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黒雲の剱 =転生の楔=  作者: サッソウ
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第12章 Case2:転生したら……獣人の異世界

 1998年11月。学校からの帰り道、田園風景のなかを歩く少年2人。夕暮れで遠くの方からカラスの鳴き声が聞こえる。一条(いちじょう) (やいば)は、傘を小さく回しながら歩いている。今朝の登校時に雨が降っていたが、午前中にピークは過ぎ去り晴れに変わった。隣を歩いているのは、黑柄(くろつか) (けん)。刃が自由奔放なタイプであるのに対して、健は真面目で優等生のようなタイプだった。

「健はこのまま帰るか? ちょっとゲームでもしね?」

「いいけど、そろそろ期末テストが近いし、親から怒られないか?」

「期末テスト? 知らない子ですね」

 刃は巫山戯(ふざけ)て言うが、前回の2学期中間テストがあまり良い点数ではなく、お小遣いが減ったらしい。またテストで悪い点数を取れば、そのうちゲーム禁止なんて言われそうだと思う。刃がそれに気付いているかはさておき。

「今日のさ」

「ん?」

「授業で将来の夢とか、未来の自分がどうしてるかって話があったけど、刃は何か夢とかある?」

「さぁ。どうせ、親が公務員って言うから、公務員やってるか……どこかのサラリーマンかな」

「そっか……」

「俺に聞くのが間違いだな。健はあるのか?」

「分からない。漠然(ばくぜん)としていて、将来の事なんて」

「中学出て、高校受けて、大学生になって。まだ先のことだろ」

 刃に聞いても、健の求めているような答えは出てこないだろう。

「親父の請け売りじゃないけど、普通が一番。でも普通は難しいってさ。普通ってなんだろうな」

 刃は道端に落ちていた小石を思いっ切り蹴った。勢いよく転がる小石だったが、少し弾んで用水に落ちていった。

 普通に生きる。将来のことなんてあまり考えもしなかった2人だったが、彼らの人生は1ヶ月もせずに劇的に変化した。


    *


「普通の中学生があれやこれやと巻き込まれ、今や生きているのか死んでいるのか……」

 路地裏で座り込む狐の獣人は、自分の右手を見ながら、何度も握っては開きを繰り返す。転生を繰り返し、ついに人ではなくなった。獣人の隣には、黒い(つるぎ)が立てかけられている。

「親父の言っていた普通が難しいって、そもそも普通って何だよ……」

 ヤイバの転生した世界は、獣人が人間のような生活をしている世界だった。毛むくじゃらだけれど、服を着て二足歩行をしている。犬や猫、虎やライオンなど、哺乳類食肉目ネコ科に属する動物の世界。つまり、獣人ネコの世界。

 バザーで買い物をし、通貨を支払う。眼鏡をかけている獣人もいれば、ピアスをしている獣人もいる。まるで自分達が元いた世界と変わらない。姿が人間か獣かという違いくらいだ。

 1日は何時間だろうか。この世界の時間の進み方は、元の世界よりも早い気がする。

 このままこの世界で新しい生活をするのだろうか……


    *


 8月10日の木曜日。明日、8月11日は祝日の”山の日”であり、お盆の連休に入る人が多いだろう。章良(あきら)は、アポイントメントを取って色々な人から話を聞いていた。

 調べているのは、1998年12月の”平成10年台風第18号”について。しかし、約24年前のことなど、憶えている人がどのくらいいるだろうか。特に、台風被害の多い日本であれは何年のどの台風だったかなんて、そこまで正確に覚えている人はいるのだろうか。

 当時の新聞やニュース動画は入手した。健や刃たちの当時の顔写真を見つけたが、当然ながら章良は見たことがない。これ以上、健たちの過去を調べたところで新しい情報は出てこないだろうか。そろそろ決めるべき頃合いかもしれない。

 考え込んでいると、電話が鳴っていることに気付かず、不在着信が1件。恵菜(えな)からだった。章良から電話をかけると、恵菜はすぐに出た。

「悪い。電話に気付かなかった」

「まだ調べてる?」

「調べていたけど、そろそろ頭打ちになってきたところだな」

「そう……」

「それで、用件は?」

「お願いしていた例の(くだん)について、連絡が入ったから、明日の昼に向かう予定だけど、章良はどうする?」

「どこに向かえば?」

阿波大学(あわだいがく)の理工学部棟。祝日だから、守衛さんのところで電話すれば入れると思うよ」

「了解。13時ぐらいか?」

「私は朝の番組が終わってからだから、もしかしたら2時ぐらいになるかも」

 恵菜は朝の情報番組に出演しており、生放送と打ち合わせが終わってから移動になるようだ。

 阿波大学の理工学部棟には、とある大学教授がいた。もともとは、仕事でアポイントメントを取り、研究内容から仕事ではなくプライベートとして、調査のお願いをしていた。


    *


 8月11日、山の日。徳島県と高知県の県境に位置する、海影町(みかげちょう)。交通網としては、DMVというバスと列車が一体となった乗り物が走っている。恵菜は移動時間の関係でタクシー移動だろうが、章良にはタクシー代がかかるため、バスと鉄道で移動をしていた。徳島市から南下すると、運行本数やかかる時間も長くなり、途中寝ていた。

 DMVがバスから列車に変わるときは、阿波踊りの音楽が流れて車輪を出すため、その前後は起きて車窓から遠くを眺めていた。

 DMVが列車からバスに戻り、国道をしばらく走行して、目的のバス停”阿波大学海影町キャンパス前”に近づいてきた。車内の時計を見ると、12時半だった。大学の食堂は休みだろうから、バス停近くに食堂やレストランなどがあれば、そこで食べるし、閉まっていればコンビニやスーパーを探すくらいの気持ちで、下車した。

 降りると外の暑さを実感する。今日は猛暑日になる予報だった。蝉の鳴き声が五月蠅(うるさ)く聞こえ、一歩歩くとすぐに汗が出る。

「暑い……」

 思わず章良は声を漏らした。冷たい物が食べたくなる。しかし、目に入ってきたのはラーメン屋だった。定食屋やファミレスも歩けば、大学の近くならばありそうな気はするが、移動が車内で涼しかった分、急激な暑さで早く店で涼みたいと思い、探すのを諦めてラーメン屋へ。一歩店内に入ると、かなり冷房が効いていて、そのままテーブル席に座った。お客はカウンターに1人とテーブル席に家族連れがいるぐらいだ。大学の授業がある昼間は学生で混むのだろうか。

 メニューを開いて、真っ先に目に入った”徳島ラーメン”を注文すると、章良は出された水を一気に飲み干し、テーブルに置かれたウォーターピッチャーからコップへ水を注いだ。店内をよく見ると、”たらいうどん”や”祖谷そば”、”半田そうめん”など各種麺類が揃っていようだ。冷たいものを選択しても良かったかと思ったが、徳島ラーメンが運ばれてくる頃には、冷房で体が丁度良いくらいに冷えて、一層美味しさを感じた。

 約束の時間までまだあり、少しゆっくりしてもいいのかもしれない。


To be continued…


【登場キャラ】


一条(いちじょう) (やいば)。西暦1985年生まれと推測。誕生日は5月17日。ジョーム・ファルトに転生後も、ヤイバと名乗っていたため、アキラたちからはヤイバと呼ばれている。獣人の世界へと転生した。

黑柄(くろつか) (けん)。西暦1985年生まれと推測。誕生日は8月2日。カノム・エルメに転生後も、ケンと名乗っていたため、アキラたちからはケンと呼ばれている。ノーク・シャルクに転生し、ディフォルミスと相討ちになって死去。

・刃の父親。刃によると”普通が一番”と言っていたそう。

光規(みつき) 章良(あきら)。”平成10年台風第18号”に関して情報を集めている。恵菜から連絡があり、海影町(みかげちょう)へ向かった。

・一条 恵菜(えな)。情報を探るために、一条という名字にしたがその効果は薄かった。調査を依頼していた大学教授から連絡があり、章良に電話した。


 「第12章」に関して。

 物語は今回から第二部へ突入です。第二部は現代パートと異世界パートの両方で大きな展開がありそうです。海影町は架空の地名ですね。DMVは少し出したかったのと、新しい大学を出そうかなと考え、架空大学名を。DMVはデュアル・モード・ビーグルの略です。

 とあるシーンを書くために、思いのほか早く筆が進むので、更新を繰り上げました。もしかしたら、第13章以降もアップが早いから、繰り上げるかもしれない。次回は現代パートから。


GWでストックが1ヶ月分出来上がったので、5月は毎週更新をします。

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