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黒雲の剱 =転生の楔=  作者: サッソウ
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第26章 暴動

 魔術剣士異世界の学園。授業では、水中での剣術を行う前に、水中で呼吸を行う魔術を教わっていた。ステータスがすでに神に近しい領域まで達した3人は、潜ったまま顔を出さないため、教諭や生徒から逆に心配された。

「これって、水から酸素をつくる魔術だから真空とか水分の少ないところだと使えない感じか」

 クルシャ()は水中だけで使える魔術に対してそう言ったが、他の生徒から「普通はそれで精一杯なんだよ」とツッコミを入れられた。ディフォルミスとの戦闘を前提にする3人は、実際の戦闘での使用をイメージしている。

「使えるとすれば、川か海に落ちたときだな」

 ユージョマ()の言い方だと、この授業に意味が無いと捉えられ、案の定教諭から怒られていた。結界による空気の層を作るとか凍らせるとか、そういった次の手次第で応用が効くと長々と説明を聞かされた。


    *


 リニアモーターカーは、10分ほどで終点の品川駅に到着する。SNSやニュースサイトの情報によると、通り魔事件に動きがあったようだ。イヤホンをさしてその内容を聞くと

「先ほど、警視庁の発表によりますと、犯人に対して発砲したとのことです。犯人は単独であり、拳銃による射殺を行ったとの情報が入ってきました。発砲後、犯人がまだ生きているかどうかの情報は入っていません。しかし、テレビ日本放送の報道フロアから現場を確認したところ、緊迫した状況が継続しているようです」

(相手がディフォルミスなら、拳銃で撃たれても血は流さないし、撃った警官が襲われるだろうな……。全員を救うのは難しい……。そもそも渦中に乗り込んで、無傷で戻れるか……?)

 武器はない。持てば銃刀法違反になる。

 ニュースを聞いていると、品川駅到着前に車掌のアナウンスが流れる。

「お客様にお知らせ致します。すでに報道されております通り、緊急事態発生のため、山手線や京浜東北線をはじめとする全ての列車が新橋駅に停車致しません。最新の運行情報は、当社ホームページまたは駅係員までお尋ねください。お客様にはご迷惑をおかけし、申し訳ございません。また、ゆりかもめは一部区間で運休となっております。振り替え輸送は行っていません」

 鉄道運行会社が悪いわけではないのに、通過扱いとなり謝罪をしていた。ちなみに、京浜東北線は日中快速運転を行うため、そもそも新橋駅を通過する。だが、快速運転を終える時間になっても通過扱いになるのだろう。

 SNSの情報によれば、バス会社やタクシー会社も、事件現場周辺は営業を取りやめている。死傷者の名前がまた情報として流れているが、真偽はともかく、イオの名前はまだ見ていない。


    *


「ゴホッ」

 埃まみれで咳き込むイオは、流血しながらも高架下に逃げ込んでいた。壁が崩れて、瓦礫の山ができており、ディフォルミスからの視界からは外れる。悲鳴が上がる繁華街。爆発でもしたかのようなガラスの割れる音が周辺に響く。

「テレビ局の窓を割ったのか……?」

 イオは、誰かを助けに行けるような状況ではない。ディフォルミスの暴動はテレビ日本放送の局内へ。耳を塞ぎたくなるような阿鼻叫喚。奴の狙いは何もないのだろうか。

「そうだ……公衆電話……」

 携帯電話は無い。しかし、章良の電話を書いたメモを恵菜から受けとっていた。何かあったときのために。

 携帯電話の普及により街中の公衆電話の数はかなり減った。周囲を見渡すと、高架の向こうは広場だ。その広場に公衆電話がある。距離は100メートルくらいだろうか。

 少しでも気を緩めると、眠気が襲う。寝てしまうと、次に目を覚ますのはいつになるだろうか。

二度目の爆発のようなガラスの割れる音。悲鳴は止まない。

 自分が動かないと……。広場に近づくと、死臭がする。こっちもディフォルミスが暴れたのだろうか。周囲に生きている人はいないと思われる。都内の乗降者数8位である新橋駅付近とは思えない。道路では交通事故が発生している。

 公衆電話の受話器を取ると、受話器が緑色から赤く染まる。イオの血だ。番号も押すごとに血の色に。

 公衆電話の電話料は、固定電話なら通話区間の距離によって通話時間が決まる。携帯電話の場合は、10円で約15秒。硬貨を数枚入れたが、全部で何円かを確認できる余裕は無かった。


    *


 魔術剣士異世界。卒業式が執り行われるため、学園は慌ただしくも厳かな朝を迎えていた。3年間。長いような短いような、彼らにとって失った束の間の平和である。しかし、卒業式はリミットの日でもあった。

「おかしい……」

 この異世界の神々のうち、闘志の神は優雅に珈琲を飲みながら考え込んでいた。

「味がですか?」

 友愛の神はそんなことで悩んでいるとは思っていないが、わざと言うと

「ヤツの転移を防いでいたが、ここしばらくその力が弱まっている」

「転移を拒絶できるのであれば、好都合では?」

「いや……そう簡単にいくのか……?」

 ヤツとは、ディフォルミスのことである。転生者の健たちを追いかけるように転移する。そのため、転移を妨害して時間稼ぎをしていた。健たちの転生から3年後、つまり卒業式前後まで転移を遅らせる。そのはずだった。

「まるで……他から……」

 2柱の会話に「そろそろか?」と、術技の神が問う。

「いや……マズいかもしれない……」

「闘志の神よ、何があった?」

「ヤツは……この世界へ転移しなくなる……」

「それは喜ばしいことじゃないか。あの3人の転生者は最強の力と技術を得ている。それで勝てるかどうか分からなかった相手を呼び込まずに済むとなると、この世界は安定となる」

「”この世界は”な」

 闘志の神は焦りを見せている。友愛の神は、ひとつの可能性を考え

「別の世界に?」

「そうだ……。転生者が元いた世界……、ディフォルミスの生まれた世界へ……だ。俺が転移の時間稼ぎをしたが故に、ヤツは別の転移先を見つけた。あり得ないはずだった……。だが、ヤツにはこちらと同じく3年という時間と1柱の神様の力を持っている」

 闘志の神は自分の考えが甘かったと反省するが、時間が惜しい。

「緊急事態につき、卒業式にて降臨を行う。責任は俺が取る。いいな?」

「3人を転生させることは、お前が決めたことだ。我々はどうこう言わないが、協力はするぞ」


 卒業式。入学式や進級式と同じように執り行われる。式典は予定通り、滞りなく進む。それぞれの道に進むため、涙を流す者もいたが、シューム()ユージョマ()クルシャ()は静かに警戒を強めていた。ヤツの転移は卒業式前後。いつ来ても不思議では無いのだ。だが、出来ればこの卒業式を無事に終えた後の方が良い、そう願っていた。校長の挨拶では

「今年の卒業生は、優秀な生徒が複数おり、学年全体の士気が鼓舞された」

 3人のことに触れるようなことも言っていた。そして、閉会の言葉を告げるとき、どこからか鐘の音が……


To be continued…


【登場キャラ】


・クルシャ。一条(いちじょう) (やいば)が転生。ジョーム・ファルトの記憶が混ざっている。

・シューム。黑柄(くろつか) (けん)が転生。ディフェン・ドラグリンの記憶が混ざっている。

・ユージョマ。(はがね) 修司(しゅうじ)が転生。ディフェン・ドラグリンの記憶が混ざっている。

光規(みつき) 章良(あきら)。東京へ移動中。

・一条 恵菜(えな)。意識不明だったが、搬送先の病院で死去。

・イオ。通り魔事件に巻き込まれて深手を負い、章良に連絡を取ろうと試みる。

・ディフォルミス。魔術剣士異世界への転移を闘志の神に3年間妨害され、転移できずにいた。現代では、恵菜が勤めていたテレビ局付近を中心に多くの犠牲者を出す通り魔として暴動を起こしている。

・闘志の神。魔術剣士世界を管轄する神様の1柱。

・友愛の神。魔術剣士世界を管轄する神様の1柱。

・術技の神。魔術剣士世界を管轄する神様の1柱。



「第26章 暴動」に関して


 予定調和にはいかず、当初描いていた展開から、かなりかけ離れたストーリーになってます。平和な学園生活について、ここまで描写無く終わるのは予定通りです。別に転生して平和な最強学園生活を描くのはこの作品じゃ無くてもいいですし、あくまでも敗北した敵に何度もチャレンジして討ち勝つのが目的ですので。

 次回、平和な学園生活を送りつつ、ディフォルミスを斃すために強くなった3人が目の当たりにするのは、酷な現実のようです。舞台は現代へ。


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