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黒雲の剱 =転生の楔=  作者: サッソウ
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第21章 山窮水断

 獣人の異世界では、喧嘩は日常茶飯事(にちじょうさはんじ)である。初対面で(にら)み合って吠え、喧嘩することもあるそうだ。食品衛生という概念は無く、食べ物が落ちたり汚れたりしていても問題はないそうで、他人に壊されるのは当たり前だと考えている。そして、弁償も期待していない。お金についても儲けや税金という概念が無く、お金の代わりに、モノによる交換がある。貨幣は1種類。流通貨幣の概念は転生者が広めたらしいが、浸透しても物々交換の手段ひとつとして定着したぐらい。結構曖昧(あいまい)な運用である。

 街の大通りには果物や鮮魚、木材、インテリア、アクセサリー、衣服など品物を並べて販売しているお店が並んでいる。中には毛並みを整える店や歯磨きを行う歯科衛生といった店もある。すべて屋外であり、屋内の店は見当たらない。

 常時夕暮れ時であり、時間という概念が無いため、お店の営業時間は店主がいるとき。夜が無いため、みんな眠くなったら寝ている。活動時間はみんなバラバラだ。


 相手のキングは、首が落ちてもまだ立っている。コリーとバンザー、リアンの3人はその光景を見ても驚かない。周囲の獣人は不思議そうに見ている。

「おい、あいつらキングを(たお)したぞ」

「新しいキングの誕生か?」

 キングという名は、最強の獣人に送られる名前である。キングを斃せば、自分が新しいキングとなる。しかし、一度キングになれば、常に他から狙われる。それがここでは当たり前。

「コリー、撃てる?」

 リアンの短い問いに、コリーは返事することなく、すぐに構える。コリーの持つ黒い剱から雷や電気のようなオーラが発生し、剱を纏う。

「これ、久しぶりだな。雷電落弾斬(らいでんらくだんざん)

 剱の先端から雷を纏った弾が上空へと放たれ、急降下しまるで落雷のようにキングへ直撃する。雷の音が周囲に轟き、キングから煙が。

「無傷かよ……」

 コリーの持つ剱からオーラは消えており、キングの出方を窺う。

「いや、ダメージは確実に入っている。入っているが……」

 バンザーは、地面に落ちたキングの両手と首を見る。黒い粒子が舞い上がり、その量は時間と共に多くなる。首と両手が粒子となって、空に消えていく。

 キングは、その姿がまるでノイズのように輪郭が不鮮明になったかと思えば、一瞬で顔と両手が元通りになった。

 異常な光景に、周囲の獣人の1人が奇声を発し、慌て始める。

「おい、顔と手が元に戻ったぞ!?」

「どういうことだ? あり得ないだろ」

「あの3人は何をしたんだ!」

 逃げ出す者もいれば、そのまま傍観する者もいる。自分達の考えに及ばぬ状況を目の当たりにし、最後まで見るつもりだろうか。

 キングは首元を触り

「どうした? 驚かないのか?」

 野太い声だ。リアンはキングの問いに一切答えず、

「痛覚は無いのか?」

「どうだと思う? 答えない方がキツイか?」

 リアンは黙り、コリーとバンザーは目配せして攻撃のタイミングを取る。油断してくれれば、その分こちらの攻撃が入る。ただ、向こうもこちらの正体に気付いているだろう。黒雲の剱を使う時点で、バレている。

 キングに攻撃を続ける3人だが、ダメージを与えてもその蓄積がまだ少ないのだろうか。キングは余裕そうだ。

「全部当たってるのに……」

 リアンは少し弱音というよりも、このままでいいのかという不安を抱く。黒雲の剱を使って、3人がかりで攻撃しているのだ。今までと違うのに、なぜキング……いや、ディフォルミスは平気そうなのだろうか。それとも、わざと余裕があるように見せているのだろうか……。

 しばらく動かなかったキングが、助走を付けずに街の大通りへ。素早い動きに、3人を含め、誰も目で追えなかった。

 キングは大通りにいた幼い子どもを掴む。ピューマとスナネコの獣人の少女を両手に掴み、3人を見る。

 すると、コリーがすぐに視界から消える。どうやら建物の裏に隠れたようだ。リアンとバンザーはそれぞれ剱を構え、(にじ)り寄るがキングが威嚇をする。

 もはや言葉で伝える必要さえ無いということか。2人にこれ以上近づけば、2人の少女の命がどうなっても知らないぞと言っている。

「その2人は関係無いだろ」

 リアンが少女の解放を訴えるが、キングがそれに応えるはずも無い。店主達も、キングに近づこうとしたが、キングは回し蹴りでぶっ飛ばす。キングの強さに、それ以上近づく者はいない。

 硬直状態が続く中、リアンはもう一度

「その2人を解放してくれるなら、降参してもいい」

「嘘が下手だな」

 野太い声で、ハッキリとそう言い返された。こちらを見ているだけでいい。ミュート能力で、自分の音を消して、キングの背後に回り込んだコリー。一気に剱を振り上げようとすると、キングがこちらを向いて、少女を目の前に突き出してくる。慌てて、攻撃を中断。

(なんで分かったんだ……)

 視界には入っていないし、音も立てていない。

「この場にいるのは、3人だけじゃないぞ。小僧が」

 蹴りがコリーに直撃し、地面を転げる。バンザーはすぐに気付いて

「奴め、野次馬の視線に気付いたんだ」

 街の広場には、店主や客や家族連れがいる。その誰かが、背後から近づいたコリーを目で追いかけた。その結果、その不自然な視線に気付いたキングが、背後の無音の奇襲に対応できたのだ。

「このままだと近づけないぞ」


     *


 東京都内にあるテレビ日本放送。受付から正面玄関で外へ出ると、恵菜(えな)のニュースを聞いた野次馬が集まっていた。ここに来ても何も分からないのにと思いつつ、離れようとすると急に肩を掴まれた。振り向こうとした瞬間、頬を右手で殴られて、吹っ飛んだ。通りがかった人々が異様な光景に足を止める。

「今、あの子殴られなかった?」

 周りが騒がしくなる。イオは殴ってきた相手の顔を見ようと立ち上がろうとするが、透かさず先ほどの男がイオのお腹に向かってパンチを入れる。イオは防御できずに諸に喰らう。

 相手のことを知る前に、気絶しそうだ。攻撃ラッシュに、気絶で済めばいいが……。さらに回し蹴りがイオの頭に当たり、舗装された歩道に頭を打つ。口を切り、打った頭からも出血する。左手で打った頭を抑えると、すぐに左手が赤くなる。

 相手はどこだ? イオが殴ってきた男を探すと、警備員や大人達数人に止められている。だが、それを振り切るように暴れ、取り押さえようとした人たちも怪我を負う。

 目的も理由も分からない。ただひとつ言えることは、イオを確実に仕留めるつもりだ。恵菜を襲ったのもコイツだろうか。だとすると、こいつはディフォルミスなのか?

 武器は無い。逃げ切れるかは分からない。電車に乗っても、ヤツが線路内に侵入すると、電車が止まって追いつかれる。バスやタクシーも、信号待ちで追いつかれる。そもそも、これだけ出血していて走れるのか……?

 イオまでもが、危機的状況に陥った。


To be continued…


【登場キャラ】


・コリー。一条(いちじょう) (やいば)が転生。狐の獣人。

・バンザー。(はがね) 修司(しゅうじ)が転生。ジャガーの獣人。

・リアン。黑柄(くろつか) (けん)が転生。犬の獣人。

・キング。圧倒的な強さを持ち、首を切られても生きており、獣人ではない可能性がある。おそらくディフォルミス。

・一条 恵菜(えな)。意識不明の重傷。

・イオ。恵菜の残したメモからある情報を得たが、テレビ日本放送の外に出た瞬間、男に襲撃され深手を負う。


「第21章 山窮水断」に関して

 異世界パート。リアン達の攻撃を受けて、余裕のキング。首や腕を切られても、ノイズのようなものが走り、復活する。不死身かな。人質を取る、一番嫌な展開に。リアン達が攻撃するよりも先に、少女たちの命が消える。野次馬の目線がキングの死角を無くしてしまう。現代パートでは、恵菜の残した情報を知ったイオが、謎の男に襲撃され、危機的状況に。甲板にいる章良(あきら)も含め、全員が危機に陥る。しかし、男がディフォルミスなら船と東京の2箇所同時に出現していることになるが……。果たして。

 次回は、章良から開始予定です。

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