序章 〜超調子いい〜
「っんがあああああああっ!!超調子いいいいいぃぃぃぃいいいいいっ...!!」
.......。
そうなのだ。今の俺は調子がいい。
鼻から息を吸えば空気の形がわかり、胸に溜まる空気はどことなく落ち着く様な風味を感じるし、息を口から吐けば体の重みが取れる感覚すらある。
まるで人っ子1人もいない広大な野原の真ん中にいるみたいだ...
っと、そんな俺の名前は「カズノミヤ ユウキ」
今ものすごく調子がいい人間(自称)だ。
大学卒業後は就職せずに馴染みの服屋とレンタルビデオ屋での掛け持ちアルバイトで生計を立て、好きな事だけをやる!をモットーに生きている。
友達はけっこういるし、遊びにもよく誘われる。
そして意外と女の子からモテてしまうのが罪だな。うん。
周りは就職をして週5できっちり時間に追われて仕事をしている。そんな奴らを横目で見て
「社会の奴隷めっ!!」
っと心の中で思いながら日々を過ごしている。
生きている大半をやりたくない事に時間を費やす意味がわからない。ストレスは溜まる一方だし、ストレスというのがそもそも俺は嫌いだ。
もちろん周りよりお金はない。だがとにかく自由だ。
時間はお金で買えないってよく言うだろ?
適度に働き、自由な時間を過ごしながら友達や女の子と遊んで趣味に時間を費やす。
いい生き方じゃないか。本来の人間らしい暮らし方をしてると自分で納得している。
これが俺の超調子がいいワケだ。
でも、ただ1つ。ただ1つ心に引っかかったままなのは
周りと違う
その事だけだった。
自分自身で選んだ事、納得した事のはずなのに。
周りと違う環境という事が影のように付き纏ってくる。
その事が頭をよぎった瞬間に俺の超調子いいがプツンっと糸を切るように終わるのだ。
いつもの事。
いつも俺の超調子いいを終わらせる。
自由に生きてるだけなのに、少し息がしづらい感覚。
「あーーーーああーーーーーっっ!!...
アニメでも見よう...」
これも立派な趣味だ。他の奴らは俺みたいに一気見なんて出来ないだろ!どうだ!!
しっかりと画面を見つめ、今季のアニメを見始める。
「可愛い...。まじでネロちゃん天使だな。」
何度、画面の中に入れたら楽しいと考ただろうか。俺ならもっとこういう風に戦って、強敵に勝った後にあのヒロインを口説こう...
と、ただの妄想を繰り返してる。
そしてアニメが見終わったと共に無の時間タイムに突入だ。
スマホをいじっているのに何を見ているかわからない、覚えてない、ただ単にスマホの画面を見つめているだけ。それで何かをした気になっている。
「馬鹿か俺は...この時間を何かに費やせよ!!」
何度思ったか数え切れない。やりたい事は沢山あるんだ。でも、動かない身体。
そんな自分を見続けて23年。いつまでこんな生活が続くんだと考えると胸らへんが誰かにギュッと掴まれたような感覚になった。
さっきまでは調子いいなんて言ってた奴がたったこの数秒、数分でこの落ちようだ。
わかってるんだ。ただ嫌な事から逃げているだけだって。好きな事をやってると言い聞かせて何もかもから逃げてる事に。
昔からそうさ、小学生の頃からスクールカーストの上にいる事を上手いことに逃げ続けてきた。
ある時は弱い奴にちょっかいを出して自分の立場を確認したり、学校を休んで稼いだお金でブランド物を買って周りと差を付けてたりもした。
そうすると友達も女の子だって不思議と寄ってくる。ただ自分の楽な方に進んできたら意外とうまいように人生が回っていた。
でも、そこに俺の努力や執念はあったのだろうか?周りと違う理由って自分はこれまで何もしてこなかったからじゃないか?
そのツケが今になって回ってきたのだ。
気付いたら頑張る事が出来ない、逃げ癖のついた自分か小さい頃に嫌いだった大人になっていた。
洗面台の前に立つたびにその顔をぶん殴りたくなる。なるだけ。ただなるだけ...
ブーッ! ブーッ! ブーッ‼︎
携帯が鳴ってる。
「夕飯の時間に誰なんだよ...」
俺は着信通知を見ずに電話に出た。
「よお!ユウキ!!おっちゃれ!」
友達のアマノ トウリからの電話だった、どうせ今から遊ぼうぜ!といういつもの電話だ。
でも、こいつの家は電車で30分とめんどくさいが勝ってしまう距離なわけで...
「悪りぃ、ちょっと今から前に飲んだ時に仲良くなった子が今から家に来るんだよ」
とボソッと口を尖らせて断った瞬間
「いやあー、ユウキ。友達がアレ持ってきてんだよ。アレ。」
その言葉と共に俺は即座に家に泊まらせてもらう事を条件に準備しはじめた。
トウリの言ってた「アレ」とは何かって?
ここだけの秘密なんだけど、今の若い奴はみんなやってる薬があるんだ。
大丈夫。もちろん法には引っかかってないし、薬局で出される薬にちょっと手を加えたものだ
これがまた面白い。中毒性はないし、摂取してからすぐに浮遊感と共に笑顔が3〜4時間ほど絶えなくなる。
この時だけは現実から離れて自分だけの空間にいれるような気になれるんだ。
今の若い奴はみんなこういう少し悪い事をしているのがイケてると思っている。馬鹿馬鹿しいと思うが俺もその1人な訳だ。
外は春も目の前なのに風が寒い、まだ上着がないと歩くのが辛いくらい。
だがそんな事も気にせず俺は少し大きめのショルダーバッグに着替えを詰めて、足早にトウリの家に向かった。
いっぱい文字を打つのが苦手ですが頑張ります!