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黒雲の剱 =転生の楔=  作者: サッソウ
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第9章 贖罪

 浜松町駅。モノレールから山手線に乗り換えた青年は、ディスプレイに表示された路線図を眺める。日本語や英語など、多言語に表示が切り替わる。日本人ではない青年は、漢字が読めず、母国語に近い言語で目的の駅が表示されないかと、ディスプレイを注視する。山手線は、次の新橋駅に到着し、乗客の乗降で青年は押し出されて、駅のホームに。すみませんと謝り、車内に戻る。

 20歳の青年、イオは日本に何度か入国しているが、章良(あきら)とは直接会っていない。何度か会っているのは、恵菜(えな)とだった。

 恵菜は朝の生放送を終えたあと、午前中は打ち合わせを行い、お昼ご飯を食べにテレビ局の外へ出ると、イオが待っていた。

「こんなに暑いのに、外で待ってたの?」

 今日は真夏日らしく、外を出ると額に汗が。テレビ局から5分ほど、なるべく日影を歩き、冷房の効いたレストランに入る。

 氷の入った冷たい水を飲み、ランチメニューを選んで注文する。

「章良さんは、どんな感じですか?」

「相変わらず。いつになっても、変わらない……。変わったのは、私達なのかな……?」

「もうこの世にいない。いつの間にか、それを僕らは受け止めたのかもしれないですね……」

「章良は、あの頃のまま。もう一度皆に会いたいと思ってる」

「やっぱり、贖罪(しょくざい)ですか……?」

 イオは章良が抱く贖罪について触れると、恵菜は

「そうかもね。死ぬはずだった健と鋼を救うため、過去を改変したみたいだけど、私達はそれそのものを知らないんだよね」

 章良は一度、目の前で健と鋼が死亡したところを目撃している。しかし、章良は過去に飛んで、それを本人ではなく偽物に入れ替えた。起きたという事実はそのままに、死ぬはずだった2人は生きることに。そんな偽装工作を働いた。それが良かったことなのか、許されることなのかは分からない。

「章良がどう考えてるか分からないけど、最悪の場合、私達で止めるしかないよね」

「予言の通りにですか?」

「そう……」

 恵菜が見た封解の書の記載は、”友が再会に向かいしも、次第に暴走の恐れあり”。不穏な文言だった。だから、章良には言えなかった。

「恵菜さんは、発見した”黒雲の剱”と思われる(つるぎ)について、どうすればいいと思いますか?」

 イオが見つけた新たな”黒雲の剱”。ただ、それを章良にはまだ伝えていなかった。そもそも、日本国内に持ち込むと銃刀法違反になるため、母国に置いている。

「そうね……」

 恵菜とイオは亡くなった仲間について、心の整理ができていた。会えるなら会いたいけれど、もういないと割り切れた。ただ、ディフォルミスが生き残っている可能性が考えられ、その場合は対抗手段がなくてはならない。ディフォルミスに対抗できるのは、黒雲の剱のみ。特殊な鉄隕石を使用した剱でしか、攻撃が通用しない。さらに、黒雲の剱は使用者を選ぶ。選ばれなければ、柄を握ったときに、拒否されるように痛みを伴う。

 新たに発見した”黒雲の剱”は、恵菜とイオのどちらも拒否された。

「もしもの話……」

 恵菜が前置きをして、自分の考えをイオに話す。

「別の世界で生きていたとして、時間の進みは同じかどうか分からない。知っている健や鋼たちと違うかもしれない。会って一緒に帰ってくるのかな……? そんなことができるのかな?」

「分からないです……。ディフォルミスが生き残っているなら、健さんたちはヤツを倒すために戻らないかもしれません。”一緒に帰ろう”は、僕ら側の都合の良いことですから。健さんたちもそれを望んでいると思いたいですけど……」

「結局、分からないことだらけで、仮定の話ばかり……」

 恵菜の言うように、子どもの頃はリスクを(かえり)みずに突き進んでいた。今は違う。何かと考えすぎてしまう。

「大人になって、考えすぎてるのかな? 単純に仲間に会いたいっていう願いなのに……」

「一度、みんなの死を受け入れて納得しているからこそ……かもしれないです」

「ひとつ聞いていい?」

「何ですか? 改まって」

「章良が探しに出たとき、イオは一緒に行く?」

「行くと思います。恵菜さんは?」

「私は行かないかも。ここで待つ」

「それも大事です。みんなの帰ってくるところは、必要ですよ」

「帰ってくる場所か。……そっか」

 恵菜は迷っているようだった。イオは恵菜の考えを尊重している。仲間に会いたいのは確かだ。仲間との再会は、長い旅路になるかもしれない。恵菜はこの世界で待つことを選択するだろうか。


    *


 魔族の侵攻が進む。しかし、国内には人っ子1人いない。国民は、全員が地下壕に避難している。魔族はそんなこと知らないが、匂いや気配を頼りに、徐々に地下への入り口を見つける。防壁に遮られても、その先に人間がいるのを察してか、体当たりや技のように攻撃力の高い手段を繰り出し、防壁へダメージを与える。

 時間経過とともに、第一の防壁と第二の防壁が破壊され、狭い通路を魔族が押し寄せる。

 手加減不要。隙を見せれば、ここにいる皆に危害が及ぶ。全力で行け。ナイトアから、手加減するなと言われた。ノークは手加減などするつもりはないが、圧倒的な力を有するノークにとって、全力はコントロールを強く要求され、制御不可に陥る可能性もある。

 第三の防壁を破り、ノークの目の前に現れたのは、翼の生えた赤いゴブリンだ。確か、飛竜(べに)ゴブリンという名前だった。さらに、その色違いで青いのと、黄色いのがいる。

 ゲームの知識があれば、モデルの使い回しなどと思うだろうが、亜種ぐらいいるだろう。

 ノークは、剱を構え向かってくる敵を1匹たりとも通さないように、攻める。作戦では、仮にノークの攻撃をくぐり抜けた魔族がいれば、兵士達が大勢で対処する。

 ノークは剱を大振りし、魔族が通過する前に、次々と対処する。地上であれば全体を警戒しなければならないが、ここは地下の通路である。一方向からしか敵は攻めてこない。守るべき人たちは、全員後ろにいる。おかげで集中しやすい。

 敵は続々と押し寄せる。持久力との勝負になりそうだ。


To be continued…


【登場キャラ】


一条(いちじょう) 恵菜(えな)。封解の書には”友が再会に向かいしも、次第に暴走の恐れあり”という不吉な内容が書かれていた。”暴走のおそれ”とはどういう意味だろうか。この世界で待つことを選択する可能性が高い。

・イオ。日本に入国し、新たに発見した”黒雲の剱”について、恵菜へ話す。恵菜からは健たちの過去の情報を得たことを話した。入国の度に恵菜と会っているが、章良とは直接会っていない。

・ノーク・シャルク。通常の剱を振るう分には持久力に不安は少ないだろう。


【特記】


・黒雲の剱。ディフォルミスに対抗できる唯一の武器。特殊な鉄隕石を使用している。黒雲の剱が使用者を選び、選ばれない者が柄を握ると、拒否されるように痛みを伴う。無理矢理扱うには無謀。対となる宝玉を使用することで、黒雲の剱のパワーは飛躍的に上昇する。しかし、同時に使用者の体力や精神力を大幅に消耗する。所有者はノーク(カノム)のみ。イオが新たな1本を発見しているが、使えるかは不明。かつては、ジョーム(刃)とディフェン(鋼)も所有していた。

・贖罪。ある雨の日。カノム(健)とディフェン(鋼)が対峙し、双方は相討ちによって死亡した。2人が死亡したあと、ディフェンは敵に乗り移られ、カノムはそれを知っていて、仲間に伝えずに戦ったことを知った。章良は2人の死を受け入れることが出来ずに、ある方法で過去へ。事実はそのままに、2人の死を本人ではなく別の人形などに置き換えなどして、2人が死なない未来へと改変した。その歴史改変を恵菜とイオが”贖罪”と表現している。


 「第9章 贖罪」に関して。

 2020年12月1日の更新だけ間に合わせて、中途半端なまま2年以上経過してしまいましたが、2022年2月5日に追記改訂を行いました。9章のポイントは、章良が昔行った贖罪と恵菜の考え方ですかね。本作だけで考えると、各キャラクターの過去が濃いですね。人それぞれに歴史ありとは言うけれども。恵菜は、もしものときに章良を止められる覚悟が、今の自分にはないと考えているのかもしれません。イオは何かあれば自分に任せてくださいと、恵菜の気持ちを尊重しているようです。

 次の10章は異世界パートの戦闘ですね。


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