唐辛子を奥村に渡す。


「はい」

「ありがとう」


奥村は受け取った七味を親子丼に軽く振りかける。

淀みないやり取りを見せられた私は思ったままを呟く。


「なんかお二人、夫婦みたいですね」

「付き合いが長いですからね。陽介は兄みたいな感じです」


奥村の言葉に一瞬、前野の表情に陰りを感じた。


「そうそう、草太は弟的な感じだから」


そう受け答える前野はいつもの笑顔だった。

彼の変化を不思議に思いながらも、気のせいだったかもしれないと思い直す。


それから前野を中心に会話を広げていくが、横幕の話題になることはなかった。


満足感のある食事に、お腹が満たされる。

お店を出ると、それぞれの業務に戻るため3人は揃って会社に戻った。

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