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黒雲の剱 =転生の楔=  作者: サッソウ
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第2章 Case1:転生したら……魔族に敗北した異世界で

 どうやら、憶えている。前世の記憶。そして、そのひとつ前も……。姿見に映る容姿から、自分ではない少年。ぱっと見、12歳ぐらいだろうか。

(あのとき、死んだのか……? 勝てなかったのか……?)

 自分の記憶を辿る。

 雨が降る中、(つるぎ)を振るう自分は、強敵を相手に1対1の戦いだった。散っていった仲間の思いも胸に、冷たい雨で体力を奪われつつも、攻撃はやめなかった。

 後から駆けつけた仲間、アキラとエナ、そしてイオ。僕らの仲間は、気付けば数人になっていた。3人が加勢する前に、剱から発生した暗闇に吸い込まれ、強敵と共にその世界を去った。

 アキラが自分の名前を叫ぶ声は、途切れ……、真っ暗な世界で強敵とふたりになった。そこから先は憶えていない。自分は、負けたのだろうか……。


 カノムは、部屋を見渡そうと視線を動かすと、ベッドの横にある剱を見つけ

「あれ……? なんでこれが……」

 紛れもなく、自分が前世で使っていた黒い(つるぎ)だった。謎めいた状況の中考える間もなく、ノックの音がして男女2人がスーツ姿で現れた。

「ノーク様。本日、めでたく12歳となり、おめでとうございます。”洗練の儀”の準備は終えております。ご準備の程、よろしくお願いいたします」

 誕生日を祝われているようだが、男は笑顔では無かった。女性も、「失礼いたします」と、部屋に入ると、洋服をかけて

「こちらが”洗礼の儀”の服装でございます。では、ご準備が整いましたら、お声がけください。部屋の外で、お待ちしております」

 こちらが声をかけずとも、淡々としており気付けば、ふたりは部屋の外に出て、扉が閉まった。

(ノーク。それがこの子の名前か……)

 カノム改め、ここから先はノークと表記する。ただその前に、現時点の状況を整理する。ノークとしての記憶はなく、あるのはカノムとしての記憶。そして、少なからず残る健の記憶である。元々、アキラたちと旅をしたのは、カノムではあるが、記憶の混在で”ケン”と名乗っていた。そのため、(もっぱ)ら”ケン”呼びである。カノム呼びは、それを理解してからだが、”ケン”の呼称がすでに定着していたため、結局”カノム”と”ケン”の両方で呼ばれていた。しかしながら、健という人物は、カノムとは全く異なる。それこそ、健という人物が、カノムに転生したと表現しても差し支えないほどだろう。ただ、転生なのか記憶移植なのかは、はっきりしていない。

 健は、名字が分からない日本人の少年、あるいは青年だ。すでに死去して、カノムの中に存在するだけ。そのカノムが、今回ノークに転生したのだから、少し話がややこしくなってくる。過去の話は、追って整理するとして、まずはこの世界とノークという人物像を知らねば。

 カノムこと、ノークは、用意された洋服に身を包み、部屋を出ようとしたが

(持って行くか……)

 ベッドの方へ戻り、剱を持つ。すると、両手で持った瞬間に、目の前から忽然(こつぜん)と消えた。流石(さすが)に驚いたが、すでに世界観が違うことは察しており、自分の見間違えだったと思い込むことで、考えることをやめた。


 部屋を出ると、男性がお辞儀をして

「お待ちしておりました。ノーク様。では、洗礼の儀を執り行う”神託の間”まで、先導いたします」

 ふたりが先に歩き、ノークは挙動不審にならない程度で、周りを見ながら、その後ろをついていく。道中、小声で女性が男性に向かって

「エギナさん。ノーク様のご様子がいつもと違うのですが……」

「フィーサ。ノーク様に聞こえます。私語は慎むように。しかし、今日のご様子が、普段からは考えられないほど落ち着いており、私も少々困惑しております。いえ、良いことではあるのですが……。もしや……」

 ふたりのこそこそ話は、ノークの耳に届いていた。現状を把握するために、些細な情報でも逃さぬように感覚を研ぎ澄ませており、一言一句バッチリと。どうやら、男性はエギナという名前で、女性はフィーサという名前のようだ。

 渡り廊下を歩き、階段を下りてかなり歩いた先に、白を基調とした壁と扉が現れた。扉や壁には彫刻によって模様が刻み込まれている。エギナとフィーサは扉の前で止まり、こちらを見て

「それでは、昨日(さくじつ)ご説明の通り、洗礼の儀の最中は何人(なんぴと)たりとも出入りを禁じますので、ノーク様お一人でお願いいたします」

「なお、洗礼の儀が終わりましたら、一度自室にお戻りになり、その後、準備が整い次第、リフィナ女王陛下へご報告を兼ねた昼食会となります」

 昨日と言われても、昨日はノークではなかったので分からない。ただ、質問の隙を与えないかのように、どんどんと2人が進めている。両開きの扉を開くと、高い天井で、奥には祭壇が見える。すでに祭壇には花やお供え物が準備されており、入り口から祭壇前まで延びる蒼い絨毯(じゅうたん)を歩けば良さそうだ。大方、祭壇前でしゃがむのだろう。

 ”神託の間”に入る直前、エギナは改まって

「ノーク様。ご無礼を承知で、念のため、再度申し伝えます。この”洗礼の儀”は、12歳となった日に神より洗礼を受ける儀式となります。祭壇の前で屈み、両目を閉じることで、神との対話が可能となり、ノーク・シャルク様のお名前を告げ、洗礼をお受け取りください。歴代、その洗礼は多種多様な物でした。戦力、あるいは知力、将又(はたまた)、才能を開花するようなことも……。どうか、この世界をお救いください。この魔族に屈した世界を……」

 まるで、エギナはノークの現状を勘付いたようだった。ノークは頷いて、”神託の間”へ。蒼い絨毯を歩くと、途中で後ろの扉が閉まる音がした。この世界の現状は、エギナの計らいでなんとなく分かった。

 ノークは祭壇前で腰を落とし、膝をつき、瞼を閉じる。

「ノーク・シャルク」

 名前を告げると、どこかに転送され、体勢を崩して立ち上がる形となった。瞼を開くと、そこには先ほどとは異なる場所で、目の前には巨人が腰掛けている。巨人はかなりの長髪であり、髭も長い。全体的に白く、すぐに神と呼ばれる存在であると分かり、再び腰を落とすと

「そのままの体勢で良い。さて、ノークと呼ぶべきかカノムと呼ぶべきか」

「ご存じなのですか?」

「我は神ぞ。この世界の、だがな」

 それなら話が早い。ただ、神に聞くべき事なのか? ノークは声に出さないが、神にはお見通しらしく、

「あまり長話は嫌いでな。簡潔に言う。お主、カノムはこの世界で転生し、ノークとなった。お主の使命は、この世界を魔族から解放すること。この世界は、魔族との均衡状態が続いていた。しかし、ある日現れた、魔族の新しいエースにより、その均衡状態が崩壊し、魔族の統治下となった。詳しい話は、女王様なり執事なりに聞けば良い。転生者という存在を知っておるし、なおさら丁寧に説明されるであろう」

「魔族から解放とは……?」

「お主、既に武器を持っておろう。お主のイメージで、鞘から抜いてみよ」

 神に言われるがまま、ノークは剱を扱っていた頃のイメージを元に、左手を動かすと、消えたはずの剱が現れた。

「同じように念じれば、鞘にしまうことも出来る。これは、この世界の常識である。武器は1つだけそのようにして、持つことが出来る。さて、既に色々と持っておるお主に、何を与えようか……。いや、中身はそうであっても、体力や筋力といったノークという(むくろ)に寄り(すが)る部分は、異なるか」

「骸……ですか? ノークは、死んでは、いないですよね?」

 転生により、もとの人物はどうなったのだろうか。

「ノークは本来死んでおる。12歳となる前日に、毒薬を服用して死亡しておる。そこへお主が現れたので、ノークと入れ違いとなった訳じゃな。お主には、骸に対する体力や筋力といったものを、転生前よりも強く授けよう。但し、この世界での最大値に近いが(ゆえ)、注意するように」


To be continued…


【登場キャラ】


・カノム・エルメ。異世界パートの主人公。左利き。記憶の混在で”ケン”と名乗っていたが、ケンについては記憶でしかない。但し、ケンからカノムに対して、転生なのか記憶移植なのかは、はっきりしていない。何故か自分が使っていた剱が、この世界に転移していた。

・アキラ・スーリア。カノムの仲間であり、光規(みつき) 章良(あきら)である。右利き。

・エナ・キュメル。アキラと同じく、カノムの仲間であり、一条(いちじょう) 恵菜(えな)である。右利き。

・イオ。カノムやアキラたちと仲間であり、恩人でもある。右利き。カノムに憧れ、左手でも剱を使えるように特訓しているらしい。

・ノーク・シャルク。カノムが転生した12歳の少年。Case1の主軸となる。前日に自ら服毒自殺しており、ノーク本人は死去している。元々、右利きだが、カノムが転生してからは左利きに。

・エギナ。ノーク担当の男性補佐官。執事ではなく、補佐官らしい。なお仕事内容は、執事業務など。25歳。

・フィーサ。ノーク担当の女性補佐官。25歳。エギナとは、幼馴染み。

・神。この世界を管轄する神様。あくまでも、この異世界を管轄しており、他の異世界には干渉できない。名前は無い。強いて言うなら、この世界の名前がイコール神様の名前かもしれない。

・リフィナ女王。この世界の一国を統治する女王様。

・魔族の新しいエース。ある日現れ、その戦力により均衡状態が崩壊し、魔族の勝利を導いた。


【特記】

(つるぎ)。カノム達の住む国およびその周辺国では、”つるぎ”という呼称のみであった。その昔、(つるぎ)による殺傷は禁じられていたが、強敵の出現などにより、その(かせ)が外れた。現在保有している(つるぎ)は、鋭利であり殺傷能力がある。また、カノムのところへ転移した(つるぎ)は、”黒雲(こくうん)(つるぎ)”という特殊な(つるぎ)である。


 「第2章」に関して。(章タイトル長いので略)

 異世界パートです。やっぱり、転生したなら、神様から授かりましょう。ってことで、神様登場です。カノムが使っていた剱だけは、そのまま移動しているので、転移ですかね。

 今回から異世界のCase1がスタートです。何回するかは、各異世界の進行状況で決めようかなと。Case1は、魔族に敗北した異世界が舞台です。まだ魔族は出てないですが……。

 次回も引き続き、異世界パートです。


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