第6章 制御できない力
シャルク家の継承権のある人物達が、先の大戦で散り、側近もいなくなり、ノークは孤独になった。そこで、リフィナ女王の祖父であるビーデン統括官が、エギナとフィーサに、ノークの補佐官になるよう命じた。本当かどうか分からないが、ビーデン統括官は、リフィナ女王がエギナに対して、まるで親であるかのように接することを、あまり良くは思っていなかったが故に、ふたりを引き離したという噂がある。
昼食会は、ほとんどエギナとリフィナ女王が喋って、ノークはそれを聞いていただけだった。あとは、たまに聞かれて答えた程度だ。
お皿が片付けられ、昼食会はお開きかと思われたが、リフィナ女王は
「さて……。私自身も、そろそろ決めないとね。継承権のある人物は、本来なら3つの家系の息子で、次男ないしは三男まで。そして、本来なら女王は成人した人が。何もかも条件を満たしてないし、これだと選択肢は全くないはず。でも、色々と繰り上がった結果、継承権はノーク・シャルク。あなたに決まりました」
リフィナ女王が微笑む。ノークが意味を理解したのは、5秒後だった。継承権は、女王陛下の王婿となることである。転生した翌日に、こんなことになるなんて……。ノークがフリーズしていると、エギナが
「では私も王族の職員の一員に戻るということで、継承権を得たノーク様と、リフィナ女王様へ、誠に勝手ながら、今後の流れをご説明させて頂きます。率直に申し上げて、時間の猶予はございません。いつ魔族が侵攻してもおかしくはない、崖っぷちの状態です。現在、ノーク様は、ご自身の相当な力を制御できないとのことでしたので、今晩から稽古を実施し、国を守り抜くか、魔族へ一矢報いるか。……いえ、それ以上のお力があれば、形勢逆転まで持ち込める可能性も見えてきます」
ロードマップとしては、まず第1段階として、稽古によってノークが持つ力を制御できるようになること。この世界の神は、”この世界での最大値に近い”を言っていた。第2段階として、早くも魔族との戦いである。第3段階はなく、以上である。
敢えて言うなら、第3段階は継承権に関してだろうか。ノークは実感がなさそうだが……。
その夜。ノークは自分が所有する”黒雲の剱”を使用せずに、騎士団が一般的に用いる武器の中から、鉄の剱を選んだ。
エギナとリフィナ女王も立ち会い、騎士団の指導員からこの世界での戦いを学ぶこととなる。野次馬の騎士団の一般人のみなさんは、ノークが”洗礼の儀”を受けたとはいえ、自分達より強いわけが無いと、あざ笑うかのように見ていた。
指導員のナイトアは、御年57歳ではあるが、大戦でも生き残った強者である。武器は稽古の相手に合わせて、今回は白い剱を持っている。
「さて、洗礼の儀を受けたノークの実力。見せてもらおうか」
「よろしくお願いします」
ノークは、早速小走りでナイトアへ接近し、斜めに斬るが、ナイトアは一歩も動かずにそれを弾く。ノークは反発で、後ろに仰け反る。
「うむ。力は見違えるほどに、上がっておるな。ただ、体が追いついていない。粗いな」
ナイトアがノークのことを褒めているが、ノークは別のことで頭がいっぱいだ。
(やっぱり、力の制御が分からない……。今ので何割に絞れた……?)
ノークは全力を出すのでは無く、力を制御するためにパワーを絞ろうとしている。
「ノークよ。好きに打ってこい。時間は5分間。それで、ノークの実力を測る。全力で成し遂げよ」
ノークは剱で乱打し、ナイトアはそれらを受け止める。ナイトアが一歩も動かないことから、遠くで見ていた騎士団の一般人さんたちは、「やっぱり、ノークだな」「洗礼の儀を受けても、あれだけか」。嘲笑する者や「期待していたんだがな」「やっぱりな」と落胆する者、様々な反応。
5分間の乱打や走りながらの強打も、ナイトアがすべて一歩も動くこと無く、打ち消し、受け流す。
エギナとリフィナ女王は黙って見ていたが、終了間際にリフィナ女王が退屈な表情で
「ノーク。一回は、全力を出したらどうなの?」
ナイトアはそれを聞いて、頬を緩め
「最初は攻撃の力がバラバラだったが、後半につれてどの攻撃も、同じ衝撃に近しくなってきた。とはいえ、まだまだ荒さはある。全力で成し遂げよとは言ったが、パワーではなく、コントロールに全力で挑むか。一度、物は試しで、全力で打ってみよ」
「全力で、ですか……?」
「現時点で出せるフルパワーを知るのも、この後の稽古のためでもある」
「……もしものときは、お願いします」
「心配する必要はあるまい。ここには、騎士団が集まっておるからな」
ノークは少し距離を取り、深呼吸する。剱に全神経を集中させ、構える。すると、鉄の剱からバチバチと火花のようなものが。
(”黒雲の剱”でなくても、使える……)
自身の所有する剱には、その剱本体にも力があり、その力から発動していた。しかし、この世界に転生後、洗礼の儀による影響なのか、黒雲の剱で無くても”技”を発動できるようになっていた。
本来、剱は物理攻撃のみであるが、”技”により距離が離れている相手や力の上乗せによって、謂わば魔法のような特殊攻撃が可能となる。
ナイトアはノークの力溜めを見て、
「あれは……、この世界の技術ではないな。しかし、何という威圧。これは防げるのか……?」
ノークの剱が、より一層火花を放ち、オーラのようなもので覆われる。
(さっきのまでの感覚。ギリギリ制御できるぐらいだと、ここまでか……)
ノークは正面に向かって、頭の上から剱を大きく振る下ろす。剱に溜めた力が解放され、正面に向かって、大きく白い半月状の刃が高速で、ナイトアの方へ。触れていないのに、通り道の地面が抉られ、真っ直ぐ進む。
ナイトアは剱を構えて、防御態勢に入るかと思われたが、半月の刃が近づいた瞬間、真横に避けた。半月の刃は、そのまま建物の壁に衝突し、煙を上げて大きく崩れる。
ナイトアは、崩れた建物を見て
「訓練用の建物が一撃とな。危うく、無茶をすれば、ノークに殺されるところじゃったわけか」
冗談を言っているのか分からないが、冷静だった。リフィナ女王は、エギナの話が現実味を帯びてきたと感じ
「なるほど。制御できれば、エギナの予想通り、一矢報いるどころか、魔族に勝てるかもしれない。そんな気がする」
「ノーク様は、我々の最後の希望です」
一方、騎士団の一般人のみなさんは、目をパチパチさせて、ノークの攻撃力に腰を抜かしていた。あれほど、馬鹿にしていた全員が手のひらを返すのだった……
To be continued…
【登場キャラ】
・ノーク・シャルク。本人はどう思っているか分からないが、継承権を得る。
・リフィナ女王。国が魔族に敗れるのも時間の問題であり、諦めていたが、ノークの実力を見て、魔族への形勢逆転への希望を感じた。
・エギナ。継承権を得たことで、王族関係者の一員へ戻る。ノークも必然的に、王族の一員になるということだろうか?
・ビーデン。リフィナ女王の祖父。統括官。エギナをノークの補佐官に命じた理由は、リフィナと距離を取らせるためだった、という噂がある。
・ナイトア。騎士団の指導員。御年57歳ではあるが、大戦でも生き残った強者である。武器は稽古の相手に合わせて変える。場合によっては、素手で戦うこともあるらしい……
【特記】
・技。前世、カノムが”黒雲の剱”の力を利用して発動していた、特殊な攻撃方法。例えるならば、魔法のようなもの。ただし、本人の体力や精神力を大幅に消耗する。今回は、鉄の剱で技を繰り出したが、宝玉を填めた”黒雲の剱”で発動した場合、その威力は計り知れない。また、その反動も未知数。
「第6章 制御できない力」に関して。
ロードマップは短めで、1つの世界を長々とするつもりは、あまりありません。現代パートとの同時進行なので、何章ぐらいで次の世界へ行くのかは、まだ定まってないですね。そもそも、この話を更新日に書いてますから、先の話よりも今の話をどうするか考えるだけで……
さて、次回はどっちのパートになるのやら。予告のためにも、ストックをある程度持ちたいですね……