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黒雲の剱 =転生の楔=  作者: サッソウ
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第15章 急変

 8月11日、正午過ぎ。また雨が降り始めた。天気予報で言っていたゲリラ豪雨が近づいているのかもしれない。イオは東京都世田谷区(せたがやく)二子玉川(ふたこたまがわ)駅で電車を降りて、多摩川(たまがわ)の河川敷を歩いていた。多摩川と野川(のがわ)が合流する箇所に駅があり、多摩川と野川の間にあるグラウンドの方面へと歩く。頭上には国道246号線の新二子橋(しんふたごばし)がある。サッカー場や野球場といった球技場があるため、街の方へと歩く。気付けばイオは野川沿いを歩いていた。当てもなく歩くならば、多摩川沿いのほうが良かっただろうか。いや、人目を避けるよりも人の往来が多い方を選ぶだろうか。そんな風に考えつつ歩いていると、東名高速道路と東京外環自動車道が交差するジャンクションの下に出た。頭上ではトラックなどの大型車や乗用車が多数往来している。高架下のフェンス近くに草むらがあり、何か光る物があった。それにフェンスが壊れている。立ち入り禁止ならば、こんな風に壊れたまま放置しないだろう。

 イオがその光ったものへ近づくと、ひび割れたスマホが落ちていた。拾うかどうか考えていると、奥の方に別の何かが落ちているのを見つけた。スマホは拾わずに壊れたフェンスの中へ進むと、汚れた鞄が落ちていた。さらに、その近くには包帯が転がっており、雨水で泥濘(ぬかる)んだ地面には血のようなものがあった。イオが周囲を見渡すと、倉庫のようなものが見える。しかも、扉が少し凹んでいる。防災用だろうかそれとも道路管理を行うための倉庫だろうか。

 イオは倉庫に近づき、手を伸ばすが扉に触れる前に思い止まった。よく見ると扉の下に血が付着している。イオは扉を素手で触らずに、雨合羽の袖を伸ばして手袋代わりにして、倉庫の扉をゆっくりと開ける。中を恐る恐る確認すると、そこには……


    *


 異世界にも公園があった。人の往来が少なそうなテーブル席のベンチに腰掛けると、狐の姿をした獣人、コリーが飲み物を買ってきた。缶やペットボトルといったものは無く、大きめのコップのような容器に入っていた。容器は頑丈で、何かの石だろうか?

 容器のことも気になったが、コナーが話を進めるため容器のことは一旦忘れることにした。

「久しぶりと言うべきか、初めましてを言うべきか」

「前置きはいい」

 ジャガーの獣人が急かすように言い、各々の自己紹介へ。

「俺は一条(いちじょう) (やいば)幾度(いくど)と転生を繰り返し、この世界ではコリーという名前で生きている。職業は陶器の検品者。折角貯めたお金ともともとコリーが稼いでいたお金は、誰かさんのせいで結構減った。次、どうぞ」

「同じ流れで言うならば、(はがね) 修司(しゅうじ)。この世界ではバンザー。職業は牛飼いらしい」

「僕も同じ流れで言った方がいいかな。黑柄(くろつか) (けん)。ひとつ前の世界でハガネと合流して、この世界に転生した。ここでの名前はリアンだった。職業は交易職人らしいけど、何も分からないから……」

 ということは、犬の獣人リアンとバンザーはこの世界に転生して、すぐに会ったということだろうか。不思議に思ったコリーは

「なんで、そんなにすぐ再会できたんだ?」

「ハガネ……じゃなかった、バンザーの能力を使って呼びかけられた」

 名前が世界ごとに変わるため、リアンは新しい名前にまだ慣れないようだ。

「ケンと合流するかなり前に、2度目の転生者しか集まらない異世界があった。端的にいえば転生者のあの世かな。そこで転生者と異世界人を見分ける方法を教わった。色んな異世界の情報を聞いたが、よく分からなかったが」

「それでバンザーの能力は?」

「わかりやすく言えば”電話”だ。ざっくり説明すると、魂には固有の電話番号みたいなのがあって、転生してもその先で電話をかければ直接会話が出来る。同じ世界にいれば」

「めちゃくちゃ便利じゃないか。そんな能力、考えもしなかった。チートか?」

 コリーは能力をチート呼ばわりしたが、確かに強い能力だ。

「能力を持っている俺からの発信で会話できるが、ケンとヤイバは能力を持ってないから、俺に発信することができない」

「それでも十分な能力だと思うよ。僕が持ってるのは、剱を仕舞うこと」

 リアンが鞘から剱を出す素振りをすると、”黒雲の剱”が出てきた。さらに、鞘に仕舞う仕草をすると、”黒雲の剱”が消えていく。この能力は”魔族に敗北した異世界”で手に入れた能力である。そのときはノークという少年に転生していた。

「転生者は必ず能力を授かるわけではないし、平民としてただ生きるだけのときもあったから、運かもしれない」

 リアンは鞘に仕舞う以外で目立った能力は持っていないらしい。バンザーも魂通話の能力ぐらいだ。

「ヤイバは何か能力を持ってるか?」

 バンザーはいつまでもここの名前で呼ばずに、転生前の名前で呼んでいる。

「使い方次第だけど……」

 コリーがテーブルを何度もパーで叩く。すると不思議なことに

「音が消えた?」

「ミュートって能力。音が出なくなるから、喋ることも出来ないけど、単独で奇襲をかけるときには便利かな。自分と身につけている衣類しか効果は無いけど」

「他人には効果は無いってことか?」

「そういうこと。試したけど、俺の音だけが消えた」

 3人は長い間離ればなれだった。けれども、3人の会話はまるで毎日会っていたかのようだった。


    *


 雷を伴う豪雨。世田谷区を走行中のパトカーに無線が入る。

「警視庁より捜査員へ告ぐ。午後1時10分、警察庁匿名通報ダイヤルより”東名ジャンクション高架下の倉庫において重傷者がいる”との通報。事件の可能性あり、至急現場へ急行せよ」

 パトカーのサイレンを鳴らして緊急走行。赤信号の交差点へ一時停止と無線で注意を促しながら進入する。現場へ目指すと、すでに覆面パトカーが一台到着していた。

 止む気配が無い豪雨。雨合羽を着て、先着したであろう捜査官のところへ駆け寄り状況を聞くと、

「見つけたのか?」

「はい。しかし……」

 雨音で聞き取りにくい。重傷を負っている人物は、倉庫でぐったりと倒れている。暗いためライトを照らすと、目を疑った。赤い血が大量に服に付着し、倉庫の中までも赤く染まっている。事故……? いや事件だろうか。現場の状況として、フェンスが破られており、周囲に所持品と思われるものが散乱していた。ライトを倒れている人物の顔に当てると、真っ赤に染まって、顔の大半が確認できなかった。顔を覆う包帯は真っ赤に染まり、皮膚の一部が無い。まるで顔を喰われたかのようだった。

「生きているのか……?」

「辛うじて息をしているようですが……」

「救急車は!?」

 遠方から救急車のサイレンが聞こえてくる。要請した救急車がこちらへ近づいているようだ。

「身元は」

「まだ分かりません……。おそらく、女性ということだけ……」

「周辺にカメラは?」

「分かりません……」


To be continued…


【登場キャラ】


・イオ。20歳の青年。最近は日本国内で動いており、10日から11日にかけて、ある人を探している。

・コリー。一条(いちじょう) (やいば)が転生。狐の獣人。過去の転生で、自分の音を消す”ミュート”の能力を手に入れている。

・バンザー。(はがね) 修司(しゅうじ)が転生。ジャガーの獣人。過去の転生で、知っている魂に対して通話をかける能力を手に入れており、転生後に連絡することで再会することが容易になった。

・リアン。黑柄(くろつか) (けん)が転生。犬の獣人。過去の転生で、剱を自由に出せる能力を手に入れた。


 「第15章 急変」に関して。

 3人の合流により、異世界パートは別世界を知っている同士での会話が可能になりました。これからは回想や昔の話が増えるかな。今回の登場人物は全員がカタカナですね。

 ネーミングに関してまた触れると、バンザーはパンサーを濁点にして、リアンはシベリアン・ハスキーから。段々適当に……。

 さて、次回は現代パートが大きく動きます。高架下の倉庫で見つかった人物は果たして……

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