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世界が終わるという結果論  作者: 二神 秀
PROLOGUE
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プロローグ

天体衝突まで、残り:365日。



 我々はこの世に生まれた。



 これは動かしようのない事実である。



 死ぬなんてことは気にしなくていい。



 生きることが我々の喜びであり、法則なのだ。




 ウィリアム・サローヤン(William Saroyan)




   ◆    ◆    ◆    ◆




--アメリカ合衆国ワシントン・航空宇宙局本部--



「私たちは地球に住む全ての命あるものに伝えなければなりません。何よりも優先される重大なことをです……」


 そう告げられて始まったアメリカNASAの緊急記者会見。見慣れた画面越しに映し出された映像には、テリトリーに侵入してきた外敵をにらみつける番犬のような鋭い眼光をした、5人の中年の男性陣が長机に座っていた。5人の中央に位置した立派な口髭をたずさえ、薄くなった頭髪をボサボサにした小太りの【地球防衛調整局ラリー=マクスウェル】と記された社員証を胸にかける男が、のっけの発言に続けて口を動かす。


「つい先ほど、小惑星地球衝突最終警報システム・ATLAS(アトラス、Asteroid Terrestrial-impact Last Alert System)に、『ある天体』が観測されました。いや観測されたというより、地球からおよそ8000万キロメートル離れた宙域に、直径1万3000キロメートルほどの天体が急に出現したのです」


 鉛のように重く発せられた言葉に、急遽()けつけた記者たちも、より一層神妙な面向きになる。NASAの会見に足を運んだ記者たちはその数字だけで、ここ数年で最もセンセーショナルな発見であることに高揚感を抱く。更なるこの新発見の情報に固唾かたずを飲んで耳を澄ませる。


「これは我々の地球と火星の間に、地球と同等程度の大きさの惑星が見つかったということです。この天体の表面は白く、氷で覆われているのではないかと推察されます」


 それほどの天体がなぜ急に見つかったのか? 氷があるということは、そこに生命が存在するのか? もしかしたら、地球外生命体がそこには生息しているのか? 記者たちは胸を高鳴らす。


 しかし、そんな大発見にも関わらず、目の前に座るNASAの男たちの様子は緊張感をまとい額に無数の汗を浮かべ、険しい顔つきをしている。そして、次の言葉が放たれた瞬間、高鳴り続ける高揚感が一瞬に消失させられた。


「……この天体は、地球に向けて移動いています。そして、衝突する可能性が極めて高い……」


 はぁ? 急に集められた30人超の記者もそのクルーもカメラマンも、一人残らず目を丸くする。



 そして、死のカウントダウンの始まりをその男は告げた。



「1年後、この天体は地球と衝突します」




   ◆    ◆    ◆    ◆




--1年後の3月24日正午・横浜--



 白い空。それを映していた白い海もすでに見えない。


 つややかなオーロラが空をいろどり、地平線と地平線が重なっていく。


 氷麗な白の星は今、終焉を告げる破滅の黒い塊となり、乱気流がかなでるギャラルホルンの音色と共に頭上から降りたとうとしている。


 たなびく白髪しらかみの彼女も自分も、引力の相互作用により重さから解放されていく。



 NASAの予測では、パンドラ(衝突する天体の呼称)は北半球・太平洋で地球と接触するとのことだ。


 そんな情報に意味はない。どこだろうが同じこと。


 地球は壊れてしまう。世界は終わってしまう。海も陸も、そこにいる生き物、植物、人工物、元からある自然、自分も、彼女も、その全てが消える。



 重さから解放され、浮き上がったあらゆるものの中、繋がれた手の感触が正気を繋ぎ止める。



 意識と酸素が薄れていく……



 残っていたのは満たされた感情。



 目の前の安らかな彼女の瞳には、同じ瞳をした自分の顔が映っていた……



読んでいただきありがとうございます。

【評価】【いいね】【ブックマーク】して頂ければとても嬉しいです。

また、どんなことでも構いませんので、感想・レビューを書き込んでいただければ必ず拝読させてもらいます。


この物語は、天体衝突が起きる1年間を描いたものです。徐々に変わりゆく世界で、登場人物たちがどのように変わっていき、行動・心情にどう影響を及ぼすのかを楽しんでいただければと思います。プロローグで描かれているように世界は終わります。目をつぶりたくなるような場面も存在しますが、ありのままに物語を楽しんでいただければ幸いです。小説の中でのことですが、1年間よろしくお願い致します。


プロローグ・CHAPTER.1~8・エピローグの構成です。


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