第22話 お菓子博覧会 その1
私が進めているビッグプロジェクト。
その名も「お菓子博覧会」。
都内を中心にスイーツ有名店が出店する屋外イベントで、年1回の開催でありながら約15万人が来場するという大規模の催しとなっている。
今年で第5回となっており、年々来場者数も増加している。
社内でのプレゼンが採用され、今回のイベントコンセプトは「人とスイーツを繋ぐ」となった。
そして、このコンセプトの提案をした私が、お菓子博覧会のイベント企画におけるリーダーを務めることになったのだ。
お菓子博覧会の一番の目玉は、今回初出店の「アミュゾン」。
アミュゾンは、フランスで修行した若手パティシエの浅野夏海が日本で独立して立ち上げた店だ。
ケーキをメインとしたスイーツを提供しており、その美味しさと美しさに瞬く間に有名スイーツとして世間に認知されていった。
そんな彼女を口説き落とし、今年ようやく出店を決めてもらえた。
イベント開催が1ヶ月を切っていることもあり、準備も大詰めになってきている。
PC画面で進捗の確認を進めていると、私の机がノックされていることに気づく。
手の先をたどるように視線を上げると、そこには前野の姿があった。
「声掛けたんだけど、気づいてなかったみたいだから」
「あ、すみません」
「全然いいよ。こっちこそ仕事中ごめん。お菓子博覧会の追加店舗リストまとめてきた」
「あ、ありがとうございます…!」
今回のお菓子博覧会は営業部と連携して進めている。
プロモーション部のメンバーだけでは人数不足のため、出店先の店舗には営業部のメンバーが赴き、参加の交渉をしている。
最終交渉のときには、プロモーション部のメンバーが同席するという方針にしている。
前野は営業部次期エースと称しているだけあって、参加店舗の3分の1は彼が交渉成立までもっていった店だ。
追加参加が決まった分も合わせると合計80店舗にものぼり、店舗数は過去最大になった。
これは成功させなければならないと、私は気合いを入れ直す。
「どう進捗は?」
「結構ギリギリですが、間に合わせますよ!あとは、いただいたリストで参加店舗の配置を更新したり、イベント案内用のリーフレット作ったり、やることはまだまだありますけど頑張ります!」
「リーダーさん気合い入ってるね。頑張りすぎてまた倒れないでよ」
「それはもちろん気をつけてます!けど、せっかく任せてもらったので、やれるところはとことんやるつもりです」
以前の失敗を繰り返さないように、疲労回復の対策は講じている。
毎日シャワーだけではなく入浴をすることや栄養バランスの整った食事を摂るように心がけている。
そのおかげか夜遅くまで残業をしていても疲れが溜まりにくい気がしている。
前野は机にそっと手を置くと、私の耳元で囁く。
「まあ、そういうところも好きだけどね」
(心臓に悪い…!)
不意打ちの甘いセリフにドキッと胸が鳴る。
彼の気持ちを知ってしまうと、より意識せざるをえない。
花火大会の日以降、積極的なアプローチはないが、たまに何でもない雑談の連絡を取っている。
彼との関係は少しずつ変わりつつあると感じる。
「中城さんって甘い物好き?」
突然の質問に困惑するが、私はそのまま回答する。
「まあ、好きですけど…」
前野は手に持っていたフィナンシェのお菓子と缶コーヒーを机に置く。
「じゃ、これ差し入れ」
「あ、ありがとう…」
前野はふっと微笑むと、プロモーション部をあとにした。
もらった差し入れをいただきながら、業務を再開する。
店舗数も確定し、最終準備のスピードが加速し始める。
場所の確認や懸念点を洗い出すために、私はイベント会場の公園に向かう。
規模が大きいので人に任せる業務も多くはなるが、トラブルなく進めるためにできるだけ自分の目で確認するようにしていた。
店舗数も多いうえにアミュゾンの出店もあり、来場者も過去最大を期待できる。
屋外イベントということもあり、飲食スペースにはテント屋根にする予定だ。
木々に囲まれているので日陰もできやすく、飲食スペース以外の場でも食べ歩きを楽しむことができそうだ。
イベント開催日に多くの人々が会場にいる姿を想像すると胸が踊る。
私は事前視察を終えて会社に戻ると、野上部長が内線の受話器を持ったまま声を張り上げる。
「中城さん!」
部長の青ざめているその表情に嫌な予感しかしなかった。
「アミュゾンが出店やめたいって…!」
「え!?」




