第21話 ライバル
花火大会の騒動から2日後。
スマホにメッセージが来ていることに気づく。
送信元は奥村からだった。
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お疲れ様です。
足の具合はいかがですか?
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体調を気にしてくれていたことに彼の優しさを感じる。
私はすぐさま彼に返信をする。
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ご心配ありがとうございます!
湿布貼って安静にしてたら、すっかりよくなりました。
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すると間もなく彼から追加で返信がくる。
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よかったです。安心しました。
実はこの前お伝えしていたご相談をさせていただきたいのですが、
もしよかったらランチご一緒しませんか?
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これが彼の本題だと察する。
「この前」というのは、私が貧血で倒れていたときに言っていた恋愛相談のことだろう。
しばらく相談に乗れていなかったので、話したい事が出てきたのかもしれない。
私は了承の連絡をする。
お互い都合がついたので、急だが明日ランチに行くことになった。
時間通りに集まると、以前利用した洋食店に向かった。
9月に入っても変わらず夏の日差しが降り注いでいた。
コンクリートの照り返しも相まって、シャツに汗が滲み始める。
会社から少し歩いたところで、私は彼に質問を投げかける。
「横幕さんと、あのあと大丈夫そうですか?」
花火大会で横幕が奥村に告白したが、彼はきっぱり断っている。
しかし、彼らは同僚であり、同期でもある。
あの出来事がきっかけに奥村が居心地の悪い思いをするのではと気になっていた。
「今まで通りというわけにはいかなさそうですが、どうにか大丈夫そうです」
彼女自身も少なからずショックを受けているに違いない。
管理部内での彼女の様子はわからないが、もしかしたら奥村が仕事し辛いという雰囲気があるのかもしれない。
しかし、大丈夫と答える彼の言葉を信じるしかなかった。
タイミングがあれば管理部での彼らの様子を見に行きたいところだが、余計なお世話かもしれないと思い直す。
奥村はともかく、横幕は私と前野が告白の話を聞いていることはわかっているはずだ。
そんな私と会うのはきっと嫌がるだろう。
「そうなんですね。ひとまずよかったです」
「でも、横幕さんは魅力的な人なので、もっといい人が現れると思います」
「そうですね…」
彼の言葉には全面的に賛成はできなかったが、一旦同意しておく。
だが彼自身、横幕との関係を気にしていると思っていたが、そこまで引きずっていなさそうで安心した。
店内に入るとエアコンの空調が気持ちいい。
オフィス街から離れているので、密会場所としてはうってつけだ。
この近辺に住んでいそうな女性2人組と老夫婦の2組だけだった。
注文を終えると、彼から話を切り出してきた。
「実はライバルがいそうなんです」
「え?」
思いもよらぬ言葉だった。
てっきり想いを寄せる彼女との悩みだと思っていたので、私は用意していた資料を鞄から取り出そうとしていたところだった。
資料を鞄にそっと戻すと、そのまま彼の言葉に耳を傾ける。
「その…僕の好きな人のことを好きになったっていう人がいて…」
「それは直接言われたんですか?」
「言われました…」
「なるほど…」
奥村がその人を好きなことを知ってか知らずか、彼女のことを好きになったと告げたようだ。
いわゆる三角関係ということになったということか。
「向こうの方が彼女と共通点があったりして、仲良くなっている気がするんです…」
いつもより早口になっている奥村をみていると、彼の焦りが伝わってくる。
彼からしたら、そのライバルの方がリードしているという見立てなのだろう。
私は自然と笑顔で彼に語りかけていた。
「奥村さん、まず自信持ってください!」
「自信…ですか…」
「ライバルの人に負けるかもって思ってしまったら、行動に出ちゃうと思うんですよね。
ライバルの人が声をかけていたら自分は明日にしよう、とか。そういう積み重ねが最終的に大きな差が出てしまうと思うので!」
「たしかに、そうですね…」
彼の中での最大の課題なのが「自信」だろう。
容姿も整っているし、身長も高い。世間を見渡しても、こんな高スペックそうそういるものではない。
少女漫画であれば、主人公の相手役にもなれるだろう。
それなのに彼の性格が、そのアドバンテージをうまく使いこなせていない。
非常にもったいない限りだ。
「大丈夫です!奥村さん、最近は私と話していても恥ずかしがったりしてないし、この前のお祭りで射的してるところもカッコよかったですよ!」
「あ…ありがとうございます…中城さんにそんなに褒めてもらえるとすごい嬉しいです…」
照れて頬を染める奥村。そんな純粋な彼の恋は私としても応援したい。
彼なら自信がつけば恋も実るに違いない。
「相手に嫌がられない範囲で話す回数を増やしたり、あまりライバル相手のことは気にせず、奥村さんのペースで頑張ればいいですよ!」
「あ、ありがとうございます!」
ひとしきり彼にアドバイスをしていたら、休憩時間の終了が迫ってきていた。
私たちは急いで会社に戻ると、エントランスで奥村と別れる。
休憩からちょうど1時間後、自席に座る。
奥村の恋の応援もあるが、私は自分自身も鼓舞する。
「よしっ!」
なぜなら、私の中での最大規模のビッグプロジェクトが始まろうとしていたからだ。




