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第3話 初めての相談

奥村は少し困ったような顔をしながら、男性と話していた。

話している様子からすると、初対面同士という雰囲気ではなさそうだ。

彼らの少し離れた位置で様子を伺っていると、爽やかな笑顔で話し続ける男性と目が合った。


「もしかして、あの人?」


彼が奥村に問いかけると、奥村もこちらに視線を向ける。

茶髪で染めた髪と目鼻立ちが整った容姿がとてもマッチしていた。

見かけたことはないが、茶髪の彼も会社の人だろうか。


「あ、中城さん!」


気づかれてしまっては名乗り出るしかない。

2人に近づくように前に出る。


「あ、遅くなってすみません。お取り込み中でしたら、また日を改めますけど…」

「いえ、全然大丈夫です!もういいから今日は帰ってくれよ」


奥村は長身男性を駅の方向に身体を向けさせると、そのまま背中を押す。

男はそれを気にもとめず、奥村の手を逃れ、私のもとへ寄ってくる。


「中城さんって、あの「10股かけた魔性の女」っていう、あの中城さんですか?」


キラキラした笑顔を向けて、とんでもないことを言ってきた。

言葉が理解できず、脳内処理が停止してしまう。

3秒後、ようやく理解できた。

あまりに突拍子もない言葉に、大きな身振りで否定をする。


「10股!?誰がそんなことを…!そんなことしたことないですよ!」

「えー、でも営業部の方でも話きいたことありますよ。うちの会社の恋愛指南役で有名って」


恋愛指南役のようなことを現在もしているので、否定できない部分はあるが、10股とはひどい。

いや、自分が見栄を張ったところから全ては始まっているのだ。

これ以上ひどくならないうちに、いつか手を打たねば。


「そ、それは…まあなんというかなりゆきで…」

「ふーん。あ、俺、営業部の時期エースの前野陽介(まえのようすけ)です。以後、お見知りおきを」


(これが陽キャといういやつなのか…)


自信に満ち溢れた様子で、ぐいぐいと笑顔で語りかけてくる前野。

彼の距離の詰め方にどう対応したらいいのか困ってしまう。

見かねた奥村が助け船を出してくれた。


「陽介、いいからもう帰ってくれよ」

「はいはい、わかったよ。じゃあまたな草太」


お互いの名前を呼び捨てにしているところをみると、ただの同僚というわけではなさそうだ。

奥村の再三の言葉にようやく前野も折れたようだ。

手をひらひらとさせ、その場をから離れていく。


「全くよりによって…」


(え…?)


駅へ向かおうと歩き始めた前野がぼそっと呟いた言葉が耳に届いた。

そのまま人だかりの中に消えていった前野の姿を見送ると、奥村が空気を変えるように口を開いた。


「近くでお茶しながらとかでもいいでしょうか」

「あ、はい」


駅の近くにある喫茶店に移動する。

個人経営のお店のようだ。

レトロな内装が施され、ところどころにオーナーの趣味なのか、絵画や置物が飾られていた。

帰宅ラッシュに差し掛かってるからか、店内にはあまり人がいない。

この時間帯なら居酒屋のほうが賑わいをみせている頃だろう。


店内の隅にある4人がけのテーブル席に案内された。

飲み物を注文すると、私は気になっていた前野について尋ねた。


「前野さんとは仲がいいんですか?」


頼んだアイスコーヒーを一口飲むと奥村は答え始めた。


「仲が良いというか、腐れ縁に近いんです。元々実家が近所で、子供の頃から遊んだりしていて…」

「幼馴染だったんですか!それで会社も一緒ってすごい…!」

「向こうが1つ年上で、よく僕の面倒とかもみてくれて、陽介が家を出てからは会ってない時期とかもあったんですが、たまたま就職先が一緒で、会社で陽介に会ったときは驚きました」


2人の距離感を見ていると、会社の同僚以上の親密さを感じていたので、ようやく納得できた。


「あ、陽介の話ばっかりしててすみません」

「いえいえ、全然大丈夫ですよ!私も気になってたので!あ、でも、のんびりしてても時間過ぎちゃうし、本題の件話しましょうか!」


私は鞄からノートとボールペンを取り出すとメモを取る準備を整える。


「は、はい。よろしくお願いします」

「単刀直入になんですが、具体的にどのへんがお悩みなんですか?」

「そ、その、僕会話が苦手で、その人と…どんな話したらいいのかもわからなくて、そもそもお付き合いしている方とかいるのかも知らなくて…」

「なるほど…お相手は会社の人なんですか?」

「あ、はい、ただ部署も違うし、僕の一目惚れ…みたいな感じで、全然接点がなくて…」

「なるほど、それはまず場のセッティングと共通の話題探し、あとはお相手の交友状況についても探る必要が…それには…ブツブツブツブツ…」


夢中になってペンを走らせ、課題とそれを解決させるために必要な項目を書き出していく。


「あ、あの…」

「すみません、つい癖で…あ、あと、もし差し支えなければ、お相手の方とかって教えてもらえるものですか?もし教えていただければ、お相手に合わせて対策を考えたりもできるので!」

「え、あ、いや…」


言い淀む奥村に、慌てて質問を取り下げる。


「あ、無理にとは思ってないので、大丈夫です!」

「すみません、その、お名前はちょっとお伝えできないんですが、その…優しくて、ひたむきに仕事をされていたり、人のために一生懸命にされているところとかを魅力的に思っていて…」


奥村は恥ずかしそうに答える。

彼の言葉の口端に、彼女への真っ直ぐな想いを感じ取る。


(その人のこと、本当に好きなんだなあ)


彼の言葉を聞き、俄然やる気に満ち溢れてきた。


「ありがとうございます!とても参考になります!また、対策をまとめれたら連絡しますね!」


伝票をさっと取ると、会計に向かう。


「あ、お金は僕が…!」

「年下に何回も奢らせられないですよ!ゆっくりしていってください!では、また!」


カランカランッ


入口のベルが鳴り止む前に私は店をあとにした。


奥村とは出会ってから時間は経ってないが、彼の真面目さや優しさは十分感じ取れる。

口下手なところや会話のきっかけさえ、上手くいけばきっとに告白も成功するに違いない。

いや、させてみせる!

どうにか彼が無事付き合えるように自分にできることは精一杯やろうと決意を新たにする。



奥村は翔子が店を出た後の姿を自然と目で追ってしまう。

彼女の姿が見えなくなると、顔を両手で抑えながら小さく呟く。


「はぁ~~~~、緊張した~~~~~」


アイスコーヒーを一気に飲み干し、店を出る。

すると、スマホにメッセージが届いていたことに気づく。

相手は陽介からだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

終わったら教えて

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


終わったよ、と返信をすると、駅へと向かう。

するとポケットにしまったスマホのバイブが鳴り始めた。

相手を確認し、通話ボタンを押す。


「はい」

「草太、今いい?」

「陽介?なに?」

「あの人はやめておけよ」

「え…?なんで…」


前野の電話口から彼を呼ぶ声が聞こえた。

「わりぃ、今実家に帰ってきててさ、母さんがすげえこき使ってくるんだ。また後で連絡する。じゃな」


プツッ


彼の意図がわからず、奥村は通話が途絶えたスマホの画面を見つめたまま佇む。

止まった思考のなかに駅前の喧騒だけが流れ込んできた。

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