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【完結】30歳、処女が恋愛指南していたけど、自分の恋愛は対象外です!  作者: 結城トウカ


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第18話 花火大会 その2

前野は階段を登りながら、私の浴衣姿をじっと見る。


「中城さん、浴衣似合ってるね」


素直に褒められると照れてしまう。

髪を耳にかける振りをして、顔を隠す。


「あ、ありがとう…」


階段を登りきると、横幕と奥村がどのお店に行こうか話しているところだった。

地元の祭りとは思っていたが、かなり賑わいをみせている。

横幕のいう、去年SNSで人気の出たわたあめ目当ての人達かもしれない。

どちらかというと若い人が多い印象だ。

花火まではまだ時間があるので、私たちは屋台をいくつか回ることにした。


「あっちの屋台から見ようよぉ!」


横幕は奥村を連れて、隅にある屋台から見に行く。

私と前野はその後を追う。


「体調はもう大丈夫なの?」

「あ、はい。ご心配をおかけしました」

「草太がたまたまいたからよかったけど、誰もいなかったら俺に連絡してよ、駆けつけるから」


(ま、真顔でそんなこと言う…!?)


階段を登った時に火照(ほて)った身体が再び熱を持ち始める。

彼から顔を逸らして、見えないように顔を手で仰ぐ。

だが、その熱はなかなか下がらなかった。


まわった屋台では、横幕が目当てのわたあめと別のものを買っていた奥村にひとくち欲しいととねだったり、金魚すくいでは奥村との距離感ほぼゼロで隣に居座っていた。

奥村が一歩横にずれると、それを追いかけるように横幕が一歩ずれる、といった具合いだ。

彼も彼女を直接的に拒まないので、やりたい放題の状況だった。

奥村から何度かチラチラと視線を感じる時があった。

そのSOSを受け取ると、私が彼に助け舟を出していた。

モテるというのも考えものだなと気の毒に思う。


花火大会の時間も近づいてきているので、あと1、2軒くらいが目処だろう。

次に寄る屋台を見てまわる。私は先を歩く3人のあとをついていく。

射的の屋台を通りがかった時、私は見覚えのある景品を発見し、思わず足を止める。


「あ、あれ俺恋の…」


「俺に恋して」という少女漫画、通称「俺恋」。アニメ化もしている超名作だ。

もちろん子どもの頃からの愛読書でもある。

恋愛指南の時も何度お世話になったか数え切れない。

その主人公であるヒロインの相手役のアクリルスタンドが1つ景品の中に紛れ込んでいるのだ。

引き返してきた前野が私の視線を追って景品を見つめる。


「あ、俺恋のアクスタじゃん」

「え!?」


まさか彼の口から「俺恋」というワードが飛び出ると思わなかった。

思わず前のめりになって真偽を確かめる。


「俺恋、知ってるんですか!?」

「え、ああ、俺の姉貴が読んでて、借りて読んだことあるんだよね」


予期せぬところで同志を発見した喜びが隠せなかった。

興奮している私を見て察したのか、前野から質問を投げかけてくる。


「中城さんも「俺恋」読んでるの?」

「昔から大ファンです!」

「へえ、じゃあ俺が取ってあげよっか」


前野が射的用のピストルを手にとる。

私たちの会話を聞いていた奥村も射的用のピストルを手にする。


「ぼ、僕も取ります!」


バチバチと火花が飛び散るように、彼らの視線が交わる。

横幕は不服そうにしながらも、奥村の狙いすました横顔に目を奪われているようだった。


しかし、アクリルスタンド自体は手の平サイズのため、なかなか景品に弾が当たらない。

2人は追加で小銭を取り出すと、屋台のおじさんの手に持つザルの中に入れる。

すると、何度目かの挑戦で射的の弾が景品に当たり、アクスタが倒れる。

喜びの声をあげたのは前野だった。


「おっしゃあ!!!!」

「ほいよ、兄ちゃん」


悔しそうな奥村をよそに、前野は屋台のおじさんから景品を受け取ると、そのまま私に手渡す。


「はい」

「あ、ありがとう…」


アクスタをまじまじと見つめる。

景品を取ってもらって嬉しい気持ちよりも、頑張って取ろうとしてくれるその姿に胸を打たれた。

射的勝負が終わる頃には、あたりはすっかり暗くなり、もう花火打ち上げの時間が迫っていた。


「時間やばいな」

「時間のこと忘れてました…」

「もう移動しないとですね」

「場所取りとかしてないけど大丈夫?」

「私の友達が教えてくれたんですけど、この神社の奥の林を抜けるとそこに丘があって、そこからきれいに見えるらしいんですぅ。穴場だから、そんなに人もいないらしくてぇ」

「じゃあ、そこ行こっか」


皆の歩く方向に足を踏み出そうとした時、足をくじいて思わず転びそうになる。


「わっ!」


横を歩いていた前野が身体を支えてくれたおかげで転ばずに済んだ。

すぐさま彼の身体から離れるとお礼を言う。


「す、すみません…!」

「大丈夫?」

「は、はい」


私は足元をよく見ると、右足に履いている下駄の鼻緒が切れていた。

3人も下駄の異変に気づいたようだった。

右足が地についた時、足首から全身に向かって突き刺すような痛みが走る。

この足でこのまま歩くのは難しそうだった。


「えぇ~、大丈夫ですかぁ。どうしよぉ。そろそろ花火も始まるのにぃ」


横幕はやけに棒読みだったが、彼女なりに心配してくれているのだろう。

このままだと3人とも私のせいで花火が観れなくなってしまう。


「あ、先行ってていいですよ。後から追いかけるので」

「俺が中城さんみてるから、2人先行ってきなよ」

「そうですかぁ?じゃあ、お言葉に甘えて奥村くん行こぉ♪」

「え、いや、でも…」

「ほらほらぁ」


横幕は奥村の手を両手で掴むと、嬉しそうに丘がある方向へ向かう。

彼は申し訳無さそうにこちらに視線を飛ばすが、私はどうにか笑顔で彼らを見送る。

前野は転がる下駄を拾うと、私の前で(かが)み込み両手を後ろにまわす。

まるでおんぶするときのような体勢だ。


「ん」


前野はこちらをちらっと見る。

両手を少し上げて、こちらに乗れと言わんばかりだ。


(まさか本当に…お…おんぶ!?)


祭りを楽しんでいる人々の視線が刺さってくるのを感じる。

痺れを切らしたのか、前野がもう一度両手を少し上げる。


「早く乗って」

「す、すみません…し、失礼します…」


浴衣の(すそ)を少し上げて前野の身体に身を預けると、彼の肩にそっと手を置く。

今日ほどダイエットしたいと思ったことはない。


前野は私が乗ったことがわかると、そのまま立ち上がる。

勢いで振り落とされそうになるので、彼の肩をぎゅっと掴み身体を前野に寄せる。


(羞恥心でメンタルが死にそう…)


前野は神社の隅に移動すると、石を積み上げた塀に私を下ろす。

祭りの賑わいから遠のいたことで、周りに人もおらず静けさが広がっていた。


「ありがとうございます…」


前野は近くにある自販機でお茶を買うと、私に差し出す。

お礼を言って受け取ると、口にお茶を含む。


「願ったり叶ったりだな」

「え?」

「中城さんと2人になれた」

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