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04 新たなスキル

『それでは、検証実験を開始します』


屋敷の庭。俺はスマホを手に持ち、よし、と意気込む。

それを椅子に座って見守る、エンデとセバスさん。俺は二人に頷き、言った。


「ヘイ、マリス。《生成(ジェネレート)》を発動」

『かしこまりました。《生成》を発動します』


《生成》。そう名付けられたこのスキル。俺がこれを手に入れた経緯は、数分前に遡る――



『学習しますか?』

「え?」


あの石――メタモナイトを解析し終わった直後のこと。彼女は俺に尋ねてきた。

俺は返す。「してどうなるんだ」と。

彼女は応えた。『おそらく、武器の生成が可能になります』と。


俺は少し悩んだ。帯刀が当たり前のこの世界でこれから先生きてゆくためには、確かに武器は必要だ。

しかし《学習》モードは、あの時の一度限りとはいえ、見た感じ対象を――《火球》なら火球そのものをデータ化して取り込む必要がある。

人様の所有物にそんなことをしてもいいのか?そんなブレーキが働く。

俺は恐る恐る、尋ねた。


「あの……すいません。図々しいとは承知の上なんですけれど……」

「なんでしょう?」

「よろしければこの石、貰えませんか?」


瞬間、場の空気が静まり返る。

マズった――流石に失礼が過ぎたか……いきなり現れたどこの馬の骨とも知れぬ男に、こんな貴重なものを渡せるはずがない。

急いで謝ろうと口を開いた俺だったが――


「……構いません」

予想外の返答に、開いた口がふさがらなくなってしまった。


「え、今、なんて」

何度か頭の中で彼女の言葉を反芻し、やっと飲み込めた。片言の質問が俺の口から飛び出す。


「構いません。貴方ならきっと、これを正しく使ってくれると信じています」

そう言って、俺に笑いかけるエンデ。

セバスさんも、何も語らないながらに深く頷き、同意を示している。

俺は二人を交互に見渡し、言った。


「本当に、いいんですか」

「ええ。例え私たちが持っていても、使い道もありませんし。それならば、貴方に託すほうがこちらとしても嬉しいです」


彼女の言葉に、決心がついた。俺はメタモナイトを手に取り、スマホをかざす。


「ヘイ、マリス。《学習》してくれ」

『かしこまりました』


そう言うと、今朝と同じようにスマホから光が放たれ、たちまちデータの粒子となってメタモナイトが吸収されてゆく。

そして数秒の沈黙の後。


『ラーニング完了。スキル《生成》を取得しました』


新たな力を、俺は手に入れた――



そうして、時は現在へ至る。このスキルが一体どんなものなのか?それを探るため、ひとまず使ってみようという訳だ。

幸い、この庭は広い。少しぐらい派手に立ち回ったとしても問題はなさそうだ。

さぁ、どんとこい!


『何を生成しますか?』

「じゃあまず……剣で」

『かしこまりました』


マリスが言うと、空中に剣のホログラムが投影される。そして間髪入れずに火花が走り、だんだんと実態を形作ってゆき――


「おお……」

俺の手元には、剣が現れた。ずしりとしたその重量感が、本物であることを示している。

俺は何度かそれを振るうと、マリスへ尋ねる。


「これ、必要なくなったらどうするんだ?」

『使用者の手元を離れれば自然に消滅します』

「へぇ……」


俺は言葉通り、剣を地面に置いてみる。すると、

「あ、ホントだ」

数秒と経たないうちに剣は0と1の粒子となって、どこかへ消えてしまった。


「マリス」

『何でしょう』

「これってさ、作るものに制限とかあるの?」

『ありません。ですが推奨もしません』

「何で」

『生成する物質の質量が大きければ大きいほど、バッテリーを著しく消耗するうえ、生成時間もかかります。故に、緊急性を要する戦闘時には推奨できません』

「あーなるほど」


例えば戦車を作ったとすれば、その分バッテリーを食い、相応の生成時間を要する。

だが手元を離れれば消えるという性質から、基本的に使い捨ての運用が主になる。

そうするぐらいなら、次々に武器を生成して手数で勝負したほうがいい、という事だろう。

まぁ、あんまり複雑な物を作っても扱い切れる気はしないから、やることもないとは思うが。


「よし、わかった。なら続きと行こうか」

『かしこまりました』


こうして、俺たちは数時間ほどこのスキルを試すこととなった――



「いやぁ、ありがとうございました。こんなにしてもらって……」

「いえ。助けていただいたことへの、ほんの気持ちです」


そして翌日。俺は屋敷の門を背にし、二人に見送られていた。

あの後結局一晩泊めてもらい、手持ちがないと知ると、なんとお金まで渡してくれたのだ。

その総額、日本円にして約3万円。節約すれば当分、生活に困ることはなさそうだ。

正直ここまで手厚くしてもらうとかなり申し訳ないが、ありがたく受け取ることにした。


「じゃあ、俺はこれで。何から何まで、ありがとうございました」

「こちらこそ。またいずれ、遊びにいらっしゃってください」

「ええ、必ず」

「では、お気をつけて」

「はい!」


そう言って、俺は屋敷を後にする。前を見ると、既に馬車が停められていた。

俺は乗り込むと、窓の外から二人を見て強く手を振った――


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