第26話 お菓子博覧会 その5
無事アミュゾンの出店が正式に決まった2週間は怒涛の日々が続いた。
企画のメンバーや各店舗との連携を取りながら、イベント開催までの進捗を確認する。
(ギリギリ間に合いそう…)
残業をこなし終えたあと、私は自宅で漫画を読み、束の間の癒しタイムを満喫していた。
すると、テレビから不穏な音声が流れてくる。
「台風17号が太平洋で発生し、週末には関東を直撃する見込みです。非常に強い台風のため、大雨と暴風には充分警戒してください。予想される雨量は…」
テレビの台風情報を何度見返しても、今週末に関東を直撃すると報道されている。
今週末にはお菓子博覧会の開催が控えている。
開催は金曜日から日曜日の3日間だ。そのいずれにも台風の影響があることが見込まれてしまいそうだ。
これは早急に対策を練る必要がある。
翌日、社内でも対策会議を開かれた。
「予報だと、ちょうど週末3日間に直撃しそうで、雨風もかなり強いようです。各店舗の設営時や飲食スペースに暴風への対策が必要になるかと思います。仮設店舗や飲食スペーステントを支える柱の固定を補助する器具を増やして、できる限り対策をしてもらう予定です。器具についても手配済みです」
「うん、ありがとう。ただ警報が出そうな状況になれば、中止も視野に入れないといけないな」
「そう…ですよね…」
設営の台風への備えや最悪の場合の対応まで詳しく話し合いを続けた。
これまで数多くの人たちの協力のもと進めてきたイベントなので、中止という選択肢はとりたくはないが、人命に関わることなのでそうもいってられない。
スマホを見ると、奥村からも心配のメッセージが届いていた。
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お菓子博覧会大丈夫そうですか?
何か手伝えることがあればいつでも連絡してください。
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アミュゾンのためのレシピを考えてくれたこともあり、彼も何かと気にかけてくれているようだ。
天災となると、我々にできることは少ない。私を含め企画メンバーと一緒にてるてる坊主を作り、台風が逸れることを祈ることしかできなかった。
お菓子博覧会が前日に迫り、各店舗の設営が始まる。小雨だが、風が時折強く吹くため作業は難航していた。
「中城さん」
振り向いた先に、傘を差した前野が立っていた。
思わぬ人物に私は驚きを隠せなかった。
「前野さん!どうしたんですか!?」
「なんかお菓子博覧会の設営が大変って聞いてさ。営業部からも何人か応援に行こうかと思ってるんだけど、人手足りてる?」
渡りに舟とはこのことか。
私はお言葉に甘えて営業部からの応援を頼んだ。
店舗スタッフの方々の作業も夜遅くまで続いた。
プロモーション部や営業部のメンバーも総動員で支援やチェックにまわった。
どうにか設営を終えると、明日の無事の開催を待つばかりとなった。
(雨風が強くなりませんように…)
お菓子博覧会、当日。
てるてる坊主のおかげか、台風の進路はやや右側に逸れた。
しかし、大雨とまではいかないものの、朝から強い雨が降り注いだ。
私と企画メンバー数人が、裏方としてイベント会場を訪れていた。
「中城さん!」
「浅野さん!おはようございます!」
パティシエの格好をした浅野が関係者スペースにやってくる。
私は作業を止め、彼女のもとに歩み寄った。
「おはよう。生憎の天気ね」
「そうですね…午後にはもう少し雨が弱くなってくれるといいんですが…」
お互い空を見上げるが、雨は変わらず降り続けている。
浅野は嬉しさを抑えきれないほどの笑顔を私に向ける。
「中城さんが作ってくれたベースをもとに私なりにアレンジしたケーキが完成したわ!新しい視点をくれて、本当にありがとう!色んな試作をするのも楽しかったわ」
「本当ですか!」
「ええ、中城さんも時間があればぜひ食べていって!」
「ありがとうございます!」
活き活きとしている彼女を見ていると、こちらも元気になる。
アミュゾンのお店の新作としてあのケーキが並ぶのかと思うと、嬉しさに心が踊る。
たくさんの人にぜひとも食べてほしいものだ。
しかし、私の願いとは反対に、会場直後にも関わらず人はまばらといった様子だった。
アミュゾンの店舗にかろうじて数人が並ぶ程度で、店舗の多くは閑古鳥が鳴いていた。
PCで各店舗の売上状況を確認すると、午前中を終わった時点で客足があまり伸びていないようだった。
このままだと初日の想定の売上の1/10程度になってしまう。
呼び込みをしようにも、平日ということに加えこの雨の影響で会場の周りを歩く人がいなかった。
まさしく為す術がない状況だった。
これでは今日の午後も期待がもてない。
(このままだとお菓子博覧会が失敗しちゃう…)
明日の午前には、台風が温帯低気圧になるという予報だが、天気自体は曇りのち雨だ。
今日来れなかった来場者が明日訪れてくれる可能性もあるが、明日も想定より来場者数が伸びない可能性がある。
早急に手を打った方がいいかもしれない。
一か八かの手段だがやらないよりはやったほうがいい。
私はその場をメンバーに任せて会社に戻ると、野上部長のものとに駆け寄る。
「部長、広告費の予算ってまだ少し余ってましたよね!?」
「え、ああ。だが、あと100万もないと思うが…」
「それだけあれば充分です!」




