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黒雲の剱 =転生の楔=  作者: サッソウ
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第20章 ワタシ ハ ダレ?

 船は徳島と和歌山を結ぶ紀伊興産(きいこうさん)オーシャンフェリー。紀伊興産という会社が定期運航する大型フェリーである。紀伊水道(きいすいどう)を横断する。

 逢魔(おうま)が時。章良(あきら)はフェリーの中を歩く。乗船客は見当たらない。自分の歩く足音が響く。テレビが見えるようだが、モニタは真っ暗だ。

 階段を上り、甲板へと向かう。武器は無い。勢いで追いかけたが、戦って勝てる相手ではない。長時間タクシーで追いかけるようになり、まるで招かれたようだ。

 嫌な予感がする。ふと恐怖を感じ、鳥肌が立つ。甲板には1人。黒い影がいる。ノイズのように、誰かの姿になっては、また別人の姿になる。

 章良は一瞬足を止めたが、一呼吸してその影に近づく。

「おい!」

 たった一言しか出なかった。言うべきことや言いたいことは、いくつもある。でも思ったように声が出ない。武者震いだろうか。ディフォルミス相手に怯んでいるのだろうか。

 ノイズの黒い影がゆっくりと振り向く。すると章良は驚いた。想像していた姿とは違う。ディフォルミスはノイズのように、色んな人の姿が一部分ずつ一瞬で変わる。服装がバラバラだ。髪型もノイズで長髪にも短髪にもなるし、多種多彩な髪型が混ざるときもある。輪郭がハッキリとしない。男か女かもハッキリしない。1秒未満に別の人の姿にそれぞれの部位が変わる。キメラと言うべきか。

 顔は真っ黒だ。白く吸い込まれそうな丸い目をしており、人間の目では無い。口も白くギザギザだ。真っ黒に塗られた顔に子どもが描いたような目と口。分かっていたが、やはり異形である。コイツには自分の顔が無い。いや、この真っ黒で白い目と口がコイツの本当の顔なのだろうか。

 突如、周囲が真っ暗になる。日没のようなスピードでは無く、暗転のようだ。船のライトが甲板を照らす。穏やかだった海が荒れ始め、船が大きく揺れる。

「ネェ……?」

 ディフォルミスの声だろうか。不気味で複数人の声に聞こえる。1人が発声しているようには思えない。

「ワタシ……ハ……ダレ?」

 章良を不気味さと恐怖が一気に襲う。判断に迷うと、一瞬で章良の目の前に移動した。あの異様な顔が目の前に。

「近づくな!」

 章良はディフォルミスを右手で突き飛ばす。ディフォルミスは三歩だけ後退り。

「お前が誰かって? 今更、そんなことを言って助けてくれってことか? 誰がお前なんかを助けるか。どれだけの人を襲い、喰ってきた?! 許せるわけ無いだろ!!」

 章良は怒りにまかせて言葉をぶつける。ディフォルミスが攻撃的では無い。言葉を使い惑わせようとしているのだろうか。

「ドウカ……タオシテ……」

 ディフォルミスの言葉に耳を疑う。斃すべき相手から寄ってくる。武器があれば、叫んで斬っていただろう。章良には武器が無い。無防備にも近づいたのだ。昔のように、なんとかなるだろうと無計画で。周囲を見ると……

「なんで落ちてんだよ……」

 無造作に斧が落ちている。船の消防設備の1つで、必ず載せている消防斧だろうか。取れと言わんばかりに……

 章良は甲板を走り、消防斧を掴む。ディフォルミスに向かって大きく振る。しかし、弾かれる。ディフォルミスは防御していない。ディフォルミスに当たる前に、見えないバリアのようなもので弾かれている。章良が叫びながら斧を振っては、弾かれてしまう。


    *


 恵菜は意識不明のまま、集中治療室で輸血を受ける。意識不明だが、呼吸はしている。顔を大半を失い、医師によると生きているのが不思議なぐらいだという。

 恵菜を発見し、警察庁の匿名通報ダイヤルを使用したのは、イオだった。イオは、テレビ日本放送に戻っていた。所属する女性アナウンサーの恵菜が事件に巻き込まれたことにより、受付に人が殺到していた。その中には、マスコミ関係者もいれば一般人もいるだろう。心配するのはいいが、押しかけすぎではと思いつつ、イオはゲストカードで入館する。ゲストカードは、恵菜が申請して、有効期間であれば入退館が可能である。局内は慌ただしく、特に報道部デスクはバタバタとしており、部屋の端ではショックを受けて休んでいる女性も見かけた。恵菜の同僚だろうか。イオは恵菜のデスクを探し、ポケットから鍵を取り出す。恵菜が持っていた引き出しの鍵だ。周囲に見つからないように、解錠して引き出しからA5サイズのノートを取り出し、鍵を掛け直して抜け出す。

 トイレを探して、男性の個室トイレへ。ノート開いて最後のページを探す。すると、小さく折りたたまれた紙が入っていた。開くとA5サイズになり、何かのコピーだろうか。イオは、そこに書かれていた内容を見て驚き、徐々に口が開く。


    *


 獣人の世界。昼夜が無く、今も夕暮れ時。商店街でコリーが吹っ飛ばされ、露店の陳列された果物に突っ込む。買い物客や店主が「なんだ!?」と驚いていると、今度はバンザーが吹っ飛ばされて、陳列された鮮魚にぶつかる。

 獣人達が吹っ飛んできた方を見ると、リアンが黒い剱で誰かと戦っている。相手が誰なのか気付いた客は

「おい! 騎士団長じゃないのか!?」

「騎士団長? どっちが?」

 獣人達は避難せずにあろうことか観戦し始めた。

「あの背の高い方が騎士団長だ。確かキングと名乗っていた」

 店主は自分の仕入れた果物が散乱したことなど気にもせず、キングの方を指差した。果物に突っ込んだコリーはイテテと言いつつ、立ち上がり

「ヤツは、キング。突如現れた獅子であり、桁外れの戦闘力を持っていて、規則違反の数多の問題を抱えながらも、誰も止めることが出来ずに異例の短期昇進。今やトップにまで上り詰めた。強すぎるんだよ。おかげで探す手間が省けたが」

「コリー、無謀に突っ込むな。乱れると、避けられるモノも避けられない」

「頭に魚が乗ってるぞ」

 コリーに言われ、バンザーは頭の上に乗っている魚の尻尾を掴んで確認すると、(あじ)のような魚だった。

「おっちゃん。今日は店仕舞いした方がいい」

「喧嘩が理由で店を畳めるか」

 魚屋の店主も商品の魚が被害に遭ったにも関わらず、なぜか気にしていない。深くは追求せず、戦闘態勢に戻るとキングがリアンを押し込んで、こちらに向かってくる。リアンが踏ん張るが止まらない。

「様子を(うかが)いつつ……なんて言ってる暇はないな」

「最初から全力で行かないと、勝てねぇよ」

 コリーとバンザーは同時にキングへ攻撃を仕掛ける。リアンは押さえ込まれたまま、もう一度踏ん張る。

 コリーとバンザーが振るう黒い剱は、キングの両腕を切断する。血は出ない。リアンはすぐに剱を振って、首元を狙う。すぐにキングが反応して、首を守るように動き、剱を歯で噛んだ。頭が動かなくなり、コリーとバンザーが間髪入れずに首を切り落とす。

 呆気なくキングの首が地面に落ちた。

 キングの存在を突き止めるまで、体感で2日ぐらいかかった。短期間で分かったのは、異常な強さを隠していなかったから。こんな簡単に勝てる相手ではないと思われ……


To be continued…


あとがき


【登場キャラ】


光規(みつき) 章良(あきら)。恵菜の姿をしていたディフォルミスを追って、紀伊興産(きいこうさん)オーシャンフェリーに乗船した。入国時に自分の剱は置いてきたため、武器は無い。

一条(いちじょう) 恵菜(えな)。ディフォルミスによって意識不明の重傷。顔の大半を失っても、息はあるそう。

・イオ。重傷の恵菜を発見し、通報。恵菜の残したメモを見て、ある情報を得ることになる。

・ディフォルミス。全員が敵視している怪物。

・コリー。一条(いちじょう) (やいば)が転生。狐の獣人。

・バンザー。(はがね) 修司(しゅうじ)が転生。ジャガーの獣人。

・リアン。黑柄(くろつか) (けん)が転生。犬の獣人。

・キング。獣人の世界で圧倒的な強さを誇り、異例の昇進スピードで問題行動があるにもかかわらず、誰も止めることが出来ずに騎士団長となった。


「第20章」に関して


 現代パート。章良はディフォルミスに対して、武器も持たずどうするつもりだったのか。話して解決するような相手ではない。なんとかなるだろうと無計画だったのだろう。ディフォルミスのペースで進んでいるのは確か。イオは恵菜の残した資料を発見し、何かに気付いたようです。

 異世界パート。昼夜が存在しないため、体感2日と表現しています。つまり、第19章から約2日経過のため、あまりにも早い情報入手です。強いと噂されるキングと鉢合わせになり、戦闘開始。どちらから仕掛けたのかは有耶無耶ですね。

 次回は異世界パートから進みます。


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