第19話 花火大会 その3
連れられるがまま、木々に囲まれた道を進んでいく。
街灯もなく、視界が悪い。
横幕はスマホのライトをつけて、斜め先の足元を照らしながら歩いている。
穴場というだけあって、人の姿はほとんどなかった。
だが、奥村は中城のことが気がかりで仕方がなかった。
本当に後から彼女は来るのだろうか。
それ以上に前野と2人にすることも気がかりだった。
どうも今日2人の距離が縮まっているようにみえた。
その時、社医の言葉が脳裏に蘇る。
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「彼女、頑張り屋さんみたいだからしっかりみてあげてね」
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奥村は足を止める。
「ごめん、やっぱり中城さんの様子見てくる」
横幕も足を止め、彼の手を離す。
奥村はもと来た道を一人戻ろうと駆け出す。
「なんで…?」
横幕の心の声が小さく漏れる。
ここまで頑張っているのに、全く振り向いてもらえない理由がわからなかった。
中城を呼んだのは、彼女との差を奥村に見せつけるため。
前野は中城の世話役として呼んだだけ。
全ては今日彼を手に入れるために仕組んでいたことだったのに。
彼はいつも中城のことを意識していることが理解できなかった。
「待ってよ!」
奥村は彼女の大きな声に足を止める。
身体を向けようとした時、奥村を追いかけてきた横幕が勢いよく抱きつく。
その時、花火の音が鳴り始めた。
「どうして…どうして亜美のこと見てくれないの?」
「え?」
彼女は顔をあげ、奥村を見上げる。
打ち上げられた花火の光に彼女の顔がほのかに照らされていた。
「私、奥村くんのことが好きなの」
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「願ったり叶ったりだな」
「え?」
「中城さんと2人になれた」
(ええええええ!?!?ちょっと今日の前野さんやばくない!?)
今日の彼はいつになく積極的だ。
横幕が乗り移ってるのではないかと感じるほどだ。
「足大丈夫?」
「たぶん…捻挫しただけだから」
私は買ってもらったお茶を足首にあてて、患部を冷やす。
ひんやりとしていて気持ちよかった。
右足に重心を乗せなければ、どうにか歩けるかも知れないが、これ以上無理しない方が懸命だろう。
「前野さん、奥村さん達と花火観てきていいですよ。私はここで休んでるので」
前野は私の横に腰掛ける。
「このまま残るよ」
「でも、2人にしたら横幕さんが奥村さんに何をするかわからないですよ…」
「大丈夫だよ。草太には好きなやついるし。ここで流されるようなら、それまでってことだ」
「でも、すごいアタックでしたよ、今日も…」
「あいつは結構一途だから、いざという時はちゃんと断るよ」
長年の付き合いからでしかわからないことなのだろう。
奥村のことをよく理解している。
「前野さん、奥村さんに好きな人がいること知ってるんですか?」
前野は、目を伏せる。
その表情はどこか悲しげにみえた。
「…知ってるよ」
前野は、話題を切り替えるように立ち上がる。
振り返った時にはいつもと同じような笑顔だった。
「そういえば中城さん、また敬語に戻ってきてるよ」
「え、あ、すみません」
「まだ慣れない?」
「それは、そうですね…」
「まあ、少しずつ慣れていってくれればいいけどね」
花火の音が聞こえてくる。
どうやら花火大会が始まったようだ。
横幕と奥村はちゃんと花火を観れているだろうか。
音のする方角を見上げるが、ここからは何も見えなかった。
その時、前野から視線が向けられていることに気づいた。
「俺さ、中城さんのこと…好きになったみたいなんだよね。俺と付き合ってくれない?」
「立候補していいか」と言われてからまだ日が浅い。
いつかは告白されるかもとは、意識していた。
ただ、まさかこんなにすぐだとは思っていなかった。
告白は覚悟がいるはずだ。
今まで聞いてきた恋愛相談でも、少女漫画の中でも、告白というのは一大イベントのはずだ。
それまでの関係性がどちらの答えにしても変わってしまうからだ。
そこまで急いで結論を出す必要があるのだろうか。
彼なら私以外にも魅力的な人がたくさんいるはずだ。
私じゃなくてもいいのではと思ってしまう。
「どうして私を…」
頭の中の疑問符がつい口に出てしまった。
「どうして?どうしてか…中城さんが好きになったから付き合いたいなと思ったんだけど」
思いがけない返答に驚いたのか、前野は目を伏せて後頭部をかく仕草を見せる。
「あの…何でそんなに焦ってるんですか?」




